急速な社会のデジタル化の進行の中で、仕事や研究の場でデータの存在とその活用への期待が顕在化してきています。その中で、データを扱う基本的な能力として、目的に応じてデータを収集分析し、その結果を正しく解釈して課題解決に繋ぐ技術と思考力が求められています。日本政府においてもAI戦略として、このような能力を有する数理・データサイエンス・AI 関連の人材育成を企図して、初等中等から大学等高等教育、企業等での社会人のリスキリング教育に至るまで、体系的な教育改革を強力に押し進めているところです。
この状況を踏まえ、一般社団法人日本統計学会と一般財団法人統計質保証推進協会では、既にひろく教育機関や企業で活用されている「統計検定」の枠組みの中で、データサイエンス教育の国内外のガイドラインやモデルカリキュラムと学習指導要領に沿ったデータサイエンス人材の質評価の認定を行うため、「データサイエンス基礎」、「データサイエンス発展」、「データサイエンスエキスパート」の3水準の能力評価システムを開発し、試験を実施しています。
本書は、その中で「データサイエンス発展」の出題範囲に合わせて作成された公式テキストです。データサイエンス発展は、倫理・AI、数理、情報、統計に関する大学教養レベルの問題で構成されており、その出題範囲は、数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムが策定・公表したスキルセットおよびモデルカリキュラム (リテラシーレベル) に準拠したものです。データサイエンスの実践においては、数理、情報、統計に関する幅広い知識と、それらの知識を組み合わせて活用する能力が求められます。またデータの扱いやデータ分析から得られた結果の実装においては、倫理的な側面の考慮も必須です。本書はこのよう観点からの多様な例題を中心に構成され、例題を解き基本的事項の説明を理解することによって、試験の準備ができるようになっています。
具体的には、本書は8つの章と付録で構成されています。まず、2章から5章では基礎的項目が説明されています。6章と7章では、それぞれデータサイエンス発展の1分野単独問題と2分野複合問題に該当する例題とその正解、および正解にたどり着く道筋が解説されています。8章には模擬試験問題があり、データサイエンス発展と同様の出題傾向、問題数も本番と同じ形式の模擬問題を解きながら、試験対策を行うことができるようになっています。
俯瞰的に申し上げれば、本書一冊の内容を習得できれば、データサイエンティストとして要求される幅広い知識や倫理的側面、それらを組み合わせて活用する能力の (「すべて」には程遠いですが)「相当な程度」をマスターしたことになります。したがって、本書がデータサイエンス発展の試験対策だけではなく、社会で活躍できるデータサイエンティストとして必要な能力を身につける一助となれば、うれしい限りです。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 / 数理・情報教育研究センター 教授 河合 玲一郎 / 2024)
本の目次
第I部
第2章 倫理・AIに関する基礎的な事項
第3章 数理に関する基礎的な事項
第4章 情報に関する基礎的な事項
第5章 統計・可視化に関する基礎的な事項
第II部
第6章 例題と解説(1分野単独問題)
第7章 例題と解説(2分野複合問題)
第8章 模擬試験問題
A. 付録
関連情報
NEW 「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム第2回東海ブロック会議」 (主催:名古屋大学 数理・データ科学・人工知能教育研究センター〔オンラインとハイブリッド開催〕 2024年11月25日)
https://www.mds.nagoya-u.ac.jp/platform-event/2024-11-25
NEW 第9回数理・データ教育研究会「応用基礎におけるモデルシラバスと標準教材」 (主催:大阪大学 数理・データ科学教育研究センター〔ZOOMウェビナーとハイブリッド開催〕 2024年11月16日)
https://www.omu.ac.jp/orp/mds/info/event/entry-64880.html
「データサイエンス・AI教育の高大接続」 (主催:数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム 関東ブロック〔ZOOMオンライン開催〕 2024年6月3日)
https://jsiam.org/eguide02/6433/
講座:
高校生と大学生のための金曜特別講座『データサイエンスとは』 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 2022年6月3日)
https://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_time/2022s/2022s_7.html