東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白とダークグレーの表紙

書籍名

デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か

著者名

伊藤 亜聖

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2020年10月21日

ISBN コード

978-4-12-102612-5

出版社

中央公論新社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

デジタル化する新興国

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は発展途上国で急速に進むデジタル化の影響を、正負の両面から整理したものです。情報通信端末の普及やプラットフォーム企業の台頭は、先進国のみならず、多くの人口を抱える発展途上国でも進んでいます。それによって次のような変化が生じています。
 
第1に、デジタル化は新興国の可能性を拡げています。アリババやテンセントといった巨大プラットフォーム企業を生み出した中国にとどまらず、電子生体認証を導入したインド、宅配・ライドシェアの広がりが見られる東南アジアにも目を向ける必要があります。アフリカでもベンチャー企業が生まれ、コワーキングスペースが開設され、留学帰りの起業家がビジネスチャンスを探っています。
 
第2にデジタル化は、新興国の脆弱性を顕在化させる懸念もあります。自動化技術の普及は、社会保障の枠外に置かれた雇用を拡大させることによって労働市場への負荷を高めるかもしれません。また情報通信端末と人工知能を利用した監視技術は、権威主義体制を強化させるかもしれません。残酷なことですが、紛争地域ではドローンを利用して、空爆がより「安価」なものになりつつあります。
 
新興国社会で生じつつある変化の大きさを考えて、本書で筆者は「デジタル新興国」(Digital Emerging Economies) との概念を提案しています。これは工業化が発展途上国を大きく変えた時代に登場した「新興工業国」(Newly Industrializing Countries) という概念を念頭に置いたものです。工業化との対比では、デジタル化は一国経済のなかでの所得格差を縮小させず、むしろ拡大させるかもしれません。製造業が多くのフォーマルな社会保障を完備した雇用をもたらしたのに比べると、デジタル経済が生み出す雇用の量は限定的で、フードデリバリーの配達員に代表されるように、社会保障制度の枠外に置かれている雇用が目立ちます。また地理空間の観点からは、デジタル化ではより幅広い地域にまで視野を向けるべきです。製造業では東アジア地域に生産拠点が集中し、「東アジア生産ネットワーク」(East Asian Production Network) が注目を集めてきました。しかしデジタル経済では、インド、ブラジル、そしてアフリカからも有力なスタートアップ企業が生まれ、またユニークなサービスが提案されています。
 
考えねばならないもう一つの論点は、日本に何ができるのかです。1980年代以降の工業化の時代には、日本は自動車産業、電子産業を代表として「先進工業国としての日本」という立脚点がありました。また2000年代以降は、環境対策や少子高齢化の面でのノウハウを生かして、「課題先進国としての日本」という役割を果たしてきました。では「新興国がデジタル化する時代」を想定した場合に、日本はどのような役割を果たすことができるでしょうか。残念ながら日本は先進工業国であったのと同等水準では、先進デジタル化国ではないようです。世界的有力企業は限られ、日本国内での社会実装も立ち遅れています。新興国で日本に蓄積されてきたノウハウを生かしつつ、同時に新興国からも多いに学ぶことが求められているのではないでしょうか。本書では「共創パートナーとしての日本」という役割を提案しています。これはひとつのたたき台の議論にすぎません。どのような役割を果たしうるのか、検証していくことが求められています。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 伊藤 亜聖 / 2021)

本の目次

序  章 想像を超える新興国
第1章 デジタル化と新興国の現在
第2章 課題解決の地殻変動
第3章 飛び越え型発展の論理
第4章 新興国リスクの虚実
第5章 デジタル権威主義とポスト・トゥルース
第6章 共創パートナーとしての日本へ

関連情報

受賞:
第22回 読売・吉野作造賞 (2021年7月)
https://www.chuko.co.jp/aword/yomiuri/

デジタルの樹林を切り開く 伊藤亜聖 <第22回読売・吉野作造賞> 受賞のことば (中央公論.JP 2021年6月10日)
https://chuokoron.jp/culture/117614.html
 
ベスト経済書・ビジネス書大賞2021第3位『デジタル化する新興国』
日本は何ができるか問われている (『週刊ダイヤモンド』 2021年12月25日・2022年1月1日号)
https://diamond.jp/articles/-/290858
 
著者インタビュー:
伊藤亜聖氏に聞く デジタル化する新興国 日本は「共創パートナー」目指せ (読売クオータリー2021夏号 2021年7月30日)
https://www.yomiuri.co.jp/choken/y-yoshino/20210728-OYT8T50087/
 
デジタル化で中国が迎えた転換 日本は後進国になるのか (朝日新聞DIGITAL 2021年3月24日)
https://www.asahi.com/articles/ASP3Q4K1DP39ULZU00D.html
 
デジタル化で、日本がインドや中国に敗北した理由。新型コロナで露呈したその違いとは (HuffPost News 2021年3月23日)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60409b28c5b6ff75ac418a07
 
新刊著者訪問 第37回: デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か (東京大学社会科学研究所 2020年11月17日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/asei_2020_11.html

