東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

赤いカバーに日英タイトル

書籍名

標準ベイズ統計学

著者名

ピーター・D・ホフ (著)、 入江 薫、 菅澤 翔之助、 橋本 真太郎 (訳)

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年6月1日

ISBN コード

978-4-254-12267-1

出版社

朝倉書店

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標準ベイズ統計学

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北米の大学院教育で広く用いられているベイズ統計学の教科書の日本語訳。原著第一版が刊行されたのは2009年。マルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC) が普及し、多くの学問分野でベイズ法が実践され、その有効性が広く認識された1990-2000年代のいわゆる "the MCMC era" の最中である。それから13年が経ち、ベイズ統計学の多くの分野で研究の進展が見られる一方で、本書の重要性はいささかも減じていない。むしろ初学者を研究の最前線へと準備させるベイズ統計学の "A first course" として、その価値を増しているように思われる。
 
日本語版への序でも繰り返されているが、本書の想定読者は「非ベイズ的な統計学にいくらか習熟した」方である。東大でいえば、前期教養科目「基礎統計」や経済学部科目「統計I, II」相当の内容が前提となっているといえよう。その理由は、本書では点推定や仮説検定の基礎的な手法が失敗する、もしくは直接適用することが困難となるデータ分析の実例を挙げて、もってベイズ統計学の手法を学習する動機とし、また比較を通じてベイズ的手法の理解を促しているからである。
 
魅力的なデータ分析の実例も本書の特徴のひとつである。多くの章が実データの紹介から始まり、そこに現れる統計学的な問題の検討を通じて、読者の学習意欲を喚起する。「集団における伝染病の感染率を調べるために、20人をランダムサンプリングした結果、感染者は0人だった。感染率に関する不確実性をどう評価するか」。2009年に出版された原著の最初の例題は、はからずも2022年現在、多くの読者が重要性を痛感する生きた例となった。この例において、非ベイズ的な (ワルド) 信頼区間は0の一点に退化し、区間とならない。
 
原著者の教育の成果とみられる記述も多く見られる。第六章でMCMCを解説する際には、かなりの紙面を割いて、MCMCは単なる計算手段であり、それ自体がデータ分析上の知見を生み出すわけではないことを強調している。これは長年の専門家にとっては自明なことで「わざわざ書かなくても分かること」かもしれないが、初学者によくある誤解のひとつなのだ。そのほかにも、詳細な式展開、Rコードの実例、分析結果の解釈、歴史的経緯や参考文献など、簡潔な記述の教科書ではしばしば省略される記述に富む本書は、独学のための使用にも十分耐えうるものとなっている。
 
書名の「標準」の一語は、実は出版社の薦めに従って付けたものに過ぎないのだが、あらためて本書でカバーされる内容を振り返ると、ベイズ統計学を初めて勉強する者にとって「標準」的なトピックが厳選されていると言えそうだ。訳者一同は、むろん、そのように断言するわけではないが、我々自身の教育・研究経験と、国内外の最新動向との情報を組み合わせて、高い確度でそう信じるものである。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 講師 入江 薫 / 2022)

本の目次

1. 導入と例 (入江)
2. 信念、確率、交換可能性 (橋本)
3. 二項モデルとポアソンモデル (橋本)
4. モンテカルロ近似 (橋本)
5. 正規モデル (入江)
6. ギブスサンプラーによる事後分布の近似 (入江)
7. 多変量正規モデル (橋本)
8. グループ比較と階層モデリング (菅澤)
9. 線形回帰 (入江)
10. 非共役事前分布とメトロポリス・ヘイスティングスアルゴリズム (菅澤)
11. 線形・一般化線形混合効果モデル (菅澤)
12. 順序データに対する潜在変数法 (菅澤)

関連情報

原著:
Peter D. Hoff, A First Course in Bayesian Statistical Methods, Springer, 2009.
https://pdhoff.github.io/book/

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