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書籍名

オンライン・ファースト コロナ禍で進展した情報社会を元に戻さないために

判型など

290ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年12月18日

ISBN コード

978-4-13-063457-1

出版社

東京大学出版会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

オンライン・ファースト

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新型コロナウイルス感染症COVID-19により、人々は対面で会うことを厳しく制約された。その中で、ICT(情報通信技術)が人々の社会活動を辛うじて支えた。多くの人々がICT 機器で草の根の取り組みを行った。大学はオンライン授業になったが、初等中等教育はオンライン化の準備ができていなかった。働く現場では在宅勤務が推奨されたが、それが日本のデジタル化の遅れを明らかにした。危機感を持った企業はDXを叫び、政府はデジタル庁を設置した。
 
新たな感染症という外力によって生じたICT改革であるが、これは我が国にとって大きなチャンスでもある。これを機に、様々なサービスを電子化し、新たな情報産業を次々に生み、人々の生活を便利で豊かなものにし、地方の魅力を最大限に活用するような社会にしなければならない。またICTにおけるプライバシーやセキュリティが人々の不安要因にならないようにし、障碍者や高齢者および子育て中の親など一人一人の生きがいと活躍を支援し、そして新たな感染症にも対抗できる柔軟性を持つ社会を構築しなければならない。
 
この大目標に向けて働きに携わるのは、すべての国民である。ICT技術者だけではない。草の根レベルから国家レベルまで、みなそれぞれに果たすべき役割があり、挙げるべき声がある。なすべきことをなし、いうべきことをいわなければ、我が国は再び「情報後進国」の道を歩むことになる。デジタル庁の創設は画期的だが、他省庁の役人が「ICTはデジタル庁に任せればいい」と思ってはならない。予算を纏めるのは財務省でも、すべての省庁が国家財政を理解していなければ、よい予算は作れまいが、そのようなものである。
 
まず、すべての人がICTの基礎を知っている必要がある。ただし、本書はICTの入門書ではない。本書でも触れられているが、2022年度から高等学校の科目となる「情報I」「情報II」が、基礎を確認したい大人にとっても役立つだろう。
 
そして、すべての人がICTの発展に関心を持つ必要がある。本書はICTによって革新されたポストコロナの新たな社会の姿を提示する。Society 5.0、情報教育のこれから、インターネットが成功した秘訣、さらにAI、 VR、ロボット、プライバシー、セキュリティの最新動向まで描かれている。必然的に最先端のICTの用語も飛び交っているが、読者それぞれの知識に応じて読んでいただきたい。読める章だけでもよい。とりわけ、社会の中核的な役割を果たす文系のみなさんにも、ぜひ読んでほしい。
 
日頃ICTについて教育・研究を行っている専門家達が繰り出す言葉たちの中には、深遠な言葉も散りばめられている。最初は難解と思われるところもあろうが、スルメイカのように噛めば噛むほど深い味わいがある。
 

(紹介文執筆者: 情報理工学系研究科 研究科長 須田 礼仁 / 2021)

本の目次

はじめに――新型コロナウイルスに立ち向かうための情報理工学(須田礼仁
 
第I部 これからの社会とIT
1 超スマート社会の進め方――Society5.0とは(坂井修一)
2 大人のための情報教育――「もとに戻さない」,真のオンライン社会へ(萩谷昌己)
3 インターネットのしくみでつくる社会――つながりによる革新(江﨑 浩)
 
第II部 ITでデザインするポストコロナ社会
4 ソーシャルディスタンシングと感染爆発の検知――データサイエンスの活用(山西健司)
5 触れずに触り,遠隔で操作する――VRとシステム情報学(藤田政之・稲見昌彦・川嶋健嗣・篠田裕之・津村幸治)
6 感染症とデータビジネスと民主主義――個人と社会のデータ管理(橋田浩一)
7 オンライン講義・テレワークを支えるシステム──データ活用が導くサイバーフィジカルアーキテクチャ(中村 宏・関谷勇司)
8 サイバー空間と実世界を結ぶ──ポストコロナを支えるAI,VR,ロボット(稲葉雅幸・岡田 慧・深尾隆則・國吉康夫・葛岡英明・鳴海拓志・雨宮智浩・青山一真・相澤清晴・竹内昌治)
 
ポストコロナの新たな情報化社会へ向けての提言(情報理工学系研究科)
 
最新IT用語集

関連情報

関連記事:
特集:情報未来研究会「Withコロナ」インタビュー編 Vol.2「Withコロナの時代に求められるオンライン・トラストネス」 (NTT DATA 2021年2月19日)
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/021901/
 
ポスト・コロナの新たな情報化社会へ向けての提言 (東京大学 情報理工学系研究科 2020年6月25日)
https://www.i.u-tokyo.ac.jp/proposal/post_corona_society.shtml
 
江﨑浩「世界はオンライン・ファーストへ」 (週刊『BCN』 2020年5月15日)
https://www.weeklybcn.com/journal/serial/detail/20200515_174008.html
 
書評:
中村宏 (東京大学大学院教授) 評 『ALL REVIEWS』 2020年12月23日)
https://allreviews.jp/review/5208
 
イベント:
第1回情報技術のポストコロナ社会への貢献(1) (一般社団法人情報処理学会 2021年6月2日)
https://www.ipsj.or.jp/event/seminar/2021/program01.html
 
第2回情報技術のポストコロナ社会への貢献(2) (一般社団法人情報処理学会 2021年6月9日)
https://www.ipsj.or.jp/event/seminar/2021/program02.html

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