東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

水色の表紙に黄色の帯

書籍名

統計学 = Statistics

著者名

久保川 達也、 国友 直人

判型など

352ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年10月31日

ISBN コード

978-4-13-062921-8

出版社

東京大学出版会

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統計学

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統計分析・データ解析は、今日では文科系、理科系の学問の諸分野ばかりではなく社会・経済において幅広く用いられています。金融ビジネス、マーケティング、工場の現場、医療機関、公的機関などの仕事の中でデータ分析に遭遇せざるを得ない機会も日々に増大しています。最近はビッグデータ・人工知能・機械学習に関心が集まっていますが、データの背後にある見えざる真実を捉えることが重要であるとの認識が高まっていることの表れだと思います。
 
このように、統計学は実社会に出て最も役立つ学問の一つです。しかし私が大学に入って最初に学んだ統計学は面白いものではありませんでした。3年生になり数理統計学の洋書を独学で読破する中でその魅力に惹かれたのが研究の道へ進むきっかけになりました。理論の深さと応用の広がりをもつ学問で、時代のニーズに応えて発展し続けている「生きた」学問が統計学です。大学生に講義する立場になったときに統計学の面白さを伝えたいとの思いで著したのが本書です。
 
統計学の魅力は、データという数字の羅列の中から意味のある「宝」を見つけ出すことです。そのための基本となる統計手法を提供するのが記述統計で、本書の第1部が対応します。平均・分散などから分布の特徴を探ったり、所得の不平等度やマーケット・シェアの集中度を測ることができます。2つの変数の間の関係性をみたり、両者の間に因果関係があるかを調べることができます。このようなデータ解析を通して新たな知見を得ることが統計解析の醍醐味です。
 
統計学の実力は、データ解析にとどまらず、そこから得られた知見の正しさを保証できるところにあります。そのためには確率に基づいたモデルを考える必要があり、統計モデルに基づいて推定・検定などの統計手法を提供するのが推測統計で、本書の第2部、第3部が対応します。特に仮説検定は様々な分野で活用されており重要な統計手法の一つです。例えば、喫煙と肺癌の間に因果関係があるか否かをデータから検証するときには、「95%の信頼性をもって因果関係がある」というように、決定の信頼性を確率に基づいて保証してあげることができます。第1部から第3部の基礎に基づいて社会・経済・時系列データの解析を扱うのが第4部です。
 
統計学の入門書の多くは数式による説明を省いて書かれていますが、それではいざ使う場面で役に立ちません。むしろ数式に基づいて統計学のからくりを理解しておくと、応用する場面で柔軟に使いこなすことができますし、統計学の本当の面白さを学ぶことができます。その意味で簡単な数式を用いて説明しているところに本書の特徴があります。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 久保川 達也 / 2017)

本の目次

      目    次

    第1章  統計学とその役割
      1.1  データは語る
      1.2  統計の役割

第I部  基礎事項

    第2章  分布の特徴を探る
      2.1  分布の特徴
      2.2  分布の中心
      2.3  分布の散らばり
      2.4  データの標準化と歪度、尖度
      2.5  発展的事項

    第3章  度数分布から不平等度を測る
      3.1  度数分布とヒストグラム
      3.2  ローレンツ曲線とジニ係数
      3.3  ローレンツ曲線の例
      3.4  発展的事項

     第4章  変数間の関係性をみる
      4.1  相関
      4.2  回帰
      4.3  偏相関
      4.4  発展的事項

第II部  確率

    第5章  確率の基礎
      5.1  確率と事象
      5.2  条件付き確率と事象の独立性
      5.3  発展的事項

    第6章  確率分布と期待値
      6.1  離散確率変数と確率関数
      6.2  連続確率変数と確率密度関数
      6.3  確率分布の平均と分散
      6.4  確率変数の標準化と変数変換
      6.5  発展的事項

    第7章  代表的な確率分布
      7.1  離散確率分布
      7.1.1  ベルヌーイ分布
      7.1.2  2項分布
      7.1.3  ポアソン分布
      7.2  連続分布
      7.2.1  一様分布
      7.2.2  正規分布
      7.2.3  ガンマ分布と指数分布
      7.3  発展的事項

    第8章  多変数の確率分布
      8.1  同時確率分布と周辺分布
      8.1.1  離散分布の場合
      8.1.2  連続分布の場合
      8.2  期待値、共分散、相関
      8.3  2つ以上の確率変数の分布
      8.4  発展的事項

第III部  統計的推測

    第9章  ランダム標本と標本分布
      9.1  標本と統計量
      9.2  標本平均の性質
      9.3  標本平均の分布
      9.4  代表的な統計量の性質
      9.5  正規母集団の代表的な標本分布
      9.6  発展的事項

    第10章  推定
      10.1  点推定
      10.2  最尤法とモーメント法
      10.3  平均2乗誤差による評価
      10.4  区間推定
      10.5  発展的事項

     第11章  仮説検定
      11.1  仮説検定の考え方
      11.2  正規母集団に関する検定
      11.2.1  1標本問題
      11.2.2  2標本問題
      11.3  近似分布に基づいた検定
      11.4  カイ2乗適合度検定
      11.5  発展的事項

    第12章  回帰分析
      12.1  単回帰モデル
      12.2  決定係数と残差分析
      12.3  重回帰モデル
      12.4  分散分析
      12.5  ロジスティック回帰モデル
      12.6  発展的事項

第IV部  社会・経済・時系列データ

    第13章  経済・社会データと統計分析
      13.1  有限母集団と標本調査
      13.2  時系列データ
      13.3  経済指数の利用

    第14章  時系列の統計分析
      14.1  時系列データと統計モデル
      14.2  自己回帰移動平均モデル
      14.3  発展的事項

付録1  統計ソフト
(1) R 入門
(2) エクセル入門

付録2  数学の基礎知識
(1) 基本事項
(2) 微分積分
(3) 行列と行列式

参考文献
 

関連情報

教科書「統計学」(東京大学出版会、2016 における章末の演習問題とその略解,誤植の訂正箇所,内容の補足説明、統計検定2級試験のための補足説明と追加問題、第1章の内容のスライド、利用されたデータと統計計算ソフトRのコード (スクリプト)
https://sites.google.com/site/ktatsuya77/statistics
 

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