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団地の白黒写真

書籍名

総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史

判型など

176ページ、並製

言語

日本語

発行年月日

2019年11月25日

ISBN コード

978-4-7872-3462-9

出版社

青弓社

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総中流の始まり

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1960年代の日本社会について、皆さんはどのようなイメージをもっているでしょうか。この時代の記憶をもっている人のほとんどが60歳以上になってしまった現在では、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズが描いた世界をイメージする人も多いかもしれません。映画の舞台は小さな戸建て住宅が立ち並ぶ東京の下町ですが、この時代には、人々の生活の場として団地が重要な場所となり始めていました。本書は1965年に神奈川県で実施された生活時間調査のデータをもちいて、当時の「新しい生活様式」を営んでいた人々の生活のありかたを明らかにした研究成果です。
 
生活時間調査とは、1日24時間について、どのタイミングで、どこで、何をしていたかを調べるものです。東京大学社会科学研究所には、50年以上まえの調査票がいくつも残されています。私たちの研究グループは、そのうちの「団地居住者生活実態調査」のデータを復元し分析をおこないました。この調査は氏原正治郎・小林謙一などの研究チームが実施したものです。古い紙の調査票を損傷しないように1枚ずつ写真撮影してPDF化し、そこに記入されている数値や文字を入力していきます。6団地1052世帯の夫婦それぞれと子どもの調査票データをデジタル化するのには膨大な時間と労力を要しました。
 
これらの作業は2014年に開始しましたが、この間、社会科学研究所の社会調査・データアーカイブ研究センター (CSRDA) の支援を受けました。CSRDAでは二次分析研究会という公募型の共同研究プロジェクトをおこなっています。さまざまな調査データの二次分析から、多くの研究成果があげられています。
https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/secondary/kobo/
 
完成したデータは2020年7月にCSRDAのデータアーカイブから公開されています。関心のある研究者や大学院生は、データを申請して自分で分析することができます。
https://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/Direct/gaiyo.php?lang=jpn&eid=1311
 
就業人口のうち農業従事者占める比率は1960年の30%から1970年の18%まで急減します。他方で、1960年の白黒テレビ普及率は約45%でしたが、その後の10年間で95%まで上昇します。同じように洗濯機は41%から91%、冷蔵庫は10%から90%に上昇しました。農業ではない製造業やサービス産業で働いて都市部に住み、家事には家電製品を使い、余暇にはテレビを見るというライフスタイルが全国レベルで浸透していったのが1960年代でした。
 
当時の団地居住者には、こうした「中流」ライフスタイルが典型的にみられます。夫は仕事、妻は家事育児という性別役割分業の傾向も明確です。本書のタイトルを『総中流の始まり』としたのは、「ここから日本の中流社会が始まった」と確信したためです。1960年代を知らない若い世代の研究者の「異文化体験」の報告を、ぜひ、手に取ってお読みください。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 佐藤 香 / 2020)

本の目次

はじめに 相澤真一 / 渡邉大輔

第1章 普通の時間の過ごし方の成立とその変容――高度経済成長期の団地生活での一日のあり方 渡邉大輔
 1 生活時間調査としての「団地居住者生活実態調査」
 2 高度経済成長期の団地生活での生活時間の実態
 3 団地生活での生活時間のマクロ・ミクロ分析

コラム1 団地生活と耐久消費財――新しい生活の形 渡邉大輔

第2章 団地での母親の子育て 石島健太郎
 1 団地での母親のつながり
 2 団地の母親が置かれた状況
 3 団地のつながりを分析する
 4 母親にとってつながりとは何だったのか
 5 つながりをさらに調べるために

コラム2 耐久消費財の普及は家事時間を減らしたのか 渡邉大輔

第3章 団地のなかの子どもの生活時間 相澤真一
 1 「子供など夫婦以外の世帯員生活時間表」の集計方法
 2 一九六五年の団地の子どもたちの生活時間の分布
 3 一九六五年の団地の子どもたちの生活行動

コラム3 近代日本のオルガンがある風景 / 「総中流」社会のピアノがある風景 相澤真一

第4章 団地のなかのテレビと「家族談笑」 森 直人/渡邉大輔/相澤真一
 1 データの集計方法と基本統計量
 2 どのような世帯の、誰がより長く、どのような番組のテレビを見ていたのか
 3 テレビは大衆文化の伝達メディアだったのか

コラム4 団地生活と家事の外部化 渡邉大輔

コラム5 ミシンと専業主婦の「幸福な」結び付き 佐藤 香

第5章 団地と「総中流」社会――一九六〇年代の団地の意味 祐成保志
 1 なぜ団地を調査するのか
 2 政策の手段
 3 住宅の内部構成
 4 集合の形式
 5 団地と「総中流」社会

コラム6 総中流社会と湘南電車 相澤真一

補 章 「団地居住者生活実態調査」の概要とデータ復元について 渡邉大輔 / 森 直人 / 相澤真一

おわりに 渡邉大輔

 

関連情報

書籍紹介:
「総中流の始まり」渡邉大輔・相澤真一・森直人編著 (日刊ゲンダイDIGITAL 2020年3月3日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/269805
 
団地で暮らしたさまざまな人たち 1965年調査をデジタルで復元 (デイリーBOOKウォッチ 2019年11月25日)
https://books.j-cast.com/2019/11/25010293.html

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