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書籍名

学習環境のイノベーション

著者名

山内 祐平

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年8月31日

ISBN コード

978-4-13-051354-8

出版社

東京大学出版会

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学習環境のイノベーション

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情報化や国際化が進み混沌とする社会の中で、人々が主体的に自らのありかたを変えていく「学習」の意義は今までになく高まっている。それにともない、その営みをささえる「学習環境」をどう構築するかということが社会的課題になっている。この課題については、21世紀に入る頃から継続して議論されてきたが、COVID-19によるオンライン授業の拡大によってさらに注目が集まっている。現在行われているオンライン授業は学習の機会を確保するためのICT利用であって、必ずしも学習の質を高めるものではない。しかしながら、ICTの導入が進むに従って、これをより高度な学習の実現に使うことも可能なのではないかと言う意見が増えてきている。
 
この書籍は、筆者が東京大学大学院情報学環でおよそ20年にわたり研究してきた知見から、今後どのように学習環境を変革していけばよいかについてまとめたものである。
 
構成としては、理論編 (1,2,3章)・事例編 (4,5,6,7章)・実践編 (8,9,10章) の3部になっている。
 
理論編では、激変する社会の中で求められる学習像や学習目標の変化について論じ、学習に関する様々な先行研究から学習環境に関して必要不可欠なものをレビューしてまとめている。その上で、イノベーション論の視座を導入し、学習環境を変革することの位置づけについて整理している。
 
事例編では、学習環境の4要素である、空間・人工物・活動・共同体について、筆者が産学連携研究プロジェクトで展開してきた研究事例を紹介している。デジタル教材などのICT利用からアクティブラーニングスタジオまで、変革の具体的なイメージがつかめるとともに、実証データを用いた評価方法も参考になると思われる。
実践編では、学習環境にイノベーションを起こすためのデザインについて、フレームワークを提示した上で、事例編であげた研究がどのようなプロセスで行われたかについて解説している。また、技術決定論を超えて、学習の価値と技術の価値をつなげる価値連鎖をどう作り上げていくか、今後の生涯学習社会でどのような課題が考えられるのかについてまとめている。
 
学習の場にICTを導入しても、それだけで魔法のように高度な学習や質の高い学習が実現するわけではない。ICTのような人工物のみならず、空間・活動・共同体をトータルでデザインすることが肝要であり、そのようなデザインの積み重ねが全ての人が豊かな人生を送れる学習社会の実現につながるだろう。

 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 山内 祐平 / 2021)

本の目次

まえがき

第I部 理論編

第1章 変容する社会と学習目標
     1.変容する社会
     2.学習目標の変化

第2章 学習環境の理論的基盤
     1.学習論の系譜
     2.学習研究の知見
     3.学習と環境

第3章 学習環境とイノベーション
     1.イノベーション論
     2.教育とイノベーション
     3.イノベーションとしてのMOOC

第II部 事例編

第4章 学習環境としての空間
     1.アクティブラーニングスタジオ
     2.ラーニングコモンズ

第5章 学習環境としての人工物
     1.人工物としてのデジタル教材
     2.携帯電話を活用した科学教育プログラム
     3.構成的読解を支援するタブレット用ソフトウェア
     4.学習方略支援を支援するフィードバックシステム
     5.協調フィルタリングによる英語学習の支援
     6.デジタル教材の未来

第6章 学習環境としての活動
     1.ワークショップとは
     2.アンプラグトケータイワークショップ 
     3.MOOCと連動する反転学習

第7章 学習環境としての共同体
     1.実践共同体と学習
     2.電子的に構成される実践共同体
     3.ソーシャルメディアと共同体

第III部 実践編

第8章 学習環境とデザイン
     1.デザインという行為
     2.学習とデザイン
     3.3層のデザイン
     4.問題解決的デザイン
     5.問題創出的デザイン

第9章 学習環境デザインの過程
     1.イノベーションレイヤーの同定
     2.問題解決的イノベーション過程
     3.問題創出的イノベーション過程
     4.デザインの対象による特殊性

第10章 技術決定論を超えて
     1.技術決定論の陥穽
     2.価値連鎖のデザイン
     3.社会システムとの接続
     4.学習社会に向けての展望
 

関連情報

著者インタビュー:
インタビュー:【未来予測】東京大学大学院 山内祐平氏 21世紀の今日。高度化する働きを支える学びのあり方はどのように変わるのか (学校法人産業能率大学総合研究科ホームページ 2017年11月8日)
https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/feature/201711/08-02.html
 
先端の学びを手に入れて新しい働き方へシフトする (President WOMAN 2017年3月7日)
https://president.jp/articles/-/21490
 
山内教授に聞く『21世紀型スキル』と教育 - 安定した世界が変化し始めた21世紀を生きるスキル (KOKUYOホームページ 2015年1月30日)
https://www.kokuyo-furniture.co.jp/solution/mana-biz/2015/01/world-79.php
 
情報化で生まれる新しい学習のかたち (WORKSIGHT 2013年6月3日)
https://www.worksight.jp/issues/249.html
 
東大TV:
2006~2009年度「現代GPシンポジウム 2009」
報告:東京大学における学習環境デザイン (東大TV 2009年2月20日)
https://todai.tv/contents-list/2006-2009FY/gendaiGP2009/2009-01
 
イベント:
学習環境のイノベーション:”両利きのデザイン”は可能か? (CULTIBASE Lab 2021年4月17日)
https://cultibase.jp/live-event/5714/
https://www.youtube.com/watch?v=4dGW6KpLV1s
 
『学習環境のイノベーション』発刊記念 いま「学習環境のデザイン」を考える ──オンライン授業を超える「新しい学びのかたち」とは? (リエゾンセンター・ライブラリー 2020年11月18日)
https://designhub.jp/events/6372/

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