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ピンクとグレーの表紙に青銅器の写真

書籍名

殷代青銅器の生産体制 青銅器と銘文の製作からみる工房分業

著者名

鈴木 舞

判型など

209ページ、上製カバー

言語

日本語

発行年月日

2017年5月

ISBN コード

9784864450874

出版社

六一書房

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殷代青銅器の生産体制

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古代中国の青銅器とは、殷周王権の象徴と考えられており、王室による祭祀儀礼の際に使われたものと考えられています。そのため、当時の社会を理解するためには、青銅器研究は欠くことができません。本書では、その第一歩として、殷代 (紀元前約16~11世紀) における青銅器生産のあり方について、青銅器を始めとする考古資料を用いて考察しました。
 
殷周時代について、『史記』をはじめとする古典籍の中では、王や王朝の存在、青銅器が儀礼に用いられる様子などが描かれています。その生産も、王朝による「生産体制」の存在が自明のように考えられてきました。しかし、実態が不明な点も未だ多く、また近年中国では開発に伴って数多くの発掘調査が進められる中で、これまでとは形の異なる青銅器が出土したり、殷の都以外でも青銅器生産の痕跡 (遺物・遺構) の見つかることがあります。
 
青銅器とは、銅と錫の合金を指します。古代中国では溶かした青銅を、土で作られた鋳型に流し込んで固めることで、非常に複雑かつ精緻な形状の容器・楽器・武器など、各種の青銅器が鋳造されました。本書では、このように作られた青銅器やその文様の形、またそれらの形を作り出した製作技術 (鋳型の構造) という3つの観点から系統分析を行ったり、また併せて、殷後期に出現する文字 (銘文) の形や製作技術からの検討を行いました。その結果、当時黄河流域にあった殷の都では、前期の段階ですでに複数の製作者集団が併存していたこと、後期になると、文字製作工程を含む、用途・器種別の分業体制が整えられていった可能性を提示しました。
 
また、殷都から数百km離れた、長江流域の遺跡から見つかった青銅器群を、黄河流域出土の青銅器と比較したり、各地で見つかった青銅器鋳造に関係する痕跡 (遺物・遺構) の収集を行うことで、殷前期には青銅器の生産拠点が複数存在していた可能性のあること、一方で後期になると、都へ生産が集約化された可能性を提示しました。王都以外でも青銅器生産が行なわれていたのであれば、殷による鋳造技術の保持・拡散や金属資源の管理のあり方などについても、再考の必要性が出てくると思われます。
 
また本書は、その研究手法にも特徴があります。これまでの殷周青銅器研究では、器そのものや文様の形の違いや変化に基づく考古学的な研究を行うと共に、青銅器上の文字(銘文)については、その記述内容に関する研究が重視されてきました。これに対して、本書では、青銅器上の文字もまた当時製作されたモノとして捉え直し、その形と製作技術という視点から、「生産」というテーマを読み解く材料のひとつとして扱っています。
 
なお本書は、博士学位論文をもとにした書籍であり、筆者が大学院生であったころ、東京大学で所蔵される古代中国青銅器の調査・研究を行う中でヒントを得て執筆した内容も含まれています。このように、東京大学にはアジアに関わる研究資源が数多く所蔵されています。ぜひ機会を見つけて、自分の身近にある資料を手に取ってみて下さい。そこにはきっと、多くの発見や新たな視点が待っていることと思います。
 

(紹介文執筆者: 附属図書館 助教 鈴木 舞 / 2022)

本の目次

はじめに
 
第1章 殷代青銅器生産研究の現状と課題
 第1節 殷とその遺跡
 第2節 編年の設定
 第3節 古代中国における青銅器生産
 第4節 文字資料にみられる青銅器製作者
 第5節 問題の所在と研究方法
 第6節 青銅器の製作方法
 第7節 用語の定義
 
第2章 鄭州商城における青銅爵の製作
 第1節 東京大学文学部列品室所蔵青銅爵について
 第2節 比較資料の提示
 第3節 二里岡期青銅爵の編年に関する再検討
 第4節 製作技術に関する検討
 第5節 青銅器製作工房遺跡に関する検討
 第6節 小結
 
第3章 盤龍城遺跡における青銅容器の製作
 第1節 盤龍城遺跡に関する研究史の整理と問題の所在
 第2節 饕餮紋の分類
 第3節 器種ごとの検討
 第4節 二里岡期の青銅器製作地点
 第5節 小結
 
第4章 殷墟青銅器銘文の字体と工房
 第1節 関連する問題の整理
 第2節 婦好墓青銅器群に関する検討
 第3節 花園荘東地54号墓青銅器群に関する検討
 第4節 戚家荘東地269号墓青銅器群に関する検討
 第5節 大司空303号墓青銅器群に関する検討
 第6節 青銅器製作工房遺跡からの検討
 第7節 小結
 
第5章 殷代青銅武器銘文に関する考察
 第1節 検討の目的と方法
 第2節 武器銘文の集成と分類
 第3節 小結
 
第6章 殷代における青銅器生産
 第1節 各章の要点
 第2節 殷代における青銅器生産
 
あとがき
引用文献
中国語要旨(中文摘要)

関連情報

書評:
青野舜 評 (『南山考人』50号p.61-65 2022年3月)
https://ci.nii.ac.jp/ncid/AA12029708

丹羽崇史 評 (『東洋史研究』77巻2号p.266-279 2018年9月30日)
https://doi.org/10.14989/265365

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