本書は、地球が直面する最新の「危機」として12の地球規模課題を解説し、それらをどうやって解決、回避していくのかをビジュアルで学ぶ小学生対象の書籍である。「危機ニュース」に基づき、そのままにした場合のワーストシナリオと、解決したときのベストシナリオを比べて、自分たちのこれからの行動を考える。
ただし、小学生対象とは言っても12の危機を解説するのは本学の教授陣を中心とする第一線の研究者である。「人間活動が原因で温室効果ガスが増えている」(気候変動)、「海に流れたプラスチックごみは回収が難しい」(海洋プラスチックごみ)、「動植物のすみかが減っている」(生物多様性の減少) といった地球規模課題をコミカルな絵と図表付きでわかりやすく解説すると同時に、サーキュラーエコノミー (エネルギー問題)、仮想水の計算 (水問題)、メディアの自律性 (分断とメディア)、ワンヘルス・アプローチ (パンデミック)、紛争鉱物問題 (飢餓と貧困) など、専門性の高い議論が並んでいる。内容のレベルは極めて高い。
さらに、課題を解説するのみならず、「このまま滅亡させない! 進行中の危機脱出作戦」と称して、地球規模に行われている様々な解決策を提示し、作戦が成功するとどんな社会が実現するかという未来のシナリオを描いているところが、本書の秀逸な点である。
普段、私たち研究者は自然あるいは社会の現象を分析して深く理解することを研究の中心に据えている。社会提言や政策提言といった形式で政府や実務家に向けて解決策を提案することはあるが、それによってもたらされる不確実な未来を予測することには慎重になりがちである。しかし実社会では、常に「じゃあどうしたらいいの?」という解決策が求められる。ともすると「解決策はみんなで考えよう」というオープンエンドに陥りがちなところ、本書は最後まで描き切る。「危機を正しく理解し、その科学的な背景を知り、対応するために社会を変化させることができれば、影響は最小限にとどめることができる」(はじめに) という未来への視点を柱として、第一線の研究者に解決策の提示と未来のシナリオまで描くことを求めたところに、本書の社会的な意義がある。
これから学問の道に進む学生、あるいは大人の読者にはぜひ、地球規模課題の解決に向けて研究者や実務家それぞれが果たす役割を考えながら読んでいただきたい。
(紹介文執筆者: 未来ビジョン研究センター 特任講師 華井 和代 / 2023)
本の目次
危機 1: 気候変動――気候変動が止まらなくなり、住める場所が少なくなる!?
危機 2: エネルギー問題――化石燃料の利用は持続不可能! 自然が悲鳴を上げる
危機 3: 環境汚染――きれいな水や空気が手に入らなくなる!?
危機 4: 海洋プラスチックごみ――2050年、海の中は魚よりプラスチックごみの方が多くなる!?
Column 1: 製品・サービスの「一生(ライフ)」を意識しよう
危機 5: 生物多様性の減少――人間が原因で、100万種の生物が絶滅する!?
危機 6: 食料問題――世界同時食料危機で食べるものがなくなる!?
危機 7: 水問題――気候変動の影響で、渇水や洪水が増加! 「水」にまつわるさまざまな危機
危機 8: パンデミック――新しいウイルスによるパンデミックが繰り返し起こる!?
Column 2: これからの都市と地方のありかた
危機 9: 人口問題――人口爆発? 人口減少? 人間が絶滅危惧種になる未来が来る!?
危機 10: 飢餓と貧困――貧困により8億人以上が栄養不足に苦しむ!?
危機 11: 分断とメディア――人々の間の分断がメディアによってさらに大きくなる!?
危機 12: 情報セキュリティ――インターネット上の情報を秘密にできなくなる!?
お話をうかがった先生
主な参考文献・資料