東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

パステルカラーのタイル模様

書籍名

臨床心理学入門

著者名

スーザン・レウェリン (著)、ケイティ・アフェス-ヴァン・ドーン (著)、 下山 晴彦 (編訳)

判型など

248ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2019年3月22日

ISBN コード

978-4-13-012115-6

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

臨床心理学入門

英語版ページ指定

英語ページを見る

現在、我が国におけるメンタルヘルス対策は大きな転換点を迎えている。2015年に公認心理師法が国会で成立し、2019年には国家資格を有する実践心理職 (practitioner psychologist) である公認心理師 (licensed psychologist) が活動を開始した。国家資格となることは、実践心理職が国のメンタルヘルス政策に責任もとって関与することである。そのために日本の実践心理職は、臨床心理学をしっかり学び、その専門性を高めることが強く求められている。

本書は、英国の臨床心理学の専門活動及びその教育訓練を簡潔に解説した書物である。英国の臨床心理学は、コミュニティに根付いた活動としては世界で最も進んでいる。その点で日本の心理職の今後の発展に向けてとても参考になる。特に臨床心理学の初学者にとっては、とても“わかりやすい”内容となっている。臨床心理学の基本が整理され、体系的にまとめられており、各章末には訳者による論点整理も付記されているからである。その点では入門書といえる。これからの日本のヘルスケアを担っていく若い公認心理師や、公認心理師を目指して学んでいる学生が“臨床心理学の未来”を知る上で格好のテキストとなっている。公認心理師カリキュラムの中心科目である「臨床心理学概論」のテキストとして最適である。

ただし、本書は、単なる入門書ではない。世界標準の臨床心理学のエッセンスがしっかりと盛り込まれているからである。しかも、現場で働く実践心理職の視点から、現代臨床心理学の最前線が描かれている。読者は、英国のヘルスケアの現場で活躍する実践心理職の活動の実際を体験的に知ることができる。多職種チームのリーダーとして活躍する実践心理職の姿が、事例とともに具体的に描かれているのが、本書の最大の魅力である。しかも、本書の内容は、日本の実践心理職にとって、とても馴染みやすいものとなっている。公認心理師は、科学者 - 実践者 (scientist-practitioner) モデルに基づくとされているのだが、「日本人にとって心理職が科学者であるというのは、冷たい印象で肌に合わない」との意見が多く聞かれる。その点に関して本書は、“内省的科学者 - 実践者 (reflective scientist-practitioner) モデル”という、新しい概念を提示している。それは、日本人の感性にも馴染む柔軟なモデルである。

したがって、本書は、日本の実践心理職がこれから学ぶべき臨床心理学のあり方を、多数の事例とともに具体的に解説した実践書となっている。本書を読むことで多くの日本の実践心理職は、自らの仕事に自信と希望と、そして誇りを持つことができるようになることを確信している。

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 下山 晴彦 / 2019)

本の目次

第1講 臨床心理学とは何か
第2講 臨床心理職の専門性(1)
第3講 臨床心理職の専門性 (2)
第4講 心理支援を利用する人々 (1)
第5講 心理支援を利用する人々 (2)
第6講 臨床心理職の技能
第7講 臨床心理学のモデル
第8講 臨床心理職として働くために (1)
第9講 臨床心理職として働くために (2)
第10講 臨床心理学の最前線 (1)
第11講 臨床心理学の最前線 (2)
第12講 発展する臨床心理学 (1)
第13講 発展する臨床心理学 (2)
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています