
書籍名
現代アメリカ文学ポップコーン大盛
判型など
376ページ、A5判、並製
言語
日本語
発行年月日
2020年12月
ISBN コード
978-4-86385-431-4
出版社
書肆侃侃房
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
本書は8名のアメリカ文学研究者による共著であり、主に21世紀のアメリカ文学から様々な作家や作品やジャンルを取り上げ、現代文学の動向を明らかにすることを目指したものである。今世紀に入っても変化を続けるアメリカ社会は、文学にどのように描かれているのか、文学は社会のなかでどのような役割を果たしているのか、「書く」という行為は、どこで、どのような者が担っているのか。そもそも、文学とは文字に限定される表現なのか。文学をめぐるこうした問いを、作家や作品の紹介と読解にとどまらず、執筆者の個人的経験と物語をあわせて記述するなど、多彩なアプローチから浮かび上がらせている。
「アメリカ」を描き出そうとする作家たちの試みは、19世紀から変わることなくアメリカ文学の基盤であり続けてきた。古典アメリカ小説の続編を書こうとするベテラン作家による試みから、新進気鋭の作家がテロの時代を描く小説まで、文学から浮かび上がるアメリカの姿は、過去と現在と未来がせめぎ合う場となっている。
その一方で、今世紀という現在に的を絞り、さまざまな問題に光を当てようとする作家たちの活動もまた、アメリカ文学においては重要な役割を果たしている。新自由主義経済によって広がる格差、「ブラック・ライヴズ・マター」運動を生んだ人種差別、マジョリティがマイノリティに見せる過度な共感による物語の収奪といった問題は、ときに突き放したような皮肉、ときに露悪的な挑発として、読者の前に現れる。
今日において、文学の創作は、大学をはじめとする何らかの制度との連携を抜きには語れない。大学院創作科、大学主催のワークショップといったイベントが世界各地で開催され、小説家や詩人や翻訳家や研究者が集うハブとなっている。その現場に参加しての考察もまた、現代文学が持つ主題や形式の多様性を理解する助けになるだろう。
2010年代に大きなうねりとなった#MeToo運動をはじめとして、現代のアメリカではジェンダーについての議論が進み、あるいは保守的な反発を生みもした。そのようななかで、「男性」の自己イメージや「女性」の身体は、どのような言語表現と結びついているのか。アメリカ作家たちの試みは、日本語作家たちの活動とダイレクトに響き合っている。
一方で、ミュージシャンであるボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことに見られるように、「文学」の定義を積極的に広げていこうとする動きも、今世紀の特徴のひとつである。グラフィック・ノベルという表現形式のみならず、映像というメディアによる「フィクション」を論じていくことも、文学批評において重要な分野になっていくだろう。
翻訳は、映像化とならんで二次的な創作とみなされることが多い。しかし、21世紀においては、「世界文学」という視点の登場もあり、創作における翻訳の重要性は大きな注目を集めている。そうした潮流のなか、英語と他言語はいかなる関係を結ぶのか、時代における翻訳者の役割は何か、といった問いもまた、文学研究の今後の可能性を示している。
こうした多様な問いを、各執筆者がそれぞれの視点から持ち寄り、紙面で一種の対話を行っている。それに加えて収録された座談会においては、陰謀論やポスト・トゥルースといった時代の空気における「フィクション」はどのような意義を持つのかという問題を検討している。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 藤井 光 / 2022)
本の目次
執筆者紹介
CHAPTER 1
現代アメリカ文学のおもしろさ
ひげを生やしたハックとトム──ロバート・クーヴァー『西部のハック』(里内克巳)
蚊が語るアフリカ100年の人間模様──ナムワリ・サーペル『オールド・ドリフト』(里内克巳)
竜の風と共に去りぬ──ル=グウィン遺稿『ゲド戦記』真の最終章「Firelight」を読む(青木耕平)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/na3726e12b8d5
人はテロリストに生まれるのではない──カラン・マハジャン『小さな爆弾たちの連合』あるいは我らの時代(青木耕平)
取り残された人たちへの回路──ルシア・ベルリンの作品をめぐって(日野原慶)
ルイーズ・グリュック──「わたし」と対峙する詩人(吉田恭子)
CHAPTER 2
浮かび上がるアメリカ社会
“America” feat. Elvis Presley, 2018 Remix(藤井 光)
アウトソースされた苦しみ──ふたつの短編小説から(藤井 光)
切り離されるもの──リン・マー『断絶』をめぐって(藤井 光)
スティル・ナンバー・ワン・アメリカン・サイコ──ブレット・イーストン・エリス、9年ぶりの帰還(青木耕平)
ウェルカム・トゥー・(ポスト)エンパイア──B.E.エリス『ホワイト』part 2(青木耕平)
本日限定のセール──21世紀の暴力とゾンビ文化と翻訳と(藤井 光)
『ビラヴド(愛されし者)』から『アンべリード(葬られぬ者)』へ──ジェスミン・ウォードとアメリカの10年(青木耕平)
文学を成功作と失敗作に分けてみよう──リチャード・グレイが提唱するフィクションの好ましきあり方(矢倉喬士)
分断されたアメリカにようこそ──T.ジェロニモ・ジョンソンの小説(里内克巳)
CHAPTER 3
世界中を旅しながら
九龍に充実するオルタナティヴなリアル──香港バプテスト大学国際作家ワークショップ滞在記1(吉田恭子)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/n7ad199e9a2df
三首の女子がスペキュラティヴ・フィクションをスペキュレイトする──香港バプテスト大学国際作家ワークショップ滞在記2(吉田恭子)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/n80b588f5efe5
コルソン・ホワイトヘッドの基調講演中は日本庭園を回遊していました──ポートランドAWP19参戦記(吉田恭子)
哲学者と文学者を同じ部屋に2日間閉じ込めてみた──ラトガース大学翻訳ワークショップ報告(吉田恭子)
CHAPTER 4
魅力的な作家たち
居心地のわるい読書──ハニャ・ヤナギハラ『あるささやかな人生』(加藤有佳織)
こわかわいい創造の物語──モナ・アワド『バニー』(加藤有佳織)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/n176065335fbb
3日目のアザの色みたいにきれいだ──パトリック・デウィットによる4つの小説(加藤有佳織)
オレンジのブックリスト──ジェイク・スキーツの詩集とシェリー・ディマラインの小説(加藤有佳織)
ともだちのともだち──ジェニファー・クレイグ『ポット始めました』とシークリット・ヌーネス『友だち』(加藤有佳織)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/n2772669e3310
「素描」を書く者、「素描」を読む者(藤井 光)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/na44485c229a9
「生き延びる」とは何か、「俺たち」とは誰か(藤井 光)
残像に目移りを──ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』におけるスローモーションの技法(矢倉喬士)
孤独な人のための文学──ピーター・オーナーのささやかな世界(里内克巳)
CHAPTER 5
フェミニズムとアメリカ文学
#MeToo時代のクリエイティヴ・ライティング(吉田恭子)
ダメ男のレガシーを語る女たち──パートI:アレグザンダー・ハミルトンの場合(吉田恭子)
ダメ男のレガシーを語る女たち──パートII: ラフカディオ・ハーンの場合(吉田恭子)
ゆがんだカラダ、ひびく声──カルメン・マリア・マチャドの小説(日野原慶)
ショーン・ペンよ、ペンを置け──“史上最悪”のデビュー作『何でも屋のボブ・ハニー』(青木耕平)
ガールズ・パワーからホラーへ──クリステン・ルーペニアンによるポスト・トゥルース時代の小説戦略(矢倉喬士)
本でできた虹の彼方へ──レインボー・ブックリスト(佐々木楓)
文学の不気味の谷を越えて──メレディス・ルッソの『イフ・アイ・ワズ・ユア・ガール』(佐々木楓)
CHAPTER 6
FATをめぐるものがたり
FATをめぐるものがたり(1)──『ダイエットランド』と、あるひとつの解放宣言(日野原慶)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/nd216d38f357e
FATをめぐるものがたり(2)──ふとっていることの語源学(エティモロジー)と物語学(ナラトロジー)(日野原慶)
★試し読みはこちら
https://note.com/kankanbou_e/n/n3b19c8d78f09
FATをめぐるものがたり(3)──『飢える私』と「残酷な」世界(日野原慶)
FATをめぐるものがたり(4)──『ミドルスタイン一家』と『ビッグ・ブラザー』における家族と身体(日野原慶)
CHAPTER 7
文学は文字だけではない
文字は文字ではいられない──英語授業でグラフィック・ノベルを教える(矢倉喬士)
君、バズりたまふことなかれ──沈黙を取り戻すグラフィック・ノベル『サブリナ』(矢倉喬士)
スケートリンクから宇宙の果てへ──ティリー・ウォルデン『スピン』『陽光に乗って』(里内克巳)
あ・・・・・・ありのまま今起こったことを話すぜ!──ドラマ『13の理由』シーズン3で人は誰しも被害者と加害者の側面を持つという作風への批判が相次いだかと思ったら、いつのまにかオルタナ右翼が映画『パシフィック・リム』を理想的な世界とみなしている事実に気づかされていた(矢倉喬士)
ソーシャル・ネットワークと文学──アダム・ジョンソン『フォーチュン・スマイルズ』/「ニルヴァーナ」(日野原慶)
タイラー・ダーデンふたたび、みたび──『ファイト・クラブ2』そして『ファイト・クラブ3』(青木耕平)
トランプのいない世界の風刺──『サウスパーク』の受難(青木耕平)
お目醒めはほどほどに──『デトロイト ビカム ヒューマン』における保守的ジェンダー観と人種表象について(矢倉喬士)
CHAPTER 8
翻訳とは何か?
