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書籍名

冷戦後の東アジア秩序 秩序形成をめぐる各国の構想

著者名

佐橋 亮 (編)

判型など

312ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年3月

ISBN コード

978-4-326-30288-8

出版社

勁草書房

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冷戦後の東アジア秩序

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かつて多くの文明が繁栄したアジアは、多くが植民地化の憂き目に遭い、そしてアジア・太平洋戦争による破壊を経験した。戦後に脱植民地化を達成するも、世界的に展開された冷戦構造に影響を受ける。アジアにとって、経済成長、国内政治の安定、さらに民主化は未だ記憶の新しいことだ。そして現在も、私たちの眼前に広がるアジアの現実は、生やさしいものではない。貧富の差は依然大きく、人権状況は決して楽観できるものではなく、また市民的自由や民主主義で後退をみせる国も多い。さらに、アジアでは中国の台頭に伴い、国際関係のありようが変わりつつある。自らのパワーに自信を深めた中国は周辺諸国に圧力を行使したり、独自の地域秩序構想に語勢を強めてきたりした。そしてアメリカは成長する中国への恐れを高め、従来の対中関与方針を捨て、政治対立と経済社会関係の再編を前提にした政策をとるようになり、中国もそれに対応した同様の政策にむかっている。
 
アジアの秩序は、グローバル化や地域協力の進展、民主化といった前向きな変化よりも、社会の分断や政治対立、圧力や制裁の行使といった現象に覆われていくのだろうか。そういった課題を考えていくために参照点になるのは、実は冷戦終結後の30年にアメリカ、中国だけでなく地域各国が描いてきたビジョン (秩序構想) だ。本書各章を一読して頂ければ、秩序がよりよくなるように、各国がどのような努力をしてきたか (または大してしていなかったのか)、よく分かるだろう。また大国だけでなく、中小国の重要性、外交やルール形成の活用といった国際関係の特徴もつかむことができる。
 
本編書のように各国の秩序構想を横断的に分析したものは例が少ない。また東アジアの主要なプレイヤーを網羅した本編書を読んでいただければ、各国の外交政策の特徴、主要目標なども分かる。たとえば、アメリカや中国の同盟やパートナーへの見方を読むと、大国外交に特有の、独りよがりなところを読み取れるかもしれない。オーストラリアや韓国、インドの世界観や、それを実現するための政策手法はかなりユニークだ。東南アジア諸国連合 (ASEAN) によるルール形成という試みは、国際法を学ぶ必要性を読者に提起するかもしれない。日本についてはよく分かっていると思う読者も、歴史的制度主義という理論フレームワークを使って独自の時代区分を行ったチャプターを読むことで、様々な発見をすることだろう。序章と終章では全体を貫く論点設定だけでなく、各章の議論のポイントや将来のシナリオについても触れているので、まずはそこから読むのも良いだろう。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 准教授 佐橋 亮 / 2021)

本の目次

序 章 東アジア秩序はいかに形成されてきたのか [佐橋 亮]
 はじめに
 1 東アジア秩序──冷戦から冷戦後へ
 2 本書の問いと構成

第1章 アメリカと冷戦後の東アジア秩序──1990年代の状況対応的政策とその帰結 [玉置敦彦]
 はじめに
 1 アメリカの「リベラルな国際秩序」構想──起源と展開
 2 東アジア地域秩序の模索と後退
 3 現状維持と「平和の配当」の相克
 4 現状維持を求めて──リベラルな原則と状況対応的政策
 5 状況対応的政策の限界
 おわりに

第2章 アメリカのアジアへの方向転換──2000年代における起源と展開 [ニナ・サイローブ (訳:志田淳二郎)]
 はじめに
 1 アイデアの源流──長期的視野に立ったアジアへの関心
 2 新しい手段を通じたアジアへの方向転換──グローバルな兵力態勢の見直し
 3 アジアへの方向転換をめぐる省庁間の議論
 4 アジア・ピボットの実施
 おわりに

第3章 冷戦後のオーストラリアの秩序構想と対外政策 [佐竹知彦]
 はじめに
 1 冷戦後のオーストラリアの秩序構想
 2 冷戦後のオーストラリアの対外政策
 おわりに

第4章 日本の東アジア地域秩序構想──冷戦後における継続と変化 [古賀 慶]
 1 日本のアジア地域秩序構想
 2 歴史的制度主義と地域秩序構想
 3 日本における東アジア地域秩序構想の変遷──4つの時代区分
 おわりに

第5章 韓国外交と地域秩序構想 [西野純也]
 はじめに
 1 冷戦終結への対応とその限界──盧泰愚,金泳三政権
 2 地域協力構想と安全保障の制約──金大中,盧武鉉政権
 3 米中G2のもとでの秩序構想──李明博,朴槿恵政権
 4 「平和と繁栄の朝鮮半島」──文在寅政権
 おわりに

第6章 ASEANの地域秩序構想とその実践──南シナ海におけるルール形成の取り組みを中心に [湯澤 武]
 はじめに
 1 ASEANの地域秩序構想と役割認識の変遷
 2 南シナ海におけるASEANのルール形成の取り組み
 3 ASEAN主導のルール形成の効用と限界
 おわりに

第7章 インドの複層的秩序認識と対外戦略 [溜 和敏]
 はじめに
 1 3つの秩序──地域,拡大近隣,世界
 2 冷戦終結後の対外戦略と秩序認識
 おわりに

第8章 ロシアの国際秩序構想──孤立の克服から東方シフトへ [加藤美保子]
 はじめに
 1 冷戦終結後のソ連/ロシアの世界認識と秩序構想
 2 ロシアのアジア安全保障秩序観と日米同盟
 おわりに

第9章 中国の新同盟論──安全保障秩序の新たな制度戦略 [林 載桓]
 はじめに
 1 中国の国際秩序観の特徴
 2 国際秩序の制度的基盤と中国
 3 中国の同盟認識の変容と「新同盟論」
 4 ディスカッション──秩序再編の制度戦略
 おわりに

終 章 秩序をめぐる東アジアの国際政治 [佐橋 亮]
 はじめに
 1 本書の議論
 2 トランプ外交と米中対立により高まる秩序移行の可能性
 3 将来における東アジア秩序
 4 日本に必要な秩序構想力

あとがき

索引
執筆者紹介

関連情報

自著解説:
編著者からの紹介 (東洋文化研究所ホームページ)
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/pub2004_sahashi.html
 
書評:
いまを読む5冊:佐竹和彦 (防衛研究所主任研究官) 評「コロナ禍の今こそ考えたい 中国と東アジア秩序の変容」 (『外交』Vol.61 2020年5月)
http://www.gaiko-web.jp/archives/2769
http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2020/05/Vol61_p144-147_books_now.pdf

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