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書籍名

これからの教師研究 20の事例にみる教師研究方法論

著者名

秋田 喜代美、 藤江 康彦 (編著)

判型など

336ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年6月

ISBN コード

978-4-489-02362-0

出版社

東京図書

出版社URL

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これからの教師研究

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「学校」は、子どもとおとなとがともに学び育つ公教育の場である。学校において子どもとともに学び育つおとなは「教師」と呼ばれ、教育の専門職として、子どもとともに公教育である「学校教育」という現象を可視化させ、「学校教育」というシステムを成立させる。
 
どのような時代であっても、公教育の担い手としての専門職である教師の仕事が、社会にとってきわめて重要な意義を有していることはいうまでもない。そのことは同時に教師の仕事が極めて、制度的、社会的、文化的なものであることを意味している。時代の波に翻弄されるのも教師という職業の特徴である。また、教師は状況と対話しながら常に意思決定を行い、教室における目標の輻輳から生成される数多くのジレンマをマネジメントし、子どもへのケアを担う者として、教室というミクロな社会において認知的経験や情動的経験を重ねて成長を遂げる。さらに、「教師」は教育に関する専門的職業を指す概念であると同時に、関係、制度、生き方をさす概念でもある。教師としての存在は、学校という時空間における子ども(=生徒)の存在を前提としている。その教師-子どもという関係性は教師という制度によって規定され保障される。そして、教師の職を辞したあとでも子どもにとっては「教師」として生きていく。このような教師の仕事の本質は自明のこととされ、等閑視されてきたといってよい。
 
その教師の専門性や現在おかれている状況について、どのように問い、研究することができるだろうか。本書は教師の仕事の具体から、その本質を探究しようとする研究を紹介し、教師研究の問いの立て方、そしてその問いの探究のあり方に焦点をあて、教師研究に取り組む全ての人たちに向けて編まれた。
 
本書は、同じ編者による『これからの質的研究法:15の事例にみる学校教育実践研究』の続編であり、次のような特徴を有している。一つには、本書は、内容や方法についてまず全体の動向を理解することを目指した第I部と具体的な研究事例にふれる第II部からなる。教師研究の動向と研究方法の基本的な概念や枠組みと具体的な研究を関連づけて読んでいただくことで、教師へのアプロ―チを知ることができる。二つには、実際の研究事例を取りあげることで、具体的にどのような研究の方法があるのかを教師研究の問いやテーマとともに考えることを可能にしている。三つには、第II部の各章においては、研究テーマやアプローチの選定における課題意識、刺激を受けた先行研究、教師研究へのねがいや思い、研究にあたっての苦労などが、各章の執筆者によって物語られている。著者の研究の独創性、日本の教師研究の独自性を読者に示すだろう。
 
授業や学習にかんする研究方法の書は数多くある。しかし、「教師」について問うために、具体的にどのような方法を用いてどのような研究ができるのかということに特化した研究法の著書は、我が国においては本書がおそらく初めてである。教師とは誰か、その経験、思考、生き方、自己、文化を知ることは学校教育研究の基本であり、時代を超えて取り組まれうる研究領域であるといってよい。本書がその出発点となり、研究の途上でいつでも参照されるものとなることを願っている。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 藤江 康彦 / 2021)

本の目次

第I部 理論編
 
  1 「教師」について研究するために (秋田喜代美)
  2 教師研究の方法 (藤江康彦)

第II部 研究事例編
 
第1章 教師の認知や情動をとらえる
 1 教師はいかに授業を認知しているか? (浅田 匡・中村 駿)
 2 グループ学習中における教師の子どもへの支援 (児玉佳一)
 3 教師の感情経験と専門性の発揮・発達 (木村 優)
 4 教師の授業研究へのモチベーション (鹿毛雅治)
 
第2章 教師としての自己をとらえる
 1 教師の子どもに対する関わりを探究する (角南なおみ)
 2 教師の自己内対話 (藤井佑介)
 3 教師の〈語り〉を読み解く (伊勢本 大)
 4 セクシュアル・マイノリティの教師の語り (有間梨絵・植松千喜)
 
第3章 教師の経験をとらえる
 1 新任小学校教師の経験過程 (曽山いづみ)
 2 異動という経験 (町支大祐)
 3 ライフヒストリーと語りのスタイル (滝川弘人)
 4 多職種協働のプロセスを記述する (松嶋秀明)
 
第4章 教師の学習をとらえる
 1 教師の経験学習をモデル化する (姫野完治)
 2 教師の協同的学習過程をモデル化する (北田佳子)
 3 教師の経験と学習 (坂本篤史)
 4  子どもの生活づくりをカリキュラムの中核に据えた学校における教師の専門性 (大島 崇)
 
第5章 教師の文化や組織をとらえる
 1 教師間の相互行為分析 (鈴木雅博)
 2 「教員間の協働」の計量分析 (三浦智子)
 3 教師の学習を支える学校組織 (有井優太)
 4 教師コミュニティの比較教育学研究 (草彅佳奈子)
 

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