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4枚の海の写真

書籍名

日本の海洋保全政策 開発・利用との調和をめざして

著者名

牧野 光琢

判型など

196ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年12月25日

ISBN コード

978-4-13-062320-9

出版社

東京大学出版会

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日本の海洋保全政策

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地球という惑星に生命が生存できる第一条件は、液体としての水が存在することだと言われている。その地球上の水の97パーセントは、海にある。
 
われわれ生命は、35億年ほど前に海で生まれて進化を積み重ね、陸にもその生息域を広げながら、現在の生物多様性を創り上げてきた。その構成種の一つとして、今日地球全体の生命を脅かす大きさにまで急激に膨張したのが、20万年ほど前に現れた、われわれ現生人類 (ホモ・サピエンス) である。
 
海の生命の歴史とその進化のメカニズムを理解することは、われわれがどこからきたのかを知ることである。それは、生命が地球上で存在する意味を理解する上で、もっとも本質的な行為の一つである。さらに、われわれはどこへ行くのか、つまり、これから人類が地球環境に真に適応し、種として「維持されうる(Sustainable)」状況を見つけ出していくカギも、この海から得られるはずである。
 
本書では、水産資源、再生エネルギー資源、海底鉱物資源、海運、レクリエーション、教育、自然再生や生物多様性保全、気候変動緩和・適応など、我々人類と海の様々な関わりに着目し、その持続可能性に関する論点や政策をできるだけわかりやすく、具体事例も用いながら解説することをこころみた。また、これまで別々の省庁が個別の法律に基づいて行ってきた、いわゆる「セクター別政策」を、自然科学や社会科学的な知見を通じて理論的に統合し、かつ、省庁を超えた相乗効果を企画立案する為の枠組みについても考えてみた。
 
付録には、政策研究を行う際の基本的な手順案として「事例研究ことはじめ」を収録した。UCバークレーのE.バーダック教授が提案されている政策立案8ステップを、海洋保全政策の視点も加えて整理したものである。
 
本書を通じて、さまざまな海の利用の多様性、そこから得られる恵みの多様性、そして、持続可能な利用に向けた施策の多様性を理解できるはずである。こうした多様性については、ともすると、そこから生じる対立や社会問題に注目が集まりがちである。勿論、その厳しい現実から目をそらすことは許されないが、著者としては、これらの多様性から生まれる新しい可能性を、ぜひ若い学生の皆さんに感じてほしい。
 
その新しい可能性とは、様々な利害関係者が、全ての生命の母なる海を共同で利用するからこそ生み出しうる、海全体としての相乗効果である。既存の学問分野を超え、様々な社会の知を統合することによって初めて発想が可能となる、新しい海の恵みの活用法である。単一の省庁や単一の経済活動からは生み出し得ないような持続可能性を実現することが、これからの海の最大のチャレンジであり、ロマンでもある。
 

(紹介文執筆者: 大気海洋研究所 教授 牧野 光琢 / 2021)

本の目次

はじめに

第1章 海洋保全政策論とはなにか
1.1 政策科学の考え方
1.2 持続可能性科学の考え方
1.3 海洋保全政策論の提唱

第2章 水産資源管理
2.1 漁業と水産資源
2.2 水産資源の管理
2.3 総合的な水産資源管理に向けて

第3章 水産資源と社会‐生態系
3.1 海洋生態系と水産資源管理
3.2 地域社会と水産資源管理

第4章 生態系の保全と自然再生
4.1 生態系保全の考え方
4.2 沿岸生態系保全と地域
4.3 自然再生

第5章 海洋保護区
5.1 わが国の海洋保護区政策
5.2 具体事例
5.3 わが国の海洋保護区の特徴と課題

第6章 海運・海岸と海ごみ
6.1 海運と保全
6.2 港湾と海岸
6.3 海洋ごみとプラスチック

第7章 エネルギーと鉱物資源
7.1 海洋エネルギー
7.2 海底鉱物資源
7.3 利用と保全の調和に向けた課題と展望

第8章 レクリエーションと海洋教育
8.1 海洋性レクリエーション・観光
8.2 地域との関わり
8.3 海洋教育と文化

第9章 沿岸域の総合的管理
9.1 基本的な考え方
9.2 現場での展開
9.3 論点と研究課題

第10章 海洋基本法と総合海洋政策
10.1 海洋基本法
10.2 総合海洋政策
10.3 利用と保全の調和

第11章 海と気候変動
11.1 気候変動の影響
11.2 緩和と適応に向けた政策
11.3 海におけるさまざまな取り組み

第12章 海洋科学の国際連携
12.1 世界共通目標としてのSDGs
12.2 国際連携の仕組み

第13章 海洋保全と価値観・文化
13.1 政策科学と価値観
13.2 水産政策と価値観
13.3 今後の研究課題

第14章 海洋保全政策論の全体像
14.1 本書のまとめ
14.2 海洋保全政策チャート

おわりに

関連情報

書評:
大久保彩子 (東海大学海洋学部海洋文明学科) 評 (『環境経済・政策研究』14巻2号 2021年9月26日)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/reeps/14/2/14_83/_article/-char/ja/
 
鹿熊信一郎 (佐賀大学海洋エネルギー研究センター特任教授) 評 (『日本サンゴ礁学会ニュースレター』89号 2021年5月)
http://www.jcrs.jp/wp/?p=5812
 
書評 (『みなと新聞』 2022年3月14日)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/108700
 
書籍紹介:
エネ環図書 (『週刊エネルギーと環境』2624号 2021年4月29日)
http://www.enekan.net/
 
海を学ぶ人の「羅針盤」 (日本海事新聞 2021年4月7日)
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=266410
 
新刊のお知らせ (『JSOP Newsletter / 日本海洋政策学会ニューズレターNo.12』 2021年2月)
https://oceanpolicy.jp/jsop/1top/JSOP%20NewsLetter%20No12.pdf
 
なまものけん通信 (『海洋と生物』252号 2021年2月)
https://aquabiology.stores.jp/items/6017a6146e84d5755fa86bc1
 
環境図書館 (環境新聞社『環境新聞』 2021年2月17日)
http://www.kankyo-news.co.jp/kankyo/others/about.html
 
新刊紹介 (日本海運集会所『海運』1121号 2021年2月)
https://www.jseinc.org/kaiun/index.html

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