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書籍名

現場から見上げる企業戦略論 デジタル時代にも日本に勝機はある

著者名

藤本 隆宏

判型など

320ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2017年7月10日

ISBN コード

9784040821528

出版社

株式会社KADOKAWA (角川新書)

出版社URL

書籍紹介ページ

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現場から見上げる企業戦略論

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この本は、学術書ではなく、いわゆる一般向けの本である。当時は他の出版プロジェクトもあり忙しかったので、まず先に出版社の優秀な編集者が私の未発表原稿を再構成して骨子を作り、それを私が仕上げるという方法を始めて試した。その後、私は研究目的でボストン (母校のハーバード) に半年行ったが、その間にこの仕事の締切が来たので、約10日間、上記の骨子を元にケンブリッジのアパートで朝から晩まで原稿を書き、結局はほとんど書下ろしになった。執筆期間の短さでは新記録だ。
 
この本では、デジタル化が日本の産業にどのような影響を与えるかを、組織能力とアーキテクチャ論の動的適合を見る進化経済学や技術・生産管理論の枠組を用いて分析し、将来展望を試みた。経済学で言えば古典派のリカード経済学と相性が良い。
 
まず「ものづくりとは付加価値を担う設計情報の流れを作ること」と考える広義のものづくり論を示し、ものづくり現場を「付加価値の流れる場所」と規定した。また、現場を重視する「三方良し」企業が日本には多く、それが地域の雇用安定に貢献したと指摘する。
 
その上で、戦後の日本産業の歴史を現場視点で、[1] 1950~60年代 (冷戦前期) =移民なき高度成長期、[2] 1970~80年代 (冷戦後期) =冷戦下のグローバル競争期、[3] 1990~2000年代 (ポスト冷戦期) =新興国を含むグローバル競争期と規定する。この時期、日本製造業の国内現場は厳しいハンデを克服し能力構築により多くが生き残ったが、[4] 2010年代以降の本格的なデジタル化時代が日本の企業・産業・現場にとって新たな挑戦である。
 
グローバル競争については、仮に新興国拠点に対し単位コストは不利だが生産性が高い国内拠点があった場合、短期視点で後者を閉鎖するのはグローバル長期全体最適の企業戦略と言えない。むしろ、そうした国内拠点はあえて「戦うマザー工場」として残し、そこからの能力移転で賃金高騰期に入った新興国拠点を支援し、グローバル拠点全体の競争力を強化するのが正しい。
 
2010年代のデジタル化に対しては、上空 (重さの無いオープン・アーキテクチャのサイバー層)・低空 (中間のサイバーフィジカル層)・地上 (重さのあるクローズド・アーキテクチャのフィジカル層) の3層構造論でアーキテクチャ戦略分析を行う。上空層は米国プラットフォーム盟主企業 (恐竜) が制空権を取り、低空層では一部ドイツ勢が優勢。日本勢は多くが地上に留まる。しかし、勝機はある。まずは現場の能力構築で、地上で負けない、真似されない競争力を確立した上で、小さくても自らのインターフェース標準を作って、上空の「恐竜」と能動的に繋がる「中クローズ・外オープン」の、いわば哺乳類型のアーキテクチャ戦略を採ること。要するに、現場の能力構築と本社のアーキテクチャ戦略の両立に活路がある。このように本書は、デジタル化時代のグローバル競争に対する、産業進化論のいわば応用編だと言える。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 藤本 隆宏 / 2019)

本の目次

はじめに
序章  悲観論に惑わされると企業は選択を間違える
    我々が生きているのは“ややこしい”世紀
    どこかに消えた世紀末の超楽観シナリオ
    「3Dプリンタ革命」の流行は終わったが
    アーキテクチャという考え方が教えること
    デジタル化を捉えるための三層のアナロジー
    経営者はどこで時代を読み間違えるのか
    日本の経済産業の土台は「現場」である
    依拠する理論は「現場経営学」と「進化経済学」
    下から「トヨタ・ショック」を見上げてみれば
    現在地を知り、未来への戦略を構築せよ

