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書籍名

気候変動と社会 基礎から学ぶ地球温暖化問題

判型など

272ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2024年7月30日

ISBN コード

978-4-13-062732-0

出版社

東京大学出版会

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気候変動と社会

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猛暑や熱中症、豪雨や洪水、再生可能エネルギーや電気自動車、ESG投資など、気候変動に関する言葉はメディアに溢れています。気候変動は最も重要な社会問題の一つであり、社会の関心もますます高まっています。インターネット上にはソーシャルメディアも含めて膨大な情報があふれていますが、情報には正確なものだけでなく、疑わしいものも多く含まれます。このようなとき、何を根拠に考えて行動すれば良いのでしょうか。『気候変動と社会』はこうした問いに答えるための第一歩としての入門書です。

本書は、気候変動の問題を多角的に理解するための教科書として、東京大学の多様の部局を横断する「気候と社会連携研究機構」の発足を契機として、関連する教員・研究者が筆を執りました。自然科学や社会科学、人文学の要素を統合し、気候変動の問題解決に向けた研究を進めるための基礎となる教科書を作成することを目指しました。学問的な原理や基本から気候変動を説明し、幅広い学際的な知識をもとに多角的にバランスよく基礎情報を整理しました。

本書の内容には、理学、工学、農学、医学などを含む自然科学から、法学、経済学、哲学などの人文社会科学にいたる広範な学術分野に関する知見が関係するため、執筆者は27人にも上ります。何度も編集員や著者の間で議論を重ね、執筆を進めていきました。

本書は7つの章から構成されており、気候変動の歴史的背景やメカニズム、影響評価、適応策、緩和策、ガバナンス、個人が取りうる行動について詳述しています。第1章では気候変動がなぜ重要な社会問題となったのかを理解するための基盤を示し、第2章では気候変動に関するシステムの定義と相互連関を解説しています。第3章では地球システム科学に基づき気候変動予測のメカニズムを説明し、第4章では影響評価と適応策について述べています。第5章では、日本と海外の違いに着目しながら緩和策について解説し、第6章では国内・国際政策や気候正義、持続可能性との関連について述べています。最後の第7章では、何が個人としてできるかが語られています。

気候変動問題は学問としても社会課題としても現在進行形です。省エネルギーなどの個人の行動はもちろん、友達や知人に語りかけたり、新しいビジネスを起業したり、社会の変化のきっかけを起こすこともできます。アクションを起こすことだけではありません。複雑で不確実な問題ですから、じっくり時間をとって考えを深めることも大事なのです。本書をきっかけに気候変動に関わる学問や実践の場で活躍する人が増えることを祈っています。
 

(紹介文執筆者: 未来ビジョン研究センター 教授 杉山 昌広 / 2024)

本の目次

はじめに――「気候変動と社会」を学ぶ意義と本書の意図|沖 大幹
 
1 気候変動と社会
1.1 そもそもなぜ気候変動か|沖 大幹
   ●コラム1.1 「地球温暖化」/「気候変動」/「気候変化」|江守正多
   ●コラム1.2 気候変動問題のフレーミング|杉山昌広・朝山慎一郎
   ●コラム1.3 IPCCとは|杉山昌広
1.2 世界と日本の気候変動に関わる社会経済指標の推移|沖 大幹
1.3 気候変動をめぐる世界の状況の変化|沖 大幹
1.4 気候変動問題の推移|沖 大幹
   ●コラム1.4 気候変動の懐疑論・否定論|江守正多
1.5 気候はどう変わってきたのか|木野佳音
   ●コラム1.5 地球史における人間活動の位置づけ (人新世)|木野佳音
 
2 気候、生態、社会というシステム
2.1 気候システム|羽角博康
2.2 生態システム|羽角博康
2.3 人間システム|杉山昌広
 
3 気候と社会の将来シナリオ
3.1 気候の変化を「予測」するとは?|渡部雅浩
   ●コラム3.1 地球システムモデルとは|河宮未知生
3.2 社会変化のシナリオと気候変化をもたらす「強制力」|渡部雅浩・鈴木健太郎・藤森真一郎
   ●コラム3.2 放射エネルギーと放射強制力|鈴木健太郎
   ●コラム3.3 統合評価モデル|藤森真一郎
3.3 地球温暖化の理論とシミュレーション|渡部雅浩
3.4 工業化以降現在までの気候変化|小坂 優
3.5 21世紀末またそれ以降の将来の気候変化|岡 顕
3.6 カーボンバジェット|河宮未知生
 
4 気候変動の人間社会と生態系への影響と適応策
4.1 影響と適応の考え方|芳村 圭
   ●コラム4.1 影響評価手法群|芳村 圭
4.2 各セクターでの影響評価・適応策|伊藤進一小西祥子瀧本 岳村山顕人森田健太郎山崎 大
 
5 気候変動の緩和策
5.1 GHGの排出構成 (世界と日本の比較)|杉山昌広・瀬川浩司
   ●コラム5.1 「カーボンニュートラル」/「正味 (ネット) ゼロ排出」/「脱炭素」|江守正多
5.2 エネルギーシステム|杉山昌広・瀬川浩司
5.3 各部門で有効な緩和オプション|杉山昌広・瀬川浩司
5.4 CO2以外のGHG対策|杉山昌広・瀬川浩司
5.5 CO2除去|杉山昌広・瀬川浩司
5.6 緩和策の総合評価|杉山昌広・瀬川浩司
   ●コラム5.2 エネルギー安全保障と温暖化対策|杉山昌広・瀬川浩司
   ●コラム5.3 SRM (太陽放射改変)|杉山昌広
 
6 気候変動緩和政策と持続可能な開発
6.1 なぜ政策が必要か|成田大樹
6.2 国内政策|杉山昌広・倉持 壮
   ●コラム6.1 脱炭素への社会技術システムの移行 (トランジション)|城山英明・杉山昌広
6.3 国際枠組み|亀山康子
6.4 気候変動と持続可能な開発|佐藤 仁額定其労
   ●コラム6.2 気候訴訟|額定其労
   ●コラム6.3 気候市民会議|三上直之
 
7 わたしたちに何ができるか?
7.1 個人の変化とシステムの変化|江守正多
7.2 では、わたしたちにできることは何か?|江守正多

関連情報

書籍紹介:
【座談会】「気候変動と社会」刊行にあたって (東京大学 気候と社会連携研究機構 2024年11月28日)
https://utccs.u-tokyo.ac.jp/news/%e3%80%90%e5%ba%a7%e8%ab%87%e4%bc%9a%e3%80%91%e3%80%8c%e6%b0%97%e5%80%99%e5%a4%89%e5%8b%95%e3%81%a8%e7%a4%be%e4%bc%9a%e3%80%8d%e5%88%8a%e8%a1%8c%e3%81%ab%e3%81%82%e3%81%9f%e3%81%a3%e3%81%a6/
 
「脱炭素化技術ELSIプロジェクトのメンバーが編集・執筆した、気候変動の教科書が東京大学出版会から出版されました」 (citizensassembly.jp 2024年7月30日)
https://citizensassembly.jp/activities/975
 
動画:
【気候変動・日本の議論が足りない】東京大学教授・江守正多/人間活動による気候変動「疑う余地ない」/気候変動とイノベーションー豊かさに?/気候変動... (PIVOT|YouTube 2024年8月15日)
https://youtu.be/6aJg0nZhPlQ?si=qRIpWRcNaP0rRgSH
 
関連イベント:
「クローズアップ現代トークショー~気候変動と地球のミライ~」 (主催: NHK、東京大学気候と社会連携研究機構 2024年12月13日)
https://utccs.u-tokyo.ac.jp/news/20241213_nhk_%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e3%80%8c%e3%82%af%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%82%ba%e3%82%a2%e3%83%83%e3%83%97%e7%8f%be%e4%bb%a3%e3%83%88%e3%83%bc%e3%82%af%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%bc/

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