中国の経済が急速に発展・拡大していく中で、1990年代の後半以降、支配株主問題が発生した。すなわち、支配株主とその意を受けた会社経営者による巨額な会社資産の不正取得、会社の利益収奪、少数株主の利益侵害等の社会を驚愕させる重大な企業不祥事が頻発し、数多くの裁判が提起されたのである。このような支配株主による会社財産・利益の侵奪を支配株主問題という。
支配株主問題は、中国の経済市場に対する国内外の投資家の信頼を損なうおそれがあるとして重大な問題として位置づけられ、2005年中国会社法では、支配株主問題に対し、
(1) 支配株主による株主権の濫用禁止、会社・会社経営者に対する影響力の濫用禁止、これに違反した場合の会社・少数株主に対する損害賠償義務、(2) 会社経営者の忠実義務・善管注意義務(勤勉義務)の強化、これに違反した場合の会社・少数株主に対する損害賠償義務、(3) 上記の損害賠償責任の追求手段としての株主代表訴訟、(4) 支配株主の議決権濫用により成立した株主総会決議の瑕疵を争う訴訟の導入等に関する規定を設けた。
支配株主の規制は会社法における重要な問題となる。異なる国は支配株主の規制に対して異なる方法を採っている。中国では、上記したように、2005年会社法の改正により20条と21条を新設して支配株主の権利行使及びその影響力の行使を規制した。支配株主問題に対応し、支配株主とその意を受けた会社経営者の横暴を抑制するため、相当に完備された制度体系が構築された。
一方で、日本においては、古くから親会社による子会社支配、創業家一族による会社の私物化等の支配株主問題の存在が指摘され、支配株主の横暴に対処するための解釈論・立法論が提示されていたが、本格的な立法上の手当てはなされていない。
本書は、日本と中国を比較するうえで、日中両国の法制度や法理念を詳細に説明した。本省の編成について、以下のとおりである。第一章:序論、第二章:中国支配株主規制の歴史沿革、第三章:支配株主の規制、第四章:支配株主の民事責任を追及する手段、第五章:支配株主議決権濫用を防止する手段、第六章:結語。本書の内容について、支配株主の権利濫用禁止義務 (中国会社法20条1項)、支配株主の影響力の不正行使禁止義務 (中国会社法21条1項) を最も重要な部分として法解釈の方法により条文に基づき詳細に検討した。中国の会社法における支配株主規制は特別の立法モデルとして「支配株主権利濫用の立法モデル」と呼んでも良いかもしれない。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 特任教授 朱 大明 / 2022)
本の目次
第一节控制股东的规制与公司法
第二节控制股东问题的现状
第三节控制股东问题产生的背景
第四节日本公司法的实践与现状
第五节本书的目的与内容
第六节控制股东问题与少数股东的对策
第七节公司法中对少数股东的救济
第八节本书的内容、顺序、前提、用语
第二章我国控制股东规制的历史沿革 (第二章 中国支配株主規制の歴史沿革)
第一节清末的《钦定大清商律》
第二节中华民国时代的公司法
第三节中华人民共和国成立之后的状况 (至1993年公司法制定前)
第四节中华人民共和国成立以后的状况 (1993年公司法制定以后)
第五节小结
第三章控制股东的规制 (第三章 支配株主の規制)
第一节控制股东问题
第二节控制股东的行为规范
第三节公司经营者的行为规范
第四节控制股东规制中的问题与解决路径
第五节控制股东滥用股东权
第六节日本公司法中的控制股东规制
第七节日本公司法的立法进展
第八节小结: 控制股东行为规制的特征
第四章追究控制股东责任的手段 (第四章 支配株主の民事責任を追及する手段)
第一节股东代表诉讼
第二节股东直接诉讼
第五章防止控制股东滥用表决权的手段 (第五章 支配株主議決権濫用を防止する手段)
第一节股东大会决议的撤销之诉
第二节股东大会决议的无效之诉
第三节股东大会决议的不成立之诉
第四节董事违法行为的停止请求诉讼
第五节小结: 我国股东大会决议瑕疵诉讼制度的特点
第六章结尾 (第六章 結語)
第一节本书的总结与观点的整理
第二节日本法对我国法制度建设的启示
附章美国法中控制股东信义义务的本义与移植的可行性
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