東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

真っ赤な地球の写真

書籍名

地球温暖化交渉の真実 国益をかけた経済戦争

著者名

有馬 純

判型など

246ぺージ

言語

日本語

発行年月日

2015年9月

ISBN コード

978-4-12-004769-5

出版社

中央公論新社

学内図書館貸出状況(OPAC)

地球温暖化交渉の真実

英語版ページ指定

英語ページを見る

異常気象の頻発、グレタ・トウーンベリさんの学校ストライキ等、温暖化問題に対する関心が世界的に高まっています。国際的な温暖化防止の枠組みとしてパリ協定が2015年のCOP21 (第21回気候変動枠組条約締約国会合) で採択されましたが、温暖化問題に対する国際的な取り組みは1992年の気候変動枠組条約採択にまで遡ります。その後、1997年の京都議定書採択、2010年のカンクン合意採択と、パリ協定に至るまでには長い国際交渉の積み重ねがありました。
 
地球温暖化問題は人類起源の温室効果ガス排出に起因する世界レベルの外部不経済問題ですが、その解決は容易ではありません。温室効果ガス排出と経済活動は密接にリンクしており、ある国で温室効果ガスを削減しようとすれば必然的に経済コストがかかる一方、温室効果ガス削減の便益は地球全体で共有されることになります。これは必然的にフリーライダーを生みやすい構図となり、温室効果ガス削減負担を国際的に合意することは非常な困難を伴います。米国のブッシュ政権が2001年に京都議定書から離脱し、2017年にトランプ政権がパリ協定からの離脱を表明したのも米国と中国を初めとする途上国の間の削減負担のアンバランスを理由とするものでした。このように温暖化交渉は地球環境保全のための環境交渉であると同時に、各国の国益が熾烈にぶつかる経済交渉でもあります。圧倒的多数を占める途上国は地球温暖化をもたらした先進国の歴史的責任を追及し、先進国の重い削減義務と途上国への手厚い経済支援を要求します。他方、先進国は今後の排出量増大は途上国から発生するのだから、先進国も途上国も削減努力を行わねばならないと主張します。温暖化交渉の歴史は先進国と途上国の厳しい対立の歴史でもありました。
 
筆者は経産省時代に京都議定書に基づく市場メカニズムの細目ルールの交渉、京都議定書第1約束期間 (2008年~2012年) に続くポスト2012年の枠組交渉に交渉官として参加し、各国の利害の対立を経験しました。特に2010年のCOP16では京都議定書第2約束期間参加問題が大きなイシューとなり、日本政府を代表して「いかなる状況、条件の下でも京都議定書第2約束期間には参加しない」と表明する役割を担いました。これを含め、筆者のCOPへの参加はこれまで15回にのぼります。本書は2015年秋に出版されましたが、筆者のそれまでの温暖化交渉経験を踏まえ、パリ協定交渉に至るまでの交渉の流れと各局面において日本政府は何を目指して戦ってきたのか、COP21では何が交渉されるのか、日本としてどう臨むべきか等についての考え方を記しました。地球温暖化問題に関心を持つ方に是非お読みいただければと思います。

 

(紹介文執筆者: 公共政策大学院 教授 有馬 純 / 2020)

本の目次

第1章 京都議定書交渉の敗北からの出発
第2章 温暖化交渉への参戦
第3章 米国の議定書離脱と苦い教訓
第4章 ポスト議定書枠組交渉の胎動とバリ行動計画
第5章 KPの首席交渉官に
第6章 二度の中期目標発表とコペンハーゲンへの道のり
第7章 COP15の失敗とコペンハーゲン合意
第8章 カンクンへの道のり
第9章 COP16と第二約束期間との決別
第10章 温暖化交渉はなぜ難航するのか
第11章 「環境先進国」EUの苦悩
第12章 ポスト2020年枠組交渉の開始
第13章 COP21で何が争われるのか
第14章 温暖化交渉に日本はどう臨むべきか

 

関連情報

2015年度エネルギーフォーラム優秀賞受賞

このページを読んだ人は、こんなページも見ています