
書籍名
グリーンスローモビリティ 小さな低速電動者が公共交通と地域を変える
判型など
204ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2021年5月20日
ISBN コード
978-4-7615-2771-6
出版社
学芸出版社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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あなたは車や自転車を運転するときに、道路の制限速度を意識しているだろうか。あるいは、歩いているときに、猛スピードで走る車や自転車に怖い思いをしたことはないだろうか。実は最近ヨーロッパを中心に市内道路の制限速度を低速にする動きが加速している。低速化規制の主目的は交通安全である。車の走行速度によって衝突した際の歩行者の死亡率は大きく変わり、特に時速30km以下では歩行者の死亡率は1%以下となる。北欧から始まった車による交通事故死亡者をゼロにする「ビジョンゼロ」という哲学はいまや世界の多くの都市で共有されており、パリやブリュッセルでも市内中心部の道路全域が時速30kmに規制されているなどいまや交通安全のために市内中心部の車の速度を下げることは欧州の常識となっている。
道路の低速化規制は自動車が走りにくい環境を生み出す。自動車が街中から減少すると、公共交通やモビリティ、歩行に人々の移動手段が変化することによる環境問題・大気汚染・騒音の改善、駐車場や道路空間が歩行空間や広場やカフェ、緑地に転換するなど公共空間が自由になる。自動車が減少した中心市街地では、静謐でゆったりとした人々の安らぎと会話に満ちた心ときめく空間が生まれる。
グリーンスローモビリティは、時速20km未満で公道走行が可能な4人乗り以上の電動モビリティサービスであり、本書は「グリスロ」に関する日本初の書籍である。遅くて、定員も数名しか乗れない乗り物に対してどんな需要があるのか疑問に思う人もいるかもしれないが、今まで高速化ばかりを追求してきた我が国の交通分野において、低速化の追求は未開の地であり大いなる可能性を秘めている。
例えば、遅いために身体的負担が少なくなり高齢者にとって乗り心地が良い。また、高齢者でも運転がしやすくなり交通事業者が移動サービスを提供できないエリアや近距離移動で、地元住民による地域内交通を実現できる。さらにグリスロではドアや窓がないオープンな構造となっており (時速20km未満では規制が緩和される)、風を浴びながら景色を見られるなど観光客用モビリティとしても期待される。環境意識の高い外国人旅行者の増加が見込まれる昨今、観光地の電動化はインバウンド誘致のためには必須だろう。また今後の重要な視点として複数の人が乗り合う形での自動運転技術は低速電動車で実装される。このように、グリスロは遅いことで、既存の交通事業者では提供できなかった多様な移動サービスを実現すると同時に、地域の課題解決にも寄与できる。
これからは、日本でも車一辺倒社会から、欧州のような人間らしい公共空間を取り戻す地域社会が出てくるだろう。脱自動車への転換を図る有力手段の一つは間違いなく低速化であり、そのためには目に見える低速の小さなグリスロが人々の意識と地域を大きく変える力を持っていると考えている。
(紹介文執筆者: 公共政策大学院 特任准教授 三重野 真代 / 2022)
本の目次
第1部 グリーンスローモビリティとは何か
第1章 3 つの顔を持つグリーンスローモビリティ
第2章 グリーンスローモビリティ前史
すべては輪島から始まった──グリスロ「WA-MO (ワーモ)」の誕生と可能性
地域が一体となって開発したグリスロ (低速電動バス)
第3章 誕生! グリーンスローモビリティ! !
第2部 快走! グリーンスローモビリティ──走って、笑って、愛されて
第4章 使い方は地域の数だけ!
1 まちなか公共交通
狭・坂・古の鞆の浦 念願の公共交通は笑顔がいっぱい
みなとオアシス沼津へ──直線! “ ゆっくり" を楽しむ気品溢れる路線バス
海の風を浴びて、復興後の小名浜を巡るハワイアンモビリティ
尾道市長が語るグリスロの魅力──おしゃれなモビリティが街を変える
宮崎駅と商店街を結ぶ 大人気まちなか回遊グリスロ
2 観光モビリティ
IKEBUSで大都市池袋をリブランディング
グリスロと太陽光でスローな姫島エコツーリズム
3 住宅団地
リホープは、これからも、走り続ける
東京都町田市鶴川団地──グリスロを用いた買物支援事業
首都圏鉄道沿線におけるグリスロ活用の可能性
グリスロで健康寿命も歌声もアップ
4 集落の足
地域福祉のフィールドで出会ったグリスロ
狭い離島の道もすいすい グリスロは初めての島の足
みんなで紡ぐ銀山グリスロ
第5章 Q & A でわかるグリーンスローモビリティ
第3部 グリーンスローモビリティが拓く新時代
第6章 グリーンスローモビリティの時代
コラム1 お客さんがMAYU の使い方を教えてくれました
コラム2 米国シニアタウンにおける電動カートの活用──高齢者の自立した生活のマストアイテムに
コラム3 「グリスロ賛歌」ができるまで
関連情報
観光交通のあるべき姿とは? 地域を変える「グリーンスローモビリティ」を考察するために「観光交通」の考え方を整理した【コラム】 (トラベルボイス 2024年4月16日)
https://www.travelvoice.jp/20240416-155333
書評:
中村由美 評「ゆっくりをたのしむ」 (週間読書人 2021年8月20日号)
https://dokushojin.com/review.html?id=8356
東京大学公共政策大学院 NEWS:
「三重野真代特任准教授が執筆した「グリーンスローモビリティ──小さな低速電動車が公共交通と地域を変える」(学芸出版社) が出版されました」 (東京大学公共政策大学院ウェブサイト 2021年5月27日)
https://www.pp.u-tokyo.ac.jp/news/2021-05-27-30142/
書籍紹介:
「著者に聞く」 (『時評』 2021年11月号)
https://www.jihyo.co.jp/publish/jihyo/4eeb064a607f4e6b127dec86690bfd4cd9e25214.html
観光経済新聞 2021年8月23日
『月刊「公明」』2021年9月号
https://komeiss.jp/products/detail.php?product_id=357
『ザ・タクシーTHE TAXI』第53号第6号 2021年6月15日
東京交通新聞 2021年6月14日
観光経済新聞 2021年5月24日
https://www.kankokeizai.com/%e3%80%90%e6%9c%ac%e3%81%a0%e3%81%aa%e3%80%91%e3%82%b0%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%83%a2%e3%83%93%e3%83%aa%e3%83%86%e3%82%a3%ef%bd%9e%e5%b0%8f%e3%81%95%e3%81%aa%e4%bd%8e/
旬刊 ザ・タクシー 第443号 2021年5月15日