東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

青い表紙にオレンジの球体

書籍名

ジオダイナミクス 原著第3版

著者名

Donald Turcotte (著)、Gerald Schubert (著)、 木下 正高 (監訳) ほか13名

判型など

630ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2020年11月30日

ISBN コード

9784320047372

出版社

共立出版

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ジオダイナミクス 原著第3版

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この本は、固体地球科学 (主に物理・地質) を専攻する後期課程の学生や大学院生が1982年来教科書として勉強してきた原著を、40年近く経過して日本語に翻訳したものである。大学に入学して間もない学生さんには、まだ先の話に見えるかもしれない。しかし、自分の将来を考えるとき、例えば研究者としてどんなことをどこまでわかっていればいいのか、早い段階で知っておきたいのではないか。あるいは、以前からプレートテクトニクスに興味をもっていて、地球の歴史を物理的に解明したいというとき、数式やその概念を解説した、日本語の本があったらいいのではないか。
 
研究者を志す学生にとって、原著論文や原著を熟読することは必須であるが、最初は専門用語や暗黙の了解に基づく省略などにより、読み解くのに相当苦労する。地球科学全般に関する教科書・翻訳は多数存在するが、地球物理学に関する日本語の教科書は、地震学以外ではほとんど存在しない。本書は、そのような「隙間」を埋めるために、最前線で活躍する研究者自らが翻訳したものである。
 
プレートテクトニクス (地球の冷却問題など)、地殻の変形 (弾性・レオロジー・破壊)、マントルの温度・化学構造や対流、地下流体の移動など、固体地球科学上の諸問題は、古典的ではあるが今でも未解決のことも多く、その「解き方」を学びたいという要望は高いはずである。そのためには、本書で取り上げたような様々な手法を組み合わせて解に迫ることが必要である。原著では「複雑な数式をなるべく使わずに地球科学現象を説明する」とあるが、実際には数式や演習問題が豊富に掲載されている。例えば、偏微分方程式の解析解が丁寧に導出されている。また、解くべき問題をどのように整理して偏微分問題に落とし込むか、そのステップが丁寧に解説してあり、地球物理学的な問題を実際に解く際に大いに参考になる。あまり複雑ではない数学を使い、それに様々な物理法則や境界条件を当てはめる (これが難しい) ことを、演習問題を含めて深く扱うことで、「道具を使いこなす」のに役立つと信じる。
 
前期課程の学生さんは、まさに今、解析学・線形代数・微分方程式などのスキルを修得中だろう。せっかく身に着けたこれらの手法を応用する場として、地球という複雑系ワールドがある。mmから1万kmまで、1秒から10億年まで、時空どちらをとっても10桁超の問題を扱うのは容易ではないが、皆さんの数学スキルがフレッシュなうちに、英語に煩わされることなく挑戦してみませんか。
 

(紹介文執筆者: 地震研究所 教授 木下 正高 / 2022)

本の目次

第1章 プレートテクトニクス (訳: 沖野郷子)
1.1 イントロダクション
1.2 リソスフィア
1.3 付加型プレート境界
1.4 沈み込み
1.5 トランスフォーム断層
1.6 ホットスポットとマントルプルーム
1.7 大陸
1.8 古地磁気学とプレート運動
1.9 三重点
1.10 ウィルソンサイクル
1.11 大陸衝突
1.12 火山活動と熱流量
1.13 地震活動とリソスフィア内の応力場
1.14 原動力
1.15 比較惑星学
1.16 月
1.17 水星
1.18 火星
1.19 フォボスとダイモス
1.20 ベスタ
1.21 金星
1.22 ガリレオ衛星
1.23 土星の衛星
本章のまとめ
参考文献
 
第2章 固体中の応力と歪 (田中愛幸)
2.1 イントロダクション
2.2 体積力と面積力
2.3 二次元における応力
2.4 三次元における応力
2.5 惑星深部の圧力
2.6 応力測定
2.7 歪の基本概念
2.8 歪の測定
本章のまとめ
参考文献
 
