SIAM Journal on Scientific Computing (Volume 45, Issue 2) Dynamic finite-budget allocation of stratified sampling with adaptive variance reduction by strata
英語
2023年
1064-8275
Society for Industrial and Applied Mathematics
実用レベルで求められる確率モデルは、近年際限なく大規模かつ複雑になり続けており、それらの確率モデルから何らかの示唆を得るためには、極めて重厚な数値計算に頼らざるを得ない問題設定が大多数を占めるにいたりました。逆を言えば、数値計算能力が日進月歩で際限なく向上しているために、大規模かつ複雑な確率モデルを導入できるようになり、それに伴って実際に導入されていると言うこともできます。この、いわゆる「鶏が先か、卵が先か」といった事象は、データサイエンスやAIという最先端技術分野においてだけでなく、計量経済学、経営学さらには社会学といった様々な人文社会科学分野においても同様に起こっており、そういった極めて重厚な数値実験の計算結果、さらにそこから得られる示唆は、人文社会科学分野ならば、たとえば投資、経営判断や社会分析においてもはや必要不可欠なものとなっています。
数値実験においては、どれくらいの計算時間をかけると、およそどれくらい(未知の)真値に近い結果を得ることができている「はず」なのか、ある程度あらかじめ知っておきたいところです。というのも、そういった事前知識なしに無造作に計算機を走らせるとなると、ただただ闇雲にそして無意味に貴重な時間や計算資源(たとえば電力)を浪費していることにもなりえるためであり、費用対効果の事前知識は大規模な計算において特に重要になることは容易に想像できます。具体的には、時間さえかければ確実に未知の真値に収束するという保証、さらに真値からの誤差と計算に要する時間の費用対効果を、理論的に、かつ (空想レベルではなく) 実装レベルで事前評価したいということになります。
本著は、大規模計算における計算効率を向上させる様々な手法 (具体的には重点サンプリング法、制御変数法、層化抽出法といった分散減少法) を同時に、かつ限りなく一般的な形状で実装し、さらに収束保証と誤差評価、そして計算資源の最適執行や反復計算の最適停止判定といった実装レベルにおいて考察が必要不可欠な諸問題にまで踏み込んだ、極めて体系的な分析に成功しました。本著のアプローチを適用すれば、事前知識を十分に持った上で、大規模かつ複雑な確率モデルにおける重厚な数値計算に臨むことができるため、様々な人文社会分野の、具体的には効果的な投資、経営判断や社会分析等の一助となるものと願っています。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 河合 玲一郎 / 2023)