2015年に公認心理師が国家資格として認められたことから、今後、心理学を学びそれを仕事とすることを望む人が一段と増えるであろう。このような中、「心理学と仕事」と題して、現代日本に存在する20の心理学を取り上げた本シリーズは、まさに時宜を得た企画といえる。
本シリーズは、これから心理学を学ぼうとする高校生や、大学生、心理学の仕事をすることを望む社会人に加え、そういった人達に進路やキャリアの指導をする人にとっても役に立つ内容となっている。特に臨床心理学は数ある心理学の中でも、一般の人がイメージするいわゆる“心のケアの専門家”のバックグラウンドとなっている学問であり、漠然と「心理学を学んで心のケアをしたい」と思っている人には絶好の入門書といえる。
個人的にはこのような書籍がかねてより必要であると感じてきた。というのも、「臨床心理学を学びたい」「心理職になりたい」という相談を受けると、「仕事としてどのくらいリアルに理解しているのだろう」と疑問を感じることがあった。といって、「これさえ読めばリアルな仕事のイメージが持てる」と紹介できる成書も思い当たらなかった。この感覚は、大学院に進学して臨床心理学を学び始めた大学院生にも感じてきた。実際にはどういう職域があるのか、どんな職場があり、そこで具体的に何をするのか、日々どんな生活を送るのかについて具体的なイメージが持てないまま、卒業後の進路として、自身が見聞きしたことのあるスクールカウンセラーや医療の心理職を安易に選んでいるように見えて、大学院での学びと仕事をつなげて理解してもらう必要があると常々考えてきた。
このギャップを埋めるためには、臨床現場で仕事をしている心理職にそのリアルを伝えてもらうのが一番である。このような問題意識から、2015年度の臨床心理学コースの授業で、臨床心理学の様々な領域で臨床実践を行っている心理職をゲスト講師として迎え、大学院生に講義をしてもらった。実は、本書の執筆者はその授業のゲスト講師であり、その時の講義内容をベースとして執筆いただいた。
本書では、「医療・保健領域」、「学校・教育領域」、「産業・組織領域」、「司法・矯正領域」、「福祉領域」の5領域を取り上げ、各領域で心のケアを仕事としている実践者が、その領域に必要な知識、実践、今後の展望と課題を自身の体験を交えて概説している。本書を読むと、同じ心理職といっても、領域によって職場の職名や立場、実際の業務内容、どういう人達と一緒に働くのかなど、実に多様であることがご理解いただけるであろう。臨床現場ならではのリアリティのある解説によって、各領域の心理職の仕事の実際を深く理解するとともに、幅広い選択肢から自身の関心を探ることができる内容となっている。漠然と「心理学を学んで心のケアをしたい!」と思っている人には、進路選択やキャリア選択をする際に是非一読いただきたいと思う。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 高橋 美保 / 2017)
本の目次
第2章 医療・保健領域の仕事
1節 医療保健領域の臨床心理学の概要 / 2節 総合病院で勤務する臨床心理学の専門家の実際 / 3節 医療保健領域の今後の展望と課題
◎現場の声1 医療保健領域の臨床心理士
第3章 学校・教育領域の仕事
1節 学校・教育領域と臨床心理学の専門家 / 2節 臨床心理学の専門家が学校・教育領域で出合う問題と支援の実際 / 3節 スクールカウンセリングの今後の展望と課題
◎現場の声2 学校・教育領域の臨床心理士
第4章 産業・組織領域の仕事
1節 産業・組織領域の臨床心理学の知識 / 2節 企業で働く臨床心理学の専門家の実際 / 3節 産業・組織領域の今後の展望と課題
◎現場の声3 産業・組織領域の臨床心理士
第5章 司法・矯正領域の仕事
1節 司法・矯正領域における臨床心理学の知識とは / 2節 家庭裁判所調査官と法務技官 (心理) の実際 / 3節 司法・矯正領域の今後の展望と課題
◎現場の声4 司法・矯正領域の臨床心理士
第6章 福祉領域の仕事
1節 福祉領域の臨床心理学の知識 / 2節 児童福祉施設と児童心理治療施設の実際 / 3節 福祉領域の今後の展望と課題
◎現場の声5 福祉領域の臨床心理士
第7章 臨床心理学と仕事
1節 はじめに / 2節 発達障害支援と臨床心理職の仕事 / 3節 臨床心理職の仕事とチームワーク / 4節 おわりに