外国法訳叢 信托与信托法 (入門信託と信託法)

中国は2001年に信託法を制定した。2010年以降、中国の金融市場は急速に発展してきている。中国の金融市場において数多くの金融投資商品が開発した。その多くの金融投資商品においてほとんどの金融投資商品が信託法を適用することになると言われている。これにより、中国における信託運用の特徴は欧米と異なって多くの場合は商事の分野に使われていることにある。この点は中国と日本が非常に似ていると考えられる。本書は訳書であり、原著作は『信託と信託法』、著者は東京大学の樋口範雄教授 (現在東京大学名誉教授) である。
 
本書の構成と主な内容について、以下のとおりである。第1章は信託とは何か、その中に信託とは信じて託すことと信託と契約を説明した。第2章は人はなぜ信託をするのか、その中に信託が可能にすることと信託発生の歴史を説明した。第3章は民事信託とは何か、その中に民事信託の具体的な形と民事信託の過去と未来を説明した。第4章は商事信託とは何か、その中に商事信託の4類型と商事信託と民事信託の相違を説明した。第5章は信託の変更・終了と受託者、その中に、信託変更の論理への疑問とアメリカの判決及びアメリカの判例が示す日本法への示唆を説明した。第6章は受託者の忠実義務、その中に受託者の義務と忠実義務の特色と忠実義務の問題の具体事例を説明した。第7章は受託者の注意義務、その中に善管注意義務の規定とアメリカのルール (Prudent investor rule) を説明した。第8章は受託者のその他の義務、その中に自己執行義務が消えた理由、分別管理義務の意味、公平義務、情報提供に関連する義務を説明した。第9章はその他の重要な論点、その中に目的信託、限定責任信託、旧信託法36条問題を説明した。第10章は信託の将来、その中に、信託の広がり、信託法理の広がり等を説明した。第11章はその後の信託と信託法、その中に、信託の伸び悩み、信託をめぐる事件、高齢社会と信託等を説明した。
 
本書の特徴について比較欧米法の視点からして体系的に日本の信託制度の理論と実践を検討するものであるため、貴重な研究書でもある。本書は、法律出版社による計画・出版している「外国信託法訳叢」の日本信託法の代表書として出版された。中国に出版された後、中国において評価されている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 特任教授 朱 大明 / 2022)