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ピンクのグラデーションの表紙

書籍名

危機対応学 危機対応の社会科学 想定外を超えて [上]、未来への手応え [下]

判型など

[上] 362ページ [下] 408ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年11月29日

ISBN コード

[上] 978-4-13-030215-9
[下] 978-4-13-030216-6

出版社

東京大学出版会

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東京大学の3つある文系の附置研究所の一つである社会科学研究所 (通称社研) では「全所的プロジェクト研究」と呼ばれる独自の総合的な研究を、50年以上にわたり続けてきました。全所的プロジェクト研究は、法学、政治学、経済学、社会学の社会科学の観点を総合し、時代の重要課題を見定め、その解決策を共に探ろうとするものです。その最新成果が本書『危機対応の社会科学』上下巻です。研究成果はシリーズ危機対応学として、この2冊を加えた4冊の本を東京大学出版会より刊行しています。
 
危機への対応として、通常思い起こされるのは「リスクマネジメント (リスク管理)」という言葉です。リスクマネジメントは、リスクを組織的に管理し、事前に対策を講じることで危機発生時の損失を極小化することを言います。
 
しかし危機は、リスクの内容や影響を正確に把握し、事前に対策を講じることが出来、損失をつねに極小化できるものばかりではありません。そこで危機対応学では、危機という実はよくわからないものに対し、わからないなりに、いかに対応すればよいかを考えました。
 
危機対応学では、先行研究を参考にしつつ、4つの軸から研究してきました。
 
第一の軸は「事前と事後」です。危機への対応は、事態が生じる前の事前的なものと発生後の事後的なものへと分類されます。事前のあり方によって、危機後の反応が影響されることもあれば、事後のあり方が将来の事前準備を左右することもあります。
 
第二の軸は「個別と集団」です。危機への対応として、個々人がいかに最適な選択をしても、社会全体の集団からみたときに最善の結果をもたらすとは限りません。
 
第三の軸が「確率と意識」です。自然科学の知見に基づき、危機発生の客観確率が高くても、当事者が意識しなかったり、意識しても行動につながらない理由の解明が求められます。
 
そして第四の軸が「事実と言説」です。危機には、事実が忍び寄っていることもあれば、実際には生じていないにもかかわらず、言説が独り歩きすることもあります。
 
『危機対応の社会科学』上下巻では、これら4つの軸を具体的な危機の事例に当てはめて研究しました。
 
危機対応には、どこかしら重苦しいイメージがあるかもしれません。しかし、下巻のあとがきでは、研究を振り返り、次のように述べました。
 
「危機は望ましくはなく、できれば避けたいものだろう。だが、危機の意識は、どうでもよくない大事なものがあることを示すバロメーターでもある。」「危機対応はけっしてネガティブで暗いものではない。ポジティブとか明るいとか表現するのは憚られるケースもあろうが、少なくともクリエイティブではある。」
 
これらの本を通じて、大事なものを見つめ直すきっかけにしてほしいと思います。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 玄田 有史 / 2020)

本の目次

東大社研・玄田有史・飯田高編
危機対応の社会科学(上)想定外を超えて


刊行にあたって 東大社研
はしがき 玄田 有史
 
総説 飯田 高
「危機対応がなぜ社会科学の問題となるのか」
 
第I部 危機と世界
第1章 宇野重規「政治思想史における危機対応」
第2章 ケネス・盛・マッケルウェイン
「危機に対応できる憲法とは」
第3章 保城広至「キューバ危機はなぜ回避されたのか?」
第4章 丸川知雄「危機の元凶は中国か?」
 
第II部 危機と政策
第5章 松村敏弘「東日本大地震後の電力危機と危機対応」
第6章 田中 亘「危機と資本」
第7章 佐々木弾「政策変数としての稀少確率評価」
 
第III部 危機と組織
第8章 中村尚史「危機を転機に変える」
第9章 森本真世「危機対応と共有信念」
第10章 玄田有史「職場の危機としてのパワハラ」
 
第IV部 危機と選択
第11章 中川淳司「アマチュア登山家の危機対応学」
第12章 藤原 翔「教育,家族,危機」
第13章 石田賢示「移民受け入れへの態度をめぐるジレンマ」
 
あとがき 飯田 高
索引
東大社研・玄田有史・飯田高編
『危機対応の社会科学(下)未来への手応え』


刊行にあたって 東大社研
はしがき 飯田 高
 
第I部 危機と法律
第1章 林 知更「憲法と危機」
第2章 石川博康「契約上の危機と事情変更の法理」
第3章 齋藤哲志「リスクと危機の間」
 
第II部 危機と制度
第4章 飯田 高「制度によるブリコラージュ」
第5章 中林真幸「近世国家の危機対応」
第6章 藤谷武史「日本の財政危機を巡る事実と言説」
第7章 大沢真理「『国難』を深めたアベノミクスの6年」
 
第III部 危機と価値
第8章 グレゴリー・W・ノーブル
「日本の『水素社会』言説」
第9章 加藤 晋「陰鬱な危機対応」
第10章 川田恵介「災害対応のための政策意識分析」
 
第IV部 危機と行動
第11章 スティール若希/レア・R・キンバー
「女性のアドボカシー活動と提言」
第12章 鈴木富美子/佐藤 香「夫婦の危機が始まるとき」
第13章 有田 伸「考えたくない事態にどう対応するか?」
 
あとがき 玄田 有史
索引

関連情報

危機対応学ホームページ:
https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/crisis/
 
書籍紹介:
玄田有史「リスク管理論ではない『危機対応学』である理由」 (東京大学出版会『UP』569号1-6頁 2020年3月号)
 

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