本書は、心理的問題の解決支援専門職 (国家資格) である「公認心理師」を目指す学生の必携書である。
わが国のメンタルヘルスは深刻な問題を抱えている。例えば、うつ病 (双極性障害を含む) 患者は、この20年間で約3.5倍となり100万人を越えて高止まりとなっている。医療機関への受診率は低く、実際にはこの4倍の患者がいるとされる。しかも、メンタルヘルス領域では、精神科薬物の多剤大量処方の問題が起き、「薬漬けにされる」といった、薬物療法への不信が高まっている。このようなメンタルヘルス問題の改善に向けて、2018年に公認心理師法が施行となった。したがって、「公認心理師」は、我が国のメンタルヘルス問題の解決の切り札と期待される。
そこで、東京大学では資格取得を目指す学生のために学部及び大学院において公認心理師養成カリキュラムを開設した。学生は、まず学部において心理学を基礎学問として学んだ上で心理的問題解決の実践技法の習得を目指すことになる。その心理技法として最も重要となるのが、薬物療法と同等ともいえる治療効果が実証されている認知行動療法である。
本書は、この認知行動療法を学ぶ上でベストな書物である。その理由は2つある。ひとつは学習メディアとしての形態、もうひとつは内容である。まずメディアとしては、認知行動療法の講義動画と組み合わせて学ぶe-ラーニング教材となっている点がある。本書は、公認心理師養成カリキュラムの主要科目を、そのテーマのエキスパートが解説する講義動画シリーズ「臨床心理フロンティア (https://cpnext.pro/)」と連携して学ぶ形態となっている。もちろん本書を読むだけでも認知行動療法を習得することはできる。しかし、臨床心理フロンティアの講義動画視聴と本書を併用することで認知行動療法の知識と技能の習得度は飛躍的に高まる。しかも、内容は、認知行動療法の基本から最新動向まで段階的、体系的に学ぶことができる構成となっている。第1部では、精神分析やカウンセリングと比較して認知行動療法の特徴を明らかにし、実践のための基本的態度が示される。次に第2部ではエクスポージャー法、オペラント学習、認知再構成法といった基本技法が解説される。第3部では介入方針を策定するケース・フォーミュレーションの技法が紹介され、最後の第4部で最新動向である新世代の認知行動療法が解説される。
認知行動療法は、メンタルヘルスの問題を抱えた人自身が自己理解や自己治療のために活用できるセルフヘルプの技法でもある。したがって、本書は、公認心理師を目指す学生だけでなく、メンタルヘルスの改善を望む多くの人々に活用していただきたい書物である。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 下山 晴彦 / 2018)
本の目次
第1部 公認心理師のための認知行動療法の学び方
第1章 内容の概略
第2章 環境と人間の相互作用をみる
第3章 クライエントと並ぶ関係を創る
第4章 共感を基本とする
第5章 認知行動療法におけるアセスメント
第6章 ケース・フォーミュレーション
第7章 認知行動療法は、過去を無視する?
第8章 現実に介入する
第9章 効果のある技法を用いる
第10章 まとめ
第2部 認知行動療法の基本技法を学ぶ
第1章 認知行動療法の特徴
第2章 認知行動療法の基本要素
第3章 ポイント1: ケース・フォーミュレーション
第4章 ポイント2: エクスポージャー法
第5章 ポイント3: オペラント学習
第6章 ポイント4: 認知再構成法
第7章 認知行動療法セラピストの役割
第3部 ケース・フォーミュレーション入門
第1章 内容の概略
第2章 ケース・フォーミュレーションとは何か
第3章 ケース・フォーミュレーションの要素
第4章 ケース・フォーミュレーションの種類
第5章 ケース・フォーミュレーションの作り方
第6章 機能分析
第7章 認知モデル
第8章 維持要因としての役立たない不安対処
第9章 問題維持パターンと介入のポイント
第4部 新世代の認知行動療法を学ぶ
第1章 新世代の認知行動療法とは
第2章 行動療法の系譜から
第3章 事例に基づく理解:広場恐怖
第4章 言語行動の光と影
第5章 ACTの進め方