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蛍光イエローの表紙

書籍名

算数から始めて一生使える確率・統計

著者名

佐々木 彈

判型など

224ページ

言語

日本語

発行年月日

2019年12月16日

ISBN コード

978-4-309-24864-6

出版社

河出書房新社

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算数から始めて一生使える確率・統計

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小学校で初めて習う四則計算を別とすれば、算数・数学のうち圧倒的に「世の中へ出て役に立つ」のが確率・統計です。「つるかめ算」「三平方の定理」「二次方程式」など学校を卒業したら一生使わない人たちが多い中で、天気予報や保険料などの例を引くまでもなく、確率・統計は多くの人たちが一生、日々の生活の中で日常的に使うものです。また、報道や書物を正しく読解し、世に氾濫する情報を正しく理解する上でも、確率・統計の基礎は必須です。
 
本書は、いわゆる「十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人」のような学校の勉強と後の社会生活との断絶を防ぐべく、学校の算数・数学の補習や受験勉強にも、大学や会社に「受かってから」も一生使い続けることのできる確率・統計の「これだけは知っておきたい」基礎知識を、かなり無理して1冊に凝縮してみました。
 
序章では、確率・統計的な頭の準備運動として、日常的なトリビアを読者の皆さんとご一緒に考えてみます。天気予報で「雨の確率50%」は「予報に自信が無い」って意味? 損に決まっているのに宝くじはなぜ売れるの? 健診で元気な人たちが大量に引っ掛かるのはなぜ? 等々。
 
続く基礎編では、まず確率・統計を「読む」ところから始めます。小学校で習う「統計」と言えば、専ら「表とグラフ」ですが、実はこれが意外と確率・統計の本質に関わっています。他方、図表を使わずに統計を読み取るのが「記述統計」です。平均点とか、皆さんお馴染の「偏差値」とか、要するに大した「分析」をしなくても簡単に計算できる統計的性質が記述統計です。
 
次に理論編では、もう一歩進んで、確率・統計の理論を、数学的詳細を必要最小限に抑えつつ、急ぎ足でご紹介します。統計学の考え方を一口に言えば、ある外生的なメカニズム (「データ生成過程」という) から確率的に生成されたのが、実際に観察されるデータだ、というものです。データに基づき、その背後の生成過程を推測するのが「推定」、逆にある生成過程を仮定し、それがデータと矛盾するかを判断するのが「検定」です。
 
最後に応用編として、データに基づき有用な仮説を立てそれを検証する「計量分析」と、確率的な環境下で最適な行動を選択する「意思決定理論」とをご紹介します。
 
このように確率・統計を考え、学ぶことで、翻って日常生活や実社会の中に潜在していた統計的な思考や言説を再発見し、それらに新たな意味付けができれば、本書の目的は十分以上に達せられたと言うべきでしょう。

 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 佐々木 彈 / 2020)

本の目次

序章 日常生活と確率・統計
0-1 天気予報が「降水確率○○%」と言うのは、自信がないから?
0-2 宝くじ屋はなぜ潰れないのか?
0-3 元気な人が健康診断で引っかかるのは、産業医のヒマつぶし?
0-4 反原発を叫びながらタバコを吸っている人はいませんか?
0-5 学校の成績はいったい何を測っているのか?
0-6 着陸したらベルトを外す人? 締める人?

基礎編 リテラシーとしての確率・統計
第1章 小学校算数の「統計」――表とグラフ

1-1 時間を追った変化「時系列」とそれを描く「折れ線グラフ」
1-2 「分布密度」を描く「柱状グラフ」
1-3 縦軸と横軸、2つの変量の「同時分布」を描く「散布図」
1-4 縦に足して横に足す「クロス集計」と「周辺分布」
1-5 練習問題

第2章 記述統計――数値で見るデータの性質
2-1 データの広がりを表す「範囲」=「最大」-「最小」
2-2 足して員数で割る「平均」
2-3 偏差値ってどう計算するの?……「分散」と「標準偏差」
2-4 ちょうど真ん中の人はどこ?……「中央値」と分位点
2-5 世間相場はどのくらい?……「最頻値」
2-6 「歪度」(分布の非対称)と「尖度」(分布の裾の重さ)
2-7 算数のできる子は国語もできる?……「共分散」と「相関係数」
2-8 算数ができると国語はどのくらいできる?……「回帰係数」と「回帰式」
2-9 練習問題

第3章 小中学校の「確率」――場合の数、集合
3-1 「確からしさ」を表す0から1までの数……「確率」って何だ?
3-2 「何」の起こる確率?……「事象」と「基本事象」
3-3 場合の数と確率……和の法則・積の法則・順列・組合せ
3-4 集合と確率……「和集合」と「積集合」
3-5 事象と確率……「和事象」と「積事象」
3-6 確率が計算できないとき……確率を推測する
3-7 【数学好きのために】確率空間の定義
3-8 練習問題

理論編 確率・統計で物事を見聞する
第4章 高校数学からの「統計」――確率と統計の架橋

4-1サイコロの目、硬貨の表裏……「確率変数」
4-2 目のデタ記録「データ」とそれを出す「生成過程」
4-3 どの目がどれくらいの確率で出るか……「確率分布」
4-4 データを増やせば真の確率分布がわかる……「大数の法則」
4-5 時間を追って変化する確率変数……「確率過程」
4-6 時間を追った変化を記録した「時系列データ」
4-7 中央が厚く両裾が薄い釣鐘形の「正規分布」
4-8 正規分布ってどう偉いの?……「中心極限定理」
4-9 練習問題

第5章 データから事実を復元する――推定
5-1 データの関数「統計量」と「推定量」
5-2 過大評価も過小評価もしない「不偏推定」
5-3 最も御尤も?な「最尤推定」
5-4 ピンポイント「点推定」と幅のある「区間推定」
5-5 データ生成過程を復元する「構造推定」と、予測だけの「誘導型推定」
5-6 練習問題

第6章 データにより仮説の真贋を鑑別する――検定
6-1 「帰無仮説」(「有意でない」)と「対立仮説」(「有意である」)
6-2 「片側検定」(X>Y)と「両側検定」(X≠Y)
6-3 どのくらい強い証拠なら採用?……「有意水準」
6-4 「第一種過誤」(冤罪) vs 「第二種過誤」(捕り逃し)、「検出力」
6-5 証拠の強さを測る「検定統計量」
6-6 練習問題

応用編 確率・統計を実用する
第7章 確率・統計で現実を説明する――計量分析

7-1 「母集団」(全数)とそこから抽出された「標本」
7-2 単変数データから分布を推計
7-3 時系列データから将来を予測
7-4 多変数データから変数間の関係を復元する「回帰分析」
7-5 練習問題

第8章 確率・統計で行動する――意思決定理論
8-1 2つの思考言語:「展開型」vs「正規型」
8-2 「樹形図」を用いた展開型意思決定
8-3 「戦略」を用いた正規型意思決定
8-4 合理的意思決定とは何か
8-5 練習問題

関連情報

書籍紹介:
所員の著書 (東京大学社会科学研究科ホームページ)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/publishments/books/2019/dsasaki_2019_12.html

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