東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黒い表紙、赤い地球の図と著者の近影

書籍名

人新世の「資本論」

著者名

斎藤 幸平

判型など

384ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月17日

ISBN コード

9784087211351

出版社

集英社

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人新世の「資本論」

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「人新世」という地質学区分は、ここ半世紀ほどで人類の経済活動の痕跡が地球全体を覆い、そのあり方を根本から変えた事態を指す。人類の圧倒的な力は、世界中の森林を開拓し、地下資源を採掘し、化石燃料を大量消費した。そして、急速な経済成長を遂げたのである。だが、逆説的にも、人新世は気候変動や種の絶滅などの不可逆的な変化を引き起こし、文明的生活そのものを脅かすようになっている。
 
人新世の危機は、資本主義の急速な発展と連動している。資本主義が経済成長を求め、グローバル化を推し進める過程において、安い労働力や原料、エネルギー、食料を使い潰してきたのである。その矛盾は、しばしばグローバル・サウスへと外部化されてきたかが、地球は有限であり、無限の経済成長を求め続ければ、その矛盾はグローバル・ノースも含めた惑星全体で顕在化することになる。
 
惑星の危機を前に、本書が引き合いに出すのは、ドイツの思想家カール・マルクスの『資本論』である。もちろん、過去のドグマを繰り返すためではない。本書はMEGAと呼ばれる新しい『マルクス・エンゲルス全集』で刊行されつつある新資料を手がかりにして、最晩年のマルクスの思想を大胆に再解釈する。それが、「脱成長コミュニズム」というポスト資本主義社会の姿である。
 
これまでは、マルクスは近代化を賛美してきた生産力主義で、ヨーロッパ中心主義の思想家として繰り返し批判されてきた。それに対して、晩年のノートを読み解くことで、これまでとはまったく異なるマルクスの理論を描き出したことに、本書の独自性はある (より学術的な論文として、Marx in the Anthropocene: Towards the Idea of Degrowth Communismがケンブリッジ大学出版から刊行されている)。
 
そのような独自のマルクス研究を基礎として、気候変動に代表される現代の環境危機についての批判的分析を行い、その上で、目指すべきオルタナティブ社会の姿を描いたのが本書だ。一見すると地味な草稿やノートといった一次資料の学術研究を通じて、人文系の本としては稀な50万部に迫る売上げを記録し、「新書大賞2021」や「アジアベストブックアワード2021」を受賞するような一般向けの議論を展開したことは、近年、なかなか日の当たらないマルクスを研究する者として嬉しく思っている。現在、韓国語とスペイン語の翻訳が出ているが、すでに英語やドイツ語、中国語などの翻訳も決まっている。
 
今後もますますひどくなっていく気候変動を前にして、本書が気候正義運動を少しでも前に進めるための一冊となることを願っている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 斎藤 幸平 / 2022)

本の目次

はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
 
第1章 気候変動と帝国的生活様式
気候変動が文明を危機に / フロンティアの消滅――市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義
 
第2章 気候ケインズ主義の限界
二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない
 
第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
なぜ資本主義では脱成長は不可能なのか
 
第4章 「人新世」のマルクス
地球を〈コモン〉として管理する /〈コモン〉を再建するためのコミュニズム / 新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス
 
第5章 加速主義という現実逃避
生産力至上主義が生んだ幻想 / 資本の「包摂」によって無力になる私たち
 
第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
貧しさの原因は資本主義
 
第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
コロナ禍も「人新世」の産物 / 脱成長コミュニズムとは何か
 
第8章 気候正義という「梃子」
グローバル・サウスから世界へ
 
おわりに――歴史を終わらせないために

関連情報

受賞:
新書大賞2021 (中央公論新社)
https://chuokoron.jp/shinsho_award/archive/2021.html
 
年間最優秀図書賞 (アジア・ブックアワード2021)
https://asiabookaward.org/award_book_01_03_eng/
 
書評:
Adam Powell 評  “Kohei Saito blames capitalism for climate chaos”  (Socialist Party 2022年11月16日)
https://www.socialistparty.org.uk/articles/104327/16-11-2022/book-review-capital-in-the-anthropocene/
 
Ulv Hanssen 評  (Marx & Philosophy Review of Books 2022年7月18日)
https://marxandphilosophy.org.uk/reviews/20369_hitoshinsei-no-shihonron-capital-in-the-anthropocene-by-kohei-saito-reviewed-by-ulv-hanssen/
 
加藤好一 評「『人新世の「資本論」』/『カール・マルクス「資本論」(100de名著)』 (斎藤幸平著)」 (『社会運動』443号 pp.80-82 2021年7月)
http://cpri.jp/4802/
 
武田信照 評 (『唯物論研究』155号 pp. 162-165 2021年5月)
https://kiho-yuiken.jimdofree.com/
 
瀧田薫 評 (NEWSつくば 2021年4月6日)
https://newstsukuba.jp/31088/06/04/
 
大澤真幸・竹内洋・堤未果・瀧澤文那・三宅貴久・伊藤健 評「資本主義の暴走と環境破壊を止めろ<新書大賞2021>大賞『人新世の「資本論」』レビュー」 (『中央公論』 2021年3月号)
https://chuokoron.jp/shinsho-award/116816.html
 
斎藤美奈子 評「資本主義を終わらせるための、新しいマルクス」 (『ちくま』 2021年3月号)
https://www.webchikuma.jp/articles/-/2334
 