第3章 弾性とたわみ (中西正男)
3.1 イントロダクション
3.2 線形弾性
3.3 一軸応力
3.4 一軸歪
3.5 平面応力
3.6 平面歪
3.7 純粋せん断と単純せん断
3.8 等方性応力
3.9 平板の二次元曲げ(たわみ)
3.10 モーメントと垂直(鉛直)荷重がかかったときの平板の曲げ
3.11 水平荷重が作用している平板の座屈
3.12 火成貫入岩体の上にある地層の変形
3.13 地球のリソスフィアへの応用
3.14 周期的な荷重
3.15 端に荷重がかかった地球のリソスフィアの安定性
3.16 列島の荷重がかかっている弾性リソスフィアのたわみ
3.17 海溝における弾性リソスフィアのたわみ
3.18 堆積盆地のたわみと構造
本章のまとめ
参考文献
 
第4章 熱輸送 (木下正高・山野 誠)
4.1 イントロダクション
4.2 熱伝導に関するフーリエ則
4.3 地殻熱流量の測定
4.4 地球表面からの熱流量
4.5 放射性元素壊変による発熱
4.6 内部発熱がある場合の一次元定常熱伝導
4.7 マントルの熱伝導的温度分布
4.8 大陸域の地温分布
4.9 球・球殻の半径方向の熱伝導
4.10 月の温度構造
4.11 定常二次元・三次元熱伝導
4.12 周期的な温度変化・地形の起状がある場合の地下温度
4.13 一次元・時間依存熱伝導
4.14 半無限媒質の周期的加熱:地下温度の日周期・季節変化
4.15 半無限空間の瞬間的な加熱・冷却
4.16 海洋リソスフィアの冷却
4.17 リソスフィアのプレート冷却モデル
4.18 シュテファン問題
4.19 岩床・岩脈の固化
4.20 動く媒質中の熱伝導:侵食と堆積の熱的影響
4.21 無限領域における一次元非定常熱伝導
4.22 熱応力
4.23 海底地形
4.24 海水準変動
4.25 堆積盆地の熱史・沈降史
4.26 表面での一定の熱流量による半無限空間加熱・冷却
4.27 断層上の摩擦発熱:島弧の火山活動と沈み込むスラブ上の溶融
4.28 マントルの温度構造と断熱線
4.29 沈み込んだリソスフィアの温度構造
4.30 堆積物の侵食・堆積のカリングモデル
本章のまとめ
参考文献
 
第5章 重力 (西山竜一)
5.1 イントロダクション
5.2 自転により扁平に変形した地球が外部に及ぼす引力加速度
5.3 遠心力加速度と重力加速度
5.4 重力ポテンシャルとジオイド
5.5 慣性モーメント
5.6 地表面での重力異常
5.7 ブーゲー重力の式
5.8 重力データの補正
5.9 補償
5.10 周期的な表面質量分布による重力場
5.11 リソスフィアのたわみによる補償
5.12 アイソスタシーによるジオイド異常
5.13 補償モデルと観測されるジオイド異常
5.14 地形を支えるために必要な力とジオイド
本章のまとめ
参考文献
 
第6章 流体力学 (吉田晶樹)
6.1 イントロダクション
6.2 一次元チャネル流
6.3 アセノスフィアの対向流
6.4 パイプ内の流れ
6.5 被圧帯水層の流れ
6.6 火道管を通る流れ
6.7 二次元流体の質量の保存
6.8 二次元流体の力の釣り合い
6.9 流線関数
6.10 後氷期隆起
6.11 沈み込みの角度
6.12 ダイアピル現象
6.13 褶曲
6.14 ストークス流
6.15 プルームヘッドとプルームテイル
6.16 熱付加があるパイプ内の流れ
6.17 温泉の帯水層モデル
6.18 熱対流
6.19 下面加熱流体層での熱対流開始の線形化安定解析
6.20 有限振幅熱対流の遷移境界層理論
6.21 有限振幅熱対流の定常境界層理論
6.22 プレートテクトニクスを駆動する力
6.23 粘性散逸による加熱
6.24 マントルの再循環と混合
本章のまとめ
参考文献
 
