東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

山吹色の表紙に医療関係のイラスト

書籍名

医療技術評価ワークブック 臨床・政策・ビジネスへの応用

判型など

232ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2016年6月

ISBN コード

9784840748490

出版社

じほう

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

医療技術評価ワークブック

英語版ページ指定

英語ページを見る

医療技術評価とは、「費用対効果をはじめ、さまざまな面から医療技術が健康改善に及ぼす影響と価値を評価する学際的な研究、また、その成果を臨床や医療政策に応用するプロセス」を意味します。英語ではHealth Technology Assessmentの頭文字をとってHTAと呼ばれますが、その世界の変革の波はわが国にも押し寄せてきました。厚生労働省は、2016 年4月より新たなHTA制度を立ち上げ、薬価算定時の費用対効果評価の試行的導入を開始し、2019年度に制度化を行いました。これは、我が国の医療行政が、グローバルスタンダードとなった「価値に基づく政策決定」に踏み出す新たな時代への一歩であり、今後の展開が国際的にも注目されるところです。
 
本書は、その世界の変化に関心をもち、グローバルに対応できる新たな専門性を養いたいと考える人のためのワークブックです。学部学生、大学院生、臨床・政策・ビジネス関係者など幅広く医療に関心をもつ・関与する人なら誰でも読者の対象となります。なぜなら、本書はその新しいアプローチのゆえに、これまでほとんど誰にも学校で教えられることがなかった内容を多く含むからです。そのため、医療技術評価の基本的な考え方をはじめ、関連する医学統計学や疫学・公衆衛生の基礎知識も含めて、最先端の手法研究の紹介までを、できるだけ広く深くかつ平易に解説しようと試みました。
 
出版に際し、東京大学大学院医学系研究科の公衆衛生学・小林廉毅教授より以下の推薦文を頂きましたので、ここに全文をご紹介します:
 
「医療技術評価に関わる待望の標準テキストが、この分野の第一人者 鎌江伊三夫教授の執筆により刊行されることになった。医療技術評価は、医療における技術発展と財政逼迫の下で、医療が人々にもたらす最善の価値を実現する有力なツールであり、グローバルなヘルスケアの世界では必須の知識・ノウハウである。すでに、カナダ、オーストラリア、英国、韓国などユニバーサルヘルスカバッレジの国々では、医療技術評価は医療システムの中で「制度化」されている。
 
わが国においても、医療の現場のみならず、成長戦略としての医療技術の海外展開の観点からも、避けて通れない課題である。しかるに、この分野の日本語の成書は10年以上以前に出版されたものがわずかにあるのみで、グローバルな「制度化」の流れに取り残されていた。
 
鎌江教授の手になる本書は、医療技術評価方法論のわかりやすい解説に加えて、医療技術評価の「制度化」に欠かせない3本の柱、すなわち、(1) 制度・政策、(2) ガイドライン、(3) 評価組織のあり方まできちんと目配せした包括的な内容で構成されている。しかも演習問題や応用編も付されており、「ワークブック」としても申し分ない仕上がりである。
 
これからこの大きな課題に取り組もうとする人すべてに推薦したい指南書である。」
 

(紹介文執筆者: 公共政策大学院 特任教授 鎌江 伊三夫 / 2021)

本の目次

知っておきたい基礎知識
1 医療技術評価 (HTA) とは何か
2 価値に基づく医療と経済評価
3 費用効果分析の基本
4 費用対効果の判定
5 費用対効果の順位表
6 よくある誤解
7 用語の混乱
 
II  医療技術評価の新制度
1 これまでの日本の制度
2 新しい制度導入への流れ
3 2016 年度試行的導入の概要
4 本格導入への課題
 
III  厚生労働省の分析ガイドライン
1 ガイドラインの目的
2 分析の立場
3 分析対象集団
4 比較対照
5 追加的有効性・安全性
6 分析手法
7 分析期間
8 効果指標の選択
9 データソース
10 費用の算出
11 公的介護費用・生産性損失の取扱い
12 割引
13 モデル分析
14 不確実性の取扱い
15 報告・公開方法
 
IV  総合的評価 (アプレイザル) をどう行うか
1 総合的評価とは何か
2 批判的吟味の基本
3 組織のアプレイザル
4 批判的吟味の事例 (1)
5 批判的吟味の事例 (2)
 
評価力アップのための演習
1.統計・臨床疫学の基礎
1 月間薬剤治療費
2 疫学調査
3 必要症例数 (1)
4 必要症例数 (2)
5 肺がん検査と決定樹
6 治療必要数 Number Needed to Treat (NNT)
2.経済評価の手法
1 割引
2 基準的賭け法 Standard Gamble Method
3 時間得失法 Time Trade-off Method
4 大腸ポリープ切除のCEA
5 メタボリック症候群のマルコフモデル
6 散布図
7 費用効果受容曲線 (CEAC) (1)
8 費用効果受容曲線 (CEAC) (2)
9 費用効果受容曲線 (CEAC) (3)
10 費用効果受容曲線 (CEAC) (4)
11 財政影響分析 (BIA)
12 予算制限とICER
3.ビジネス戦略
1 障害かチャンスか
2 スペシャリストの学際性
3 社内プロジェクト
4 外部コンサルティング
5 成果情報の発信
6 薬価と加算率
7 評価対象の選定基準
 
VI  中級レベルの手法
1 医学診断と決定分析
2 QALYの算定と問題点
3 増分純便益 (INB) と費用効果受容フロンティア (CEAF)
4 効率的フロンティアとイノベーション
5 完全情報の期待価値 (EVPI)
6 ロジスティック回帰とリスク推定
8 コックス比例ハザードモデル
9 プロペンシティスコア分析
10 ベイズ統計学のアプローチ
 
VII  先端研究トピックス
1 費用効果関数とICER
2 接線ICERによる区間推定
3 平均費用かICERか
4 対照選択の違いによるICERの変化
5 ICER閾値の多重基準
6 ICERと財政インパクト
7 ICER公式と日本型準VBP
8 ベイズ統計学による薬価再算定
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています