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書籍名

共立講座 数学の魅力 11 現代数理統計学の基礎

著者名

久保川 達也 (著者)、 新井 仁之、小林 俊行、斎藤 毅、吉田 朋広 (編)

判型など

324ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年4月

ISBN コード

978-4-320-11166-0

出版社

共立出版

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現代数理統計学の基礎

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データから有益な情報を引き出して意思決定など今後の行動に利用することは様々な分野において重要である。近年、ビッグ・データとかデータ・サイエンスという言葉を耳にするようになってきたが、データの価値やデータ解析の重要性が広く認識されるようになってきた。
 
データは数字を羅列したものであるが、単なる数字の羅列で終わらせないところに統計学の醍醐味がある。そこで大事なのが確率分布という概念である。統計的推測の分野では、データはランダムネスを伴った確率現象として現れると捉える。言い換えると、データは何らかの傾向性をもって発生している。その傾向性を確率分布としてモデル化し、データはその確率分布に従って発生すると捉えるのが推測統計の考え方であり、その土台となる数学を提供するのが数理統計学という学問である。従って、データの背後に確率分布もしくは確率モデルという知的な世界を描き、そこに隠れている真理をデータから引き出すことが可能になる。このように、データを単なる数字の羅列から知的財産に変えることができるのが、統計学の面白さといえる。
 
数理統計学については多くの優れた教科書がすでに出版されているが、マルコフ連鎖モンテカルロ法、ブートストラップ法、EMアルゴリズムなどの計算統計学や線形回帰モデルの変数選択法、ロジスティック回帰モデルなど、近年広く利用されている内容を盛り込んでいるのが本書の特徴とある。
 
本書は3部から構成されており、第1部は、確率、確率分布の基本的な事項、第2部は、標本分布、統計的推定、仮説検定など確率分布に関する推測方法を扱う。ここまでの範囲が数理統計学の基本であり、経済学部では3・4年生対象の講義で学ぶことになる。第3部では、線形回帰モデル、リスク最適性の理論、計算統計学の方法、確率過程について発展的な内容を扱い、学部4年生から大学院修士課程1年生で学んでほしい内容である。なお章末問題が豊富に用意されており、その解答が https://sites.google.com/site/ktatsuya77/ に置いてあるので、理解を深めるのに役立つであろう。
 
本書は、統計学の中でも推測統計の内容を数学的に扱うことを中心に書かれている。数理的に理解することは、統計的方法をより深く理解することを助けるとともに、将来統計手法を発展させ応用させる際に柔軟に対応する能力を培うことができる。一方で、「生きた統計学」を身につけるためには、具体的なデータ解析のイメージを想像しながら学ぶことが大切である。そうした意味から、具体的な応用例が豊富な統計学の入門書を用いてデータ解析の醍醐味、有用性、動機付けを学んでから本書を読み進めていくことを勧める。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 久保川 達也 / 2018)

本の目次

  目  次
第1章 確率
  1.1 事象と確率
  1.2 条件付き確率と事象の独立性
  1.3 発展的事項
第2章 確率分布と期待値
  2.1 確率変数
  2.2 確率関数と確率密度関数
  2.3 期待値
  2.4 確率母関数,積率母関数,特性関数
  2.5 変数変換
第3章 代表的な確率分布
  3.1 離散確率分布
  3.2 連続分布
  3.3 発展的事項
第4章 多次元確率変数の分布
  4.1 同時確率分布と周辺分布
  4.2 条件付き確率分布と独立性
  4.3 変数変換
  4.4 多次元確率分布
第5章 標本分布とその近似
  5.1 統計量と標本分布
  5.2 正規母集団からの代表的な標本分布
  5.3 確率変数と確率分布の収束
  5.4 順序統計量
  5.5 発展的事項
第6章 統計的推定
  6.1 統計的推測
  6.2 点推定量の導出方法
  6.3 推定量の評価
  6.4 発展的事項
第7章 統計的仮説検定
  7.1 仮説検定の考え方
  7.2 正規母集団に関する検定
  7.3 検定統計量の導出方法
  7.4 適合度検定
  7.5 検定方式の評価
第8章 統計的区間推定
  8.1 信頼区間の考え方
  8.2 信頼区間の構成方法
  8.3 発展的事項
第9章 線形回帰モデル
  9.1 単回帰モデル
  9.2 重回帰モデル
  9.3 変数選択の規準
  9.4 ロジスティック回帰モデルと一般化線形モデル
  9.5 分散分析と変量効果モデル
第10章 リスク最適性の理論
  10.1 リスク最適性の枠組み
  10.2 最良不偏推定
  10.3 最良共変 (不変) 推定
  10.4 ベイズ推定
  10.5 ミニマックス性と許容性の理論
第11章 計算統計学の方法
  11.1 マルコフ連鎖モンテカルロ法
  11.2 ブートストラップ
  11.3 最尤推定値の計算法
第12章 発展的トピック:確率過程
  12.1 ベルヌーイ過程とポアソン過程
  12.2 ランダム・ウォーク
  12.3 マルチンゲール
  12.4 ブラウン運動
  12.5 マルコフ連鎖
A 付録
  A.1 微積分と行列演算
  A.2 主な確率分布と特性値
  A.3 参考文献
 

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