東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黒い表紙

書籍名

デジタル化時代の「人間の条件」 ディストピアをいかに回避するか?

判型など

256ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年11月15日

ISBN コード

978-4-480-01741-3

出版社

筑摩書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

デジタル化時代の「人間の条件」

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は専門の異なる4名の研究者が、経済、法制度、不平等、余暇、倫理の5つのトピックについてデジタル化の影響を共同で検討したものです。人々の生活が、電子製品やインターネットを介したサービスに囲まれているのはもはや普通のことになりました。デジタル化と呼ばれる一連の変化は、過去20年ほどに急激に進んできたことです。本書で問うているのは、デジタル化が、経済、法律、そして社会的なやりとりにどのような影響を与え、さらに倫理的にどのような問題を内包しているか、です。議論を通じてデジタル化が人びとにとってよいものになるための条件はどのようなものか、という倫理的な問いに答えようとしました。
 
デジタル化は平均的には人類を生存のための労働から解放する効果をもちます。労働市場に与える影響は大きく、全体としてみた場合に人類に時間的な余裕をもたらすという点で、デジタル化は恩恵をもたらします。その一方で、そのデジタル化が与える余裕は、果たしてすべての人に平等に与えられるのでしょうか。また仮にデジタル化によって余暇が生まれた場合、人々はその余暇をどのように利用するでしょうか。他者とつながり、議論し、交流するために使われるのか、それとも単なる暇つぶしに使われるだけでしょうか。
 
本書で検討しているように、技術革新によって恩恵が生まれる一方で、それが一部の人びとに労働を押しつけることで成り立つのであれば、それは望ましい状況とは言えません。所得の二極化だけでなく、生活あるいは「生」そのものの二極化ともいうべき状況が生じるとすれば、結果と機会の両面で深刻な格差構造が生まれかねません。それでは技術革新によって生まれた余暇はどのように使われるようになるでしょうか。本書ではオンライン調査をもとに、生活のデジタル化が進んだ人びとの余暇は、アナログな時代よりも、より制作的で参加的なものとなりえるとの結果を示しています。自分の作品制作のために有用な情報を集めたり、制作したものをウェブ上で共有したりすることが、デジタル化によって容易になった可能性があります。
 
このように考えてみると、デジタル化が経済社会にもたらす変化を評価することは容易ではありません。現実に生じつつあることを実証的に考えるだけでなく、より望ましい状態を考えることも必要となるためです。本書がこうした取り組みの一助となれば幸いです。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 伊藤 亜聖 / 2023)

本の目次

はじめに――デジタル化していく社会のなかで
 
第1章 デジタル化する世界を生きる
第2章 デジタル化と経済
第3章 デジタル化と法制度
第4章 デジタル化と不平等
第5章 デジタル化と余暇
第6章 デジタル化時代の倫理
 
巻末補足「日々の暮らしの価値観・行動に関するオンライン調査」の概要

関連情報

書評:
藤原裕之 評 (『エコノミスト』100巻3号 pp. 52-53 2022年1月18日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220118/se1/00m/020/011000c
 
著者インタビュー:
新刊著者訪問 第40回 (東京大学社会科学研究所Website 2022年8月25日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/cato_asei_ishidak_iida_2021_11.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています