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書籍名

精神論抜きの地球温暖化対策 パリ協定とその後

著者名

有馬 純

判型など

259ページ、ソフトカバー

言語

日本語

発行年月日

2016年10月27日

ISBN コード

9784885554711

出版社

エネルギーフォーラム社

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精神論抜きの地球温暖化対策

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2015年のCOP21 (第21回気候変動枠組条約締約国会合) においてパリ協定が採択されました。1992年に署名された気候変動枠組条約から23年が経過し、その間、地球温暖化問題に対する国際的枠組みも進化を遂げてきました。1997年に採択された京都議定書は先進国のみが削減目標を義務付ける片務的なものであり、この結果米国の離脱を招く一方、中国等の新興国の排出量急増もあいまって地球温暖化防止にはほとんど効果がありませんでした。こうした反省に立って京都議定書第1約束期間 (2008年~2012年) 終了後、2020年までの枠組としてカンクン合意が2010年に成立しました。これは先進国、途上国が温室効果ガス削減・抑制目標を策定する全員参加型の枠組みであり、それまでの先進国・途上国二分法に基づく京都議定書からの歴史的転換となりました。しかしカンクン合意は2020年までの枠組であることから、2011年から2020年以降の枠組みの交渉が始まり、熾烈な国際交渉を経て2015年のパリ協定採択に到ります。カンクン合意と同様、パリ協定も先進国、途上国を問わず温室効果ガスの削減・抑制のための目標を設定するという全員参加型の枠組となりました。しかしパリ協定の採択をもって地球温暖化交渉が妥結したわけではありません。パリ協定を実際に動かすためには多くの具体的なルールや手続きを決めねばなりません。このためパリ協定採択後も詳細ルール交渉が続くことになります。
 
本書は2015年に出版した「地球温暖化交渉の真実 - 国益をかけた経済戦争」(中央公論新社) の続編ともいうべきものであり、パリ協定ができるまでの交渉経緯、パリ協定の逐条解説と今後の詳細ルール交渉に関わる論点、パリ協定の評価と世界の脱炭素化に向けた見通しについて記述しました。
 
また京都議定書では日本、米国、EUの削減目標数値が法的義務になったのに対し、パリ協定交渉では各国の目標設定、報告、レビュー、改定というプロセスが法的義務焦点となりました。このため目標設定とそのための施策は国内政策上の課題となります。本書では2030年に2013年比26%減という日本の温室効果ガス削減目標の評価、削減目標の裏づけとなるエネルギーミックスにおける原子力の位置づけ、炭素税・排出量取引といった炭素価格に関する考え方、長期の革新的技術開発の役割等、パリ協定の下での国内対策についても論じています。
 
「地球温暖化交渉の真実」と併せ、地球温暖化問題に関心をもつ方にご一読いただきたいと思います。

 

(紹介文執筆者: 公共政策大学院 教授 有馬 純 / 2019)

本の目次

はじめに

第1章 COP21への長い道のり
気候変動枠組条約の採択
京都議定書の採択
ポスト2013年交渉の開始
カンクン合意の成立
ポスト2020年交渉の開始
 
第2章 COP21に向けての争点
地球温暖化交渉の難しさ
多様な交渉グループの存在
争点1: 約束草案に法的拘束力を持たせるのか
争点2: 長期目標をどう書き込むか
争点3: 「共通だが差異のある責任」をどう反映させるか
争点4: 透明性フレームワークに差異化を持ち込むか
争点5: 市場メカニズムを盛り込むか
争点6: 資金援助の主体を先進国のみとするのか
争点7: 途上国への定量的資金援助目標を定めるか
争点8: ロス&ダメージを含めるか
 
第3章 COP21はどう進んだのか
COP21の会場はこんなところ
交渉テキストの状況
パリ委員会の設置と閣僚レベルファシリテーターの任命
議長テキストの主要な争点
議長最終案の提示とパリ協定の採択
 
第4章 COP21はなぜ成功したのか
米国、中国の前向き姿勢
議長国フランスの不退転の決意
合意を欲した途上国
国連プロセスの信頼確保
京都議定書ファクターの不在
フランスの会議運営の巧みさ
交渉官も人の子
 
第5章 パリ協定で何が決まったのか
パリ協定のエッセンス
パリ協定の目的 (第2条)
緩和 (第4条)
市場メカニズム等 (第6条)
ロス&ダメージ (第8条)
資金援助 (第9条)
技術開発・移転 (第10条)
透明性 (第13条)
グローバルストックテーク
発効要件
番外: 高効率石炭火力技術の輸出をめぐって
 
第6章 パリ協定をどう評価するか
すべての国が参加する枠組みの成立
現実的なボトムアップ型のプレッジ&レビュー
プレッジ&レビューの実効性は今後の設計次第
日本の優れた技術の海外普及を
長持ちする枠組み
全体としてはやや途上国寄り
野心的な温度目標は将来の火種に
大幅削減のカギは革新的技術開発
科学の不確実性を直視せよ
 
第7章 世界は脱炭素化に向かうのか
脱炭素化に向かうことは確実
脱炭素化に向けた投資家の動き
共有されなかった世界の排出削減目標
地球温暖化が唯一の政策課題ではない
米国大統領選の影響
英国のEU離脱の影響
EUの地球温暖化対策への影響
ナショナリズム、内向き志向と地球温暖化懐疑論
脱炭素化への道は単純ではない
 
第8章 26%目標達成のカギは原子力
なぜ2013年が基準年として選ばれたのか
日本の約束草案は容易に達成できるのか
日本の約束草案の野心レベルは欧米に比して低いのか
原子力なしで、より野心的な目標が出せるのか
石炭火力を排除すべきなのか
26%目標をめぐる4つのシナリオ
26%目標は天から降ってきたものではない
2020年の目標通報時は要注意
 
第9章 長期戦略と長期削減目標
80%目標は世界全体の削減目標とパッケージ
2050年40~70%減の不確実性
見直すべきであった80%目標
80%削減のイメージと経済影響
地球温暖化対策を実施すれば経済成長につながるのか
80%目標は中期目標の議論にも影響
長期戦略イコール長期削減目標ではない
 
第10章 地球温暖化防止に取り組むならば原子力から目をそらすな
地球温暖化防止と原子力
地球温暖化交渉と原子力
地球温暖化防止に真剣ならば原子力の新増設が必要
原子力を取り巻くボトルネック
原子力発電所新増設に必要なのは政治的意思
原子力と世論
 
第11章 長期戦略の中核は革新的技術開発
エネルギー環境イノベーション戦略の策定
イノベーション環境の整備
選択と集中だけで十分か
既存技術への補助と革新的技術開発へのリソースバランス
国際連携の可能性
日本らしい長期戦略を
 
第12章 炭素価格論について考える
炭素価格とは何か
明示的炭素価格
暗示的炭素価格
炭素価格の導入状況
炭素価格に関する国際的議論
炭素価格に関するこれまでの国内議論
炭素価格議論は国際競争力の問題と切り離せない
「日本には炭素価格がない」というのは誤り
日本で排出量取引を導入すべきなのか
排出量取引は自主行動計画よりも優れているのか
電力排出量取引を導入すべきか
大型炭素税を導入すべきか
明示的炭素価格の経済効率性
現実的な政策パッケージを
結びにかえて
参考資料 パリ協定採択に関するCOP決定及びパリ協定全文

関連情報

著者インタビュー:
現実的なエネルギー政策の議論を (webVoice 2020年6月4日)
https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/7499
 
地球温暖化問題に真剣に取り組むために ― 一人ひとりがリテラシーを高めることが必要 ― (『原子力文化』2019年11月号)
https://www.jaero.or.jp/data/03syuppan/genshiryokubunka/interview/201911.html
 
経産省官僚から、人を育てる大学人に。「プラグマティック」に地球の未来を考える。| UTOKYO VOICES 047 (東京大学ホームぺージ 2019年3月20日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/voices047.html
 
精神論抜きの地球温暖化対策――パリ協定とその後 (新電力ネット 2016年10月27日)
https://pps-net.org/book/24477
 
書評:
おすすめ書籍 精神論抜きの地球温暖化対策 パリ協定とその後 (日商Assist Biz 2016年12月1日)
https://ab.jcci.or.jp/article/31901/

 

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