[好書好日] 本田由紀 評「斎藤幸平『人新世の「資本論」』 SDGsで温暖化止まらず」 (朝日新聞 2021年1月16日掲載)
https://book.asahi.com/article/14115547
 
鮎川ゆりか 評「『人新世の「資本論」』が投げ掛けるものとコロナ後のコモンズ」 (EnergyShift 2021年1月6日)
https://energy-shift.com/news/dcd59ddc-9c4e-47b6-904e-3278245f830d
 
森永卓郎 評「「脱成長コミュニズム」という新ビジョン」 (『週刊ポスト』 2021年1・8号)
https://pdmagazine.jp/today-book/book-review-772/
 
瀧澤弘和 評「「脱成長コミュニズム」へ」 (読売新聞 2020年12月13日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20201212-OYT8T50127/
 
山本圭 評「脱成長コミュニズムという選択肢」 (『群像』 2020年12月号)
https://gunzo.kodansha.co.jp/55737/58925.html
 
森永卓郎 評「「脱成長」こそ矛盾打ち破る」 (東京新聞web 2020年10月11日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/60992
 
自著紹介:
【動画】「著者と考える「人新世の『資本論』」」 (Tokyo College 2121年10月24日)
https://www.youtube.com/watch?v=irYknavC_Pk
 
著者インタビュー:
“‘A new way of life’: the Marxist, post-capitalist, green manifesto captivating Japan”  (The Guardian 2022年9月9日)
https://www.theguardian.com/world/2022/sep/09/a-new-way-of-life-the-marxist-post-capitalist-green-manifesto-captivating-japan
 
“Japanese scholar looks to Marx's theory to explain pandemic, climate change”  (NHK WORLD – JAPAN 2022年2月28日)
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/backstories/1921/
 
「〈私〉は肥大化、いま作る新しい〈公〉 経済思想家・斎藤幸平さん」 (朝日新聞 2021年8月23日)
 
“IT giants' business more feudalism than capitalism, says bestselling Japanese critic”  (The Mainichi 2021年3月31日)
https://mainichi.jp/english/articles/20210529/p2a/00m/0bu/026000c
 
「「脱成長」で危機を乗り越えよ<新書大賞2021>大賞受賞『人新世の「資本論」』斎藤幸平氏インタビュー」 (中央公論.jp 2021年2月10日)
https://chuokoron.jp/shinsho-award/116817.html
 
「斎藤幸平「私たちはコロナ後、元の生活に戻ってはならない」 ”人新世”とは何か?」 (『週刊朝日』 2021年1月1日・8日号)
https://dot.asahi.com/wa/2020122500034.html

「マルクス思想 今こそ 斎藤幸平・大阪市立大准教授」 (読売新聞 2020年12月15日)
 
「著者に聞く 『人新世の「資本論」』 著者・斎藤幸平さん」 (週間エコノミストOnline 2020年10月23日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201103/se1/00m/020/013000c
 
対談・鼎談:
NEW [受付終了 / 当日券は空席がある場合のみ] 斎藤幸平×内田樹×平川克美「移行期を生き延びる思想 経済学批判――行き詰まりの資本主義世界に出口はあるのか」 (隣町珈琲 2023年2月14日)
https://peatix.com/event/3459681

「なぜ、人生に本が必要なのか 三砂慶明氏×斎藤幸平氏 対談」 (集英社新書プラス 2022年4月11日)
https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/interview/misago_saito/17071
 
「斎藤幸平×大澤真幸「脱成長コミュニズムは可能か?」――『なぜ、脱成長なのか』『新世紀のコミュニズムへ』刊行記念対談 (前編)」 (本がひらく | note [代官山 蔦屋書店での対談] 2021年5月28日)
https://nhkbook-hiraku.com/n/nfd3cd8f742f2
 
「斎藤幸平×大澤真幸「脱成長コミュニズムは可能か?」――『なぜ、脱成長なのか』『新世紀のコミュニズムへ』刊行記念対談 (後編)」 (本がひらく | note [代官山 蔦屋書店での対談] 2021年5月28日)
https://nhkbook-hiraku.com/n/n807f12560491
 
「斎藤幸平×白井 聡 未来をつくる選択肢は脱成長しかない」 (『青春と読書』 2021年3月号)
https://www.bookbang.jp/review/article/670677
 
「斎藤幸平×大澤真幸 オンライン対談 人新世の「資本論」」 (オンライン[主催: 朝日カルチャーセンター] 2021年1月23日)
https://www.asahiculture.jp/archive/archives/philosophy/565/
 
「2021年「人新世」時代を語る 内田樹×斎藤幸平」 (『週刊朝日』 2021年1月1日・8日号)
https://dot.asahi.com/wa/2020122500035.html?page=1
 
メディア出演:
【動画】「気鋭の学者・斎藤幸平氏が問う“脱成長”と“コロナ後”」 (「報道1930」BS-TBS公式チャンネル 2021年6月11日放送)
https://www.youtube.com/watch?v=RRLv1-ol_8g&t=1s
 
講演:
NEW [終了] 「コモンズとして考える神宮外苑」 (オンライン [主催: ロッシェル・カップ] 2023年1月13日)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_IModdeSSSnCxpWvJY493dg

「アセンブリーアワー講演会 人新世の「資本論」」 (京都精華大学 2021年7月8日)
https://www.kyoto-seika.ac.jp/lecture/assembly/2021_saitou.html
 
「人新世の危機とSDGsというアヘン」 (慶応MCC 2021年6月18日)
https://www.keiomcc.com/magazine/sekigaku226/

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