第1章  経営学と経済学の治験が導く「ものづくり理論」
    数多くの現場を訪ねて学んできたこと
    さまざまな道具を使って多面的・多層的に見る
    「強い赤字企業」「弱い黒字企業」とは何か
    教科書にはない現場指向企業の経済モデル
    現場とは「地域に埋め込まれた存在」
    ものづくり学の根幹「付加価値は設計情報に宿る」
    情報やサービスも「広義のものづくり」だ
    フィロソフィーは近江商人の「三方よし」
    不安定化する世界で「三方よし」がもつ意味
    「裏の競争力」を高める多能工のチームワーク
    生産性を永続的に向上させる「組織能力」とは
    補論 リカードの「比較優位説」はなぜ現代でも有用か

第2章  「現場から見上げる」戦後産業史とは何か
    上から見下ろす歴史観とは異なる現場の歴史
    敗戦国の日本に吹いた歴史的・地理的な追い風
    冷戦前半期の二十年こそ日本の「高度成長期」
    激増する仕事をこなした多能工のチームワーク
    擦り合わせ型製品が強い理由を文化に求めるな
    一九七〇~八〇年代は現場の「能力構築加速期」
    当時の日本が戦っていたのは「冷戦期の国際競争」
    冷戦終結後、中国の製造業が一気に台頭した理由
    デジタル情報革命で組み合わせ型の需要が拡大へ
    そして日本の家電業界は「設計の比較優位」を失った
    ものづくりの現場史に「失われた二十年」はない
    悲観論に惑わされるな、潮目は変わっている

第3章  「グローバル能力構築競争」と日本企業の勝機
    「工場の国内回帰」現象をどう捉えるべきか
    「円安だからとりあえず国内回帰」ではない
    「最適立地」と「市場立地」のバランスをとれ
    新興国でも生産性の向上は始まっている
    海外にも存在しうる「現場指向企業」
    現場のジレンマを乗り越える「戦うマザー工場」
    本社が良い現場を支援するために必要なこと
    「グローバル指向」と「現場指向」を同時に掲げよ
    「良い」という言葉をあえて多用する理由
    サービス業でも始まった「グローバル能力構築競争」
    レストランでも我々が購入するのは「経験の流れ」
    介護の現場に不可欠な「トータル・エクスペリエンス」
    “ややこしい”時代に重要性を増す「進化能力」
    あらためて、国内一辺倒でも海外一辺倒でもなく

第4章  IoT、インダストリー4.0の本質を見極めよ
    地道にやることが実を結びやすい時代に
    再び、アーキテクチャの概念を考える
    クローズドとオープンで異なる企業の戦い方
    産業レベルのレッテル貼りはもはや意味がない
    あくまで「日本はインテグラル型が強い」は全体的傾向
    二〇二〇年以降、自動車産業はどうなるか
    明暗が分かれた自動車と家電エレクトロニクス
    ICT界を「オアシス」と「砂漠」で譬えれば……
    日本企業は「強い補完財戦略」で勝ち抜け
    インダストリー4.0と「低空」の新たな戦い
    ドイツがインダストリー4.0を進める真の理由
    現場にとって重要なのは「IoT」ではなく「IfT」
    工場のインテリジェント化はほんとうに進むのか?
    日本勢が念頭に置くべきは「天下三分の計」だ

終章  二〇二〇年、明るい日本経済を手にするために
    もう一度いう、根拠なき悲観論に惑わされるな
    「強い補完財企業」をめざすときに必要なこと
    本社が進めるべきは「現場指向のグローバル戦略」
    良い現場を日本に残すための「ひとづくり」
    進化を続ける産金官学連携の「地域スクール」
    「ファストトラック」で求められる人材を育てよ
    これからも日本が「安定ある成長」を続けるために
 

関連情報

日本経済新聞「目利きが選ぶ3冊」にて5つ星 (傑作) (2017年7月)
 
東京大学生協 本郷書籍部 Book Best 10 第二位 (2017年7月)
https://www.univcoop.or.jp/fresh/book/best10/best10_1707.html
 
 
書評:
兵庫県立大学・大阪商業大学名誉教授 安室憲一 評 (世界経済評論 2018年3/4月号)
https://www.ebookjapan.jp/ebj/348883/volume20180215/
 
尾藤克之 - 2020年「明るい日本経済」を手に入れるための処方箋 (言論プラットフォーム アゴラ 2017年8月2日)
http://agora-web.jp/archives/2027522.html
 
週刊東洋経済 (2017年8月26日号)
 
中沢孝夫・福井県立大学特任教授による書評
 

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