英語を壊すお・も・て・な・し──多和田葉子の『献灯使』とマーガレット満谷の『The Emissary』の翻訳術(矢倉喬士)
柴田さんと村岡さん──『ハックルベリー・フィンの冒けん』の新しさ(里内克巳)
詩人のように翻訳し、翻訳者のように創作せよ──パートI:翻訳とアイスランド語の未来(吉田恭子)
詩人のように翻訳し、翻訳者のように創作せよ──パートII:アメリカ手話の翻訳詩を「読んで」みる(吉田恭子)
COLUMN
文学の現場はどこにあるのか──イギリスからみた文学創作(吉田恭子)
座談会「正しさの時代の文学はどうなるか?」
加藤有佳織×柴田元幸×藤井光×矢倉喬士×吉田恭子
あとがき
おわりに(矢倉喬士)
関連情報
『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』を読みながら聴きたい音楽をまとめたSpotifyのプレイリスト (本書執筆者選) (Spotify)
https://open.spotify.com/playlist/4m6LFeEByHhejc39oRvL1n
著者インタビュー:
時間をかけて他人の言葉に身を委ねる「表現としての翻訳」とは – 藤井光インタビュー (ANTENNA 2021年6月21日)
https://antenna-mag.com/post-53249/
青木耕平氏インタビュー「なぜカニエ・ウェストは人種差別的な小説に惹かれた? 現代アメリカ文学が描く“時代”を気鋭研究者が徹底分析!」 (『日刊サイゾー』 2020年12月28日)
https://www.cyzo.com/2020/12/post_263355_entry.html
書評:
倉本さおり 評 (『ダ・ヴィンチ』2023年3月号 2023年2月6日)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322202000308/
巽孝之 (慶應義塾大学教授) 評《アメリカ文学がいかに多様なエネルギーを爆発させてきたかを語り尽くす》 (『みすず』2023年1・2月合併号 2023年2月1日)
https://www.msz.co.jp/book/magazine/202302/
吉田恭子 評「大波小波 #Metoo時代の作品価値」 (『東京新聞』 2022年5月17日)
(『工場管理』3月号 2022年2月21日)
https://pub.nikkan.co.jp/book/b10023064.html
栗原裕一郎 評「3冊の本棚」 (『東京新聞』朝刊 2022年2月19日)
藤ふくろう 評「新刊めったくたガイド」 (『本の雑誌』3月号 No.453 2021年2月9日)
https://www.webdoku.jp/mettakuta/fuji_fukuro/20210316080001.html
https://www.webdoku.jp/honshi/2021/3-210204123535.html
冨塚亮平 評「「アメリカ」と「文学」の枠組みを揺さぶり再構築する刺激的な営為――現代アメリカ文学をめぐる「名前の育て方」の新たな回路」 (『図書新聞』第3494号 2021年5月1日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3494
書籍紹介:
(慶應義塾大学文学部英米文学専攻巽ゼミ OBOG会 公式ホームページ 2021年2月6日)
http://www.tatsumizemi.com/2021/02/popcorn.html
おすすめの本 (ほぼ日刊イトイ新聞 2020年12月19日)
https://www.1101.com/pl/kemonomichi/statuses/367670
「世の中が変わるときに読む本」 (『BRUTUS』No.930 2020年12月15日)
https://brutus.jp/magazine/issue/930/
イベント:
『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』(書肆侃侃房)刊行記念イベント 青木耕平さん×加藤有佳織さん×日野原慶さん 「現代アメリカ文学ポップコーン大盛、渋谷でおかわり!」 (TWO VIRGINS 2021年3月21日)
https://popcorn-shibuya.peatix.com/