第7章 岩石のレオロジー (片山郁夫)
7.1 イントロダクション
7.2 弾性
7.3 拡散クリープ
7.4 転位クリープ
7.5 温度・応力依存レオロジーをもつ流体のせん断流動
7.6 マントルのレオロジー
7.7 マントル対流へのレオロジー効果
7.8 マントル対流と地球の冷却
7.9 地殻のレオロジー
7.10 粘弾性
7.11 完全弾塑性挙動
本章のまとめ
参考文献
 
第8章 断層運動 (坂口有人)
8.1 イントロダクション
8.2 断層の分類
8.3 断層における摩擦
8.4 アンダーソンの断層理論
8.5 地殻強度の包絡線
8.6 スラストシートと重力滑動
8.7 地震
8.8 サンアンドレアス断層
8.9 北アナトリア断層
8.10 横ずれ断層の弾性解
8.11 応力拡散
8.12 熱的に活性化された断層クリープ
本章のまとめ
参考文献
 
第9章 多孔質媒質中の流動 (加納靖之)
9.1 イントロダクション
9.2 ダルシー則
9.3 浸透率のモデル
9.4 被圧帯水層での流動
9.5 不圧帯水層での流動
9.6 火山の幾何形状
9.7 多孔質媒質中の質量保存,運動量保存とエネルギー
9.8 多孔質媒質における一次元の熱の移流
9.9 多孔質な地層中の熱対流
9.10 流体に満たされた多孔質内の熱プルーム
9.11 マグマの移動に対する多孔質流モデル
9.12 二相流
本章のまとめ
参考文献
 
第10章 化学地球ダイナミクス (岩森 光)
10.1 イントロダクション
10.2 放射能と地球年代学
10.3 地球化学リザバー
10.4 瞬時の地殻分別を伴う2-リザバーモデル
10.5 希ガス系
10.6 OIBの同位体の系統的研究
本章のまとめ
参考文献
 
第11章 数値解析のための道具 (川田佳史)
11.1 イントロダクション
11.2 MATLAB入門
11.3 熱伝導に関するフーリエの法則の積分(初期値問題)
11.4 内部での熱生成がある場合の一次元の定常熱伝導方程式の積分(境界値問題)
11.5 二次元の定常熱伝導方程式の積分
11.6 一次元の時間依存の熱伝導方程式の積分
本章のまとめ
 
第12章 数値計算モデルの地球物理学的応用 (安藤亮輔)
12.1 三角形の荷重分布によるリソスフィアの曲げ
12.2 軸対称な荷重下での弾性リソスフィアの曲げ
12.3 MATLABを用いた海洋リソスフィア冷却モデルにおける温度と表面熱流量の評価
12.4 海洋リソスフィア冷却を考慮したプレートモデルによる海底深度のMATLABを用いた評価
12.5 固化した岩脈の冷却
12.6 矩形角柱の上方に生じる重力異常
12.7 任意の地形によるフリーエア重力異常
12.8 後氷期隆起とクレーターの緩和:軸対象形状
12.9 二次元定常有限振幅の熱対流の数値解
12.10 横ずれ断層に対する地表速度
12.11 横ずれ断層についての補足的な解
12.12 任意の大きさと向きの亀裂面上の滑り
本章のまとめ
 
付録A 記号と単位
付録B 物理定数と物理的性質
付録C 一部の演習問題の略解
付録D 一部の演習問題のMATLABコード
参考文献
索  引

関連情報

原著:
Geodynamics Third Edition (Cambridge University Press刊 2014年)
著者:Donald Turcotte / Gerald Schubert
https://www.cambridge.org/jp/academic/subjects/earth-and-environmental-science/structural-geology-tectonics-and-geodynamics/geodynamics-3rd-edition?format=PB&isbn=9780521186230

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