東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

青と緑のグラデーションの表紙

書籍名

Studies in Economic History A History of Maritime Trade in Northern Vietnam, 12th to 18th Centuries Archaeological Investigations in Vandon and Phohien

著者名

Yuriko Kikuchi

判型など

289ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2021年10月22日

ISBN コード

978-981-16-4632-4

出版社

Springer Singapore

出版社URL

書籍紹介ページ

英語版ページ指定

英語ページを見る

筆者は、20年以上にわたりベトナム北部 (大越国) の港遺跡において考古学調査を実施し、その研究成果を博士論文としてまとめるとともに、専門書『ベトナム北部における貿易港の考古学的研究――ヴァンドンとフォーヒエンを中心に』(雄山閣) として出版しました。本書は、その英訳書です。
 
東アジアや東南アジア、そしてこれらの国々に囲まれた南シナ海は、東西交易における交易品の生産地であり、いわゆる「海のシルクロード」の東端として重要な交易圏を形成していました。とりわけインドシナ半島の東岸を占めるベトナム沿岸部では、各地に港が開かれ、香辛料や香木、絹、陶磁器、銅銭などの商品が海域アジアの港へと運ばれていきました。これらの港遺跡や海底遺跡では、長い航海のなかで破損し投棄された陶磁器片が、朽ちることなく現代まで残存しています。
 
貿易港は、国内外の生産地と消費地を結ぶ流通の結節点であり、同時に海外からもたらされた物資が、さらに海外へと運ばれる流通のハブ拠点でもあります。ゆえに、港遺跡から出土する陶磁器、特に中国や日本、タイ、ベトナムなどの貿易陶磁器が海域アジア交易史を考察するうえで多弁であることは、過去の研究成果からもゆるぎないものとなっています。歴史学の分野において、大いに成果が期待されている考古学研究課題の一つなのです。
 
本書前半では、本書が主に扱うベトナム陶磁器について李朝 (11~13世紀) から黎朝 (15~18世紀) までの各王朝期に生産された製品についてまとめています。大越国・陳朝 (13~14世紀) は、中国・元朝に次いで青花磁器の生産を開始しており、黎朝期には東西交易ルートに乗ってエジプトまで運ばれていました。次に、大越国が設置した港の遺跡であるヴァンドン (雲屯) や、華人街の港遺跡フォーヒエン (舗憲) での発掘調査の成果について報告し、出土したベトナムや中国、日本の陶磁器様相から、港としての盛衰の歴史を考察しています。
 
後半では、ベトナムのみならず日本や東南アジア各地の消費地遺跡で出土した貿易陶磁器や銭貨なども提示し、生産と流通、その先にある消費とを結びつけることで、海域アジアの交易ネットワークにおいて大越国の各港が出会貿易、中継貿易の場であったことを論じました。また、大越国の陶磁器輸出や対外交易政策についても、各王朝ごとにその変遷を考察しています。
 
本書は、これまでベトナムではバラバラに研究されてきた生産・流通・消費の各段階をグローバルヒストリーの枠組でとらえなおしています。港を軸として海域アジアで動いていたモノを相互に関連づけ大越国の交易の様相を探る考古学研究であり、これまで、主に文献史料から組み立てられてきた海上交易研究に対する歴史考古学の一つの到達点を提示しています。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 助教 菊池 百里子 / 2022)

本の目次

Preface
 
Acknowledgments
Contents
About the Author
 
1 Introduction
2 Ceramic Production in Ðai Viet
3 Archaeological Investigations in the Van Ðon Region
4 Archaeological Investigation of Pho Hien
5 Trade from the Ly to Tran Dynasties
6 Trade of the Le Dynasty Early Period
7 Trade of the Le Dynasty Warlord Period
8 Conclusion
 
Bibliography
 
Index

関連情報

原著:
菊池百里子『ベトナム北部における貿易港の考古学的研究――ヴァンドンとフォーヒエンを中心に』雄山閣、2017年。
https://www.yuzankaku.co.jp/products/detail.php?product_id=8341
 
書評:
Georgi Asatryan and Jack Kalpakian 評 (International Journal of Maritime History Vol. 35 (1) 2023年)

Lien Thi Le 評 (Journal of Maritime Archaeology 2022年12月21日)
https://link.springer.com/article/10.1007/s11457-022-09347-y

このページを読んだ人は、こんなページも見ています