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黄色い表紙

書籍名

危機対応学 国境を越える危機・外交と制度による対応 アジア太平洋と中東

著者名

保城 広至

判型など

336ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年7月2日

ISBN コード

978-4-13-030218-0

出版社

東京大学出版会

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国境を越える危機・外交と制度による対応

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新型コロナウィルスがあっという間に世界中に拡大したことからもわかるように、ある種の危機は国内問題にとどまらずに国境をあっさりと越えてくる。そのような危機をめぐって、アジア太平洋及び中東地域を対象として考察したのが本書である。国際危機とは、(1) 国際危機は想定外のできごとが引き金となって生じることが多い、(2) われわれや国家にとって死活的な価値への重大な脅威が加えられる。(3) 国際危機に対処・回避するための時間が極めて限られている、という3つの特徴を有している。そのような国際危機を本書では時系列的に3つに分類したうえで考察を行っている。
 
第一部では国際危機を引き起こしたものは何かと問い、それに対して解答を与えること、換言すれば、危機を従属変数 (結果) と捉え、その原因を追及している。本書で得られた知見は、国際危機の原因は領土問題や経済制度といった構造的なものであっても、その直接的な対応は外交によって可能であり、結果がどうなるかは政治的なリーダーの手腕にかかっている、という点である。ただし時間が経つにつれて、個人のできる範囲は徐々に縮小していき、次に述べるように危機を防止するような制度的枠組みが重要となってくる。
 
第二部では、国際危機が実際に引き起こされたとき、政府関係者はその危機にどのような対応をみせ、そして危機後にどのような社会的帰結を迎えたかのかが考察されている。これは危機を独立変数 (原因) として、その影響を分析するものである。ただしその影響は直後に起こるものと、ある程度時間を経てから現れるものの2つがある。直後に起こるものは、「危機対応」と呼びうるもので、政府のリーダーが危機発生と同時に取り組まざるをえない行動――外交――を扱うものである。それに対して危機がある程度収束してからは、国際環境の変化とともに、危機を二度と繰り返されないための方策――制度の創造――といった帰結が出現する。
 
そして最後の第三部では、そもそも国際危機を起こさないようにするにはどうするのか、あるいは危機が生じた場合を想定して、それに備える行動はどのようなものなのかが分析されている。これは危機のダメージを最小限に抑えること、あるいは危機そのものの予防策を考案するものである。
 
言うまでもないことだが、国際危機にはさまざまなかたちがある。また外交による対応や危機を回避するための事後的・予防的な制度構築も、多くの諸要因が複雑に絡み合い影響し合うために、特効薬というものは存在しない。国際危機の研究というものは古くから存在するが、依然として最新のものが発表され続けている。それはとうてい一冊の書物で全貌を捉えることができるものではない 。その奥深さは、本書の各章を通読していただけばむしろ明らかになると思われる。本書の読者が、各章で述べられている国際危機に対する理解を深め、そしてそれ以外の国際危機に対して今後知見を広げられることになれば、これ以上望むことはない。

 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 保城 広至 / 2020)

本の目次

序 章 国境を越える危機――その原因,帰結と対応,そして予防(保城広至)
     1 はじめに
     2 国際危機を引き起こす原因とその直接的対応
     3 国際危機が変える制度
     4 国際危機の予防
     5 おわりに


第I部 危機の原因と直接的対応

第1章 アジア・中東――危機と秩序の構図(保城広至)
     1 はじめに
     2 国境と領土問題
     3 評判(reputation)と地位(status)
     4 攻撃同盟・防衛同盟
     5 対称・非対称関係
     6 経済的相互依存
     7 革命と政治的リーダー
     8 MID要因の検討
     9 結論

第2章 戦後日米同盟の危機とレジリエンス――安倍=トランプ政権下での日米同盟の二つのシナリオと危機対応策(西川 賢)
     1 はじめに
     2 第一の危機――日米安全保障条約改定を巡って
     3 第ニの危機――アメリカの衰退とニクソン・ショック
     4 第三の危機――日米経済摩擦の余波
     5 第四の危機――冷戦崩壊と同盟漂流
     6 第五の危機?――ドナルド・トランプ政権下での日米同盟
     7 おわりに

第3章 米中関係と危機――政治的意思による安定とその脆弱性(佐橋 亮)
     1 はじめに
     2 冷戦期の台湾海峡危機
     3 1995~96年台湾海峡危機
     4 米中対立と米台関係の進展
     5 おわりに


第II部 危機の帰結

第4章 「危機的」な日中関係と対中感情温度(伊藤亜聖)
     1 はじめに
     2 日中関係の推移と対中感情
     3 「正常な軌道」への回帰?
     4 非対称な感情変化
     5 おわりに

第5章 国際危機と日韓関係――日韓パートナーシップ宣言の促進剤としての国際危機(曺 良鉉)
     1 はじめに
     2 事例と理論の検討
     3 国際危機と日韓関係
     4 おわりに

第6章 アジア通貨金融危機と中央銀行の独立性強化――危機の責任とIMFコンディショナリティ(岡部恭宜)
     1 はじめに
     2 アジア通貨金融危機への各国の対応とIMFコンディショナリティ
     3 中央銀行の独立性を強化する要因
     4 独立は叶わぬ夢――タイ銀行
     5 準備されていた独立――韓国銀行
     6 スハルト体制からの脱却――インドネシア銀行
     7 おわりに


第III部 危機の予防

第7章 戦争の危機と重要施設の移転――日中の比較史(丸川知雄)

     1 はじめに
     2 日本の重要施設移転(1943~45年)
     3 中国の三線建設(1964~70年代)
     4 危機対応に反映された国家と社会
     5 おわりに

第8章 危機対応の制度化としての予防外交――OSCEモデルの中東への適用案(中村 覚)
     1 はじめに――中東に予防外交を制度化する
     2 OSCEは中東で有効な紛争予防制度か
     3 中東における武力紛争やテロリズムの連鎖――予防外交の欠如
     4 OSCEモデルをそのまま中東に適用できるか
     5 中東安全保障協力機構(OSCME)の設計
     6 中東における安全保障共同体の創出
     7 おわりに――OSCMEを実現させるための政治

第9章 仮想通貨をめぐる危機対応と規制――古い革袋に新しい酒(中川淳司)
     1 はじめに
     2 仮想通貨の登場と発展
     3 日本における仮想通貨規制の導入と発展
     4 「危機対応」としての日本の仮想通貨規制の展開
     5 おわりに

あとがき(保城広至)

国際政治危機年表について(松岡智之・保城広至)
経済危機年表について(松岡智之・保城広至)

関連情報

危機対応学 | Social Sciences of Crisis Thinking ホームページ
https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/crisis/
 
書籍紹介:
東大教師が新入生にすすめる本 (東京大学出版会『UP』4月号)
https://kw.maruzen.co.jp/nfc/featurePage.html?requestUrl=toudai2020/06/

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