The Political Economy of Automotive Industrialization in East Asia

本書は、日本以外の東アジア諸国における自動車産業の戦略や実績に見られる際立った国家間の違いについて、政治経済学的な観点から説明している。韓国、中国、台湾などの一部の国では、国内投入量や技術力に基づいて国内での付加価値を高めることで、「集約的」な成長戦略の実践に成功している。マレーシアもこの路線での成長を試みたものの失敗に終わっている。対照的に、タイは国外のメーカーやそのサプライヤーに依存し、国内の能力を大幅に高めずに生産、組み立て、輸出における目覚ましい拡大を実現することで、「広範な」成長の王者となっている。後発のインドネシアはタイを追うことで一定の成功を収めているが、フィリピンの自動車産業は沈滞し続けている。本書では、七ヵ国それぞれの事例や事例間での分析に基づき、これらの違いが企業の経営を取り巻く制度的・政治的文脈の関数としてもたらされていることを主張している。異なる戦略には異なる制度や制度的能力が求められる。集約的な開発では、特に制度的な負荷が高くなる。効果的な制度は、政治指導者たちが資源に対する厳しい要求 (外部からの安全保障上の脅威や福祉の改善を求める国内の圧力) に直面し、それらのニーズを満たすために容易にアクセスできる天然資源などの収入がない場合に現れる。ブラジルやメキシコなどの他の地域の途上国との簡単な比較により、分析的枠組みの有用性が裏付けられている。この説明は新古典主義的な考察より優れている。ナショナル・イノベーション・システム、グローバル・バリューチェーン、発展指向型国家などの他の代表的な開発へのアプローチと整合しつつも、それらより深い洞察を提供できている。電気自動車や自律走行車への移行など、自動車メーカーやサプライヤーが直面している新たな課題は、本書で取り上げている制度的能力に大きく頼ることになるであろう。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 グレゴリー・W・ノーブル / 2022)