著者コラム:
執筆ノート (三田評論ONLINE 2021年1月16日)
https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/literary-review/202101-2.html
 
日本がアジア新興国のデジタル化に学ぶべき事
普及した分野とそうでない領域で差も出ている (東洋経済ONLINE 2020年11月10日)
https://toyokeizai.net/articles/-/386513
 
中国VSインド「デジタル超大国」の勝者の行方
外資を規制するか開放するかで戦略が異なる (東洋経済ONLINE 2020年11月4日)
https://toyokeizai.net/articles/-/385227
 
南アジアでフリーランスがじわり増えている訳
エンジニアや主婦も英語や技能を駆使し活動 (東洋経済ONLINE 2020年10月31日)
https://toyokeizai.net/articles/-/384680
 
書評:
鈴木雄雅 (上智大学教授) 評 (『週刊読書人』 2021年12月17日号)
https://jinnet.dokushojin.com/products/2021%E5%B9%B412%E6%9C%8817%E6%97%A5%E5%8F%B7-3420%E5%8F%B7-%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E7%89%88
 
高口康太 (ジャーナリスト) 評 (『中国研究月報』第884号 2021年10月号)
https://www.institute-of-chinese-affairs.com/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%9C%88%E5%A0%B1
 
藤井大輔 (大阪経済大学 経済学部講師) 評 (『中小企業季報』2021 No.3・4合併号 2021年10月)
https://www.osaka-ue.ac.jp/research/chuken/kiho/kiho_webtop/webkiho2021/kiho20210304gappei.html
https://www.osaka-ue.ac.jp/file/general/28644
 
(夕刊フジ 2021年10月15日)
 
岡本正明 (京都大学東南アジア地域研究研究所) 評 (『東南アジア研究』59巻1号 2021年7月31日)
https://kyoto-seas.org/ja/2021/07/tounan-ajia-kenkyu-59-1/
https://doi.org/10.20495/tak.59.1_228
 
中川 敬士 評 ワンポイント・ブックレビュー (『労働調査』 2021年3月号)
https://www.rochokyo.gr.jp/html/2021bn.html#3
https://www.rochokyo.gr.jp/articles/br2103.pdf
 
【この一冊】「デジタル化する新興国」 (電波新聞 2021年1月29日)
https://dempa-digital.com/article/160353
 
BOOKSコラム (日刊ゲンダイDIGITAL 2021年1月13日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/283717
 
竹田いさみ (獨協大学教授) 評 (読売新聞夕刊 2021年1月9日)
 
高口康太 (ジャーナリスト) 評「日本は新興国から「デジタル化・DX」を学ぶべき時代になった」 (NEWSWEEK 2020年12月30日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/dx_1.php
 
日本はデジタル後進国になってしまった! (J-CASTニュース 2020年12月14日)
https://www.j-cast.com/kaisha/2020/12/14400707.html?p=all
 
アエラ読書部: 森永卓郎 (獨協大学教授・経済アナリスト) 評 (『AERA』 2020年12月7日号)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22390
 
篠田英朗 (国際政治学者・東京外国語大学教授) 評「世界を変える可能性」 (読売新聞朝刊 2020年12月6日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20201205-OYT8T50143/
 
(『週刊文春』p.113 2020年12月3日号)
https://bunshun.jp/articles/-/41781
 
佐々木実 (ジャーナリスト) 評 (信濃毎日新聞 2020年11月28日)
 
新鮮新選 一挙に進む社会変化 新興国のデジタル化 (中部経済新聞 2020年11月28日)
https://www.chukei-news.co.jp/news/2020/11/28/OK0002011280a01_01/
 
中沢孝夫 (経営学者) 評「発展過程に位置付けて分析」 (日本経済新聞夕刊 2020年11月26日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66476050Q0A121C2MY6000/
 
今週の本棚: 栗原裕一郎 (評論家) 評 (東京新聞・中日新聞朝刊 2020年11月21日)
https://mainichi.jp/articles/20201121/ddm/015/070/014000c
 
橋爪大三郎 (社会学者) 評 (毎日新聞朝刊 2020年11月21日)
https://mainichi.jp/articles/20201121/ddm/015/070/014000c
 
「発展過程に位置づけて分析」 (日本経済新聞朝刊 2020年11月21日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66476050Q0A121C2MY6000/
 
関連記事:
日本は新興国から「デジタル化・DX」を学ぶべき時代になった (Newsweek 2020年12月30日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/dx_1.php
 
イベント:
第4回アジア・太平洋研究会「デジタル化する新興国」 (科学技術振興機構アジア・太平洋総合研究センター 2021年9月13日)
https://spap.jst.go.jp/event/apstudy004.html
 
グローバル・インテリジェンス・シリーズ:デジタル化する新興国 ー 共創パートナーとしての日本の可能性 (RIETI独立行政法人経済産業研究所 2021年9月1日)
https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/21090101.html
 
伊藤亜聖 東京大学准教授 「デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か」 出版記念トーク (ニコ技深圳コミュニティ 2020年10月27日)
https://aseiito01.peatix.com/
 
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています