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黒い表紙、鳥のステンドグラス

書籍名

ALS Occasional Papers series no. 25 Christianity in Scottish Literature

判型など

340ページ、並製

言語

英語

発行年月日

2023年

ISBN コード

978-1-908980-37-3

出版社

Scottish Literature International

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本書は、スコットランド文学とキリスト教の諸宗派の複雑な絡み合いを解明しようとするものです。詩人のヒュー・マクダーミッドの言葉にある「我々の多様なスコットランド、無限のスコットランド」のことです。この文学評論集はスコットランド文学学会の新刊であり、気鋭の研究者15人が各章を寄稿。スコットランドの初期のキリスト教修道院から現代までの、スコットランド文学史全体にわたるテクストを分析しています。スコットランドで書かれた作品、そしてスコットランドについて国外で書かれた作品も、宗教の核心的問題を多彩な表現で提起してきました。それは、宗教が持つ意義は何かということです。
 
スコットランドの中世キリスト教は巡礼や信仰の聖地を拠点としていました。おそらく最も重要だったのはアイオナ島でしょう。この時代のテクストは修道生活に関するものが多く、宗教儀式を中心とし、修道士や修道女を日々の礼拝に促すものでした。聖コルンバや聖マーガレット (スコットランド王妃) らは神聖性と権力ゆえにあがめられ、その生涯については驚くほどの逸話があり、祈りに応えて奇跡を起こしたと生き生きと語られています。
 
近代初めまでには、確固たる信仰の場というものはなくなりました。作品の題材は修道院から宮廷に変わり、そこでは洗練された詩人たちが存在の不確実性について思慮をめぐらしていました。宗教改革後、スコットランド教会は対立する複数の会派に分裂し、各派が独自の儀式形態をスコットランドの民衆に執拗に、時には暴力的に押しつけようとしました。何百年にもわたって唱えられ、体系化されたラテン語の祈りの言葉ですら土着のスコッツ語に書き換えられました。
 
1707年にスコットランドとイングランドが合併すると、教会の権威はさらに揺らぎました。作家や詩人はスコットランドのナショナル・アイデンティティを求め、確たるヒューマニズムと急進的な政治行動を結びつけはしましたが、制度化されたキリスト教には深い疑念を呈しました。19世紀までには、教養あるスコットランドの人々は、世界とその中でのスコットランドの位置付けについて理解を深めてくれる新しい作品を求めていました。教会での説教は空疎な美辞麗句であり、見かけだけのジェスチャーだと批判され、作家たちはゴシック小説やファンタジー小説を手がかりに、自分たちの深層の疑念や不安を描き出そうとしました。
 
懐疑は20世紀スコットランド文学の特徴と言えます。普及したキリスト教が崩れて懐疑主義が広がり、多元的な社会が生まれました。詩人や小説家は教会を公然と否定し、精神的な意味を別のところで探そうとしました。ある者にとって、それは仏教の無我思想に向かうことでした。中世キリスト教を再生させ、聖人を崇敬することだと考えた者もいました。また、キリスト教以前の思想、つまり、ポストモダン世界の環境破壊に対して英知を授けてくれる聖なる井戸や妖精の丘を大切にすることに意味を見出した者もいました。
 
本書の各章が示しているように、スコットランド文学を通じてスコットランドのキリスト教を考えることは、万華鏡を覗くようなものです。単一のイメージなどなく、動きと輝きが次々と変わり、不完全な全体が映し出されます。マクダーミッドに言わせれば、「望遠鏡の反対側から神」を見るようなもので、無限なるものが一瞬に集約されもします。スコットランドにとって、キリスト教はもはや存在の問題に対する唯一の解ではないかもしれませんが、答えは見つかるという希望をスコットランド文化の奥深くに残しています。
 

(紹介文執筆者: グローバル教育センター 特任講師 ジョン・パトリック・パズディオーラ / 2023)

本の目次

Acknowledgements
Introduction: The Wrong End of a Telescope (John Patrick Pazdziora)
 
1. Relic, Text, and Practice in Adomnán of Iona’s Vita Sancti Columbae (Duncan Sneddon)
2. ‘Mater Sanctissima’: Sanctity and Motherhood in the Miracula of St Margaret of Scotland (Claire Harrill)
3. Liturgy and Literature in Late Medieval Scotland: Continuity and Discontinuity (David Jasper)
4. Post-Reformation Developments in Kirk Attitudes to Scottish Theatre (Ian Brown)
5. Eccentrics as Spokespersons for Tobias Smollett on Religion (J. Walter McGinty)
6. A Working-Class Poet from the Eastern Border: Robert Davidson (1778–1855) (Barbara Bell)
7. Walter Scott’s Religious Discourses (J. H. Alexander)
8. ‘The Sermon Pump’: Failed Preachers in George MacDonald’s Fiction (John Patrick Pazdziora)
9. Margaret Oliphant in a Land of Death: Representations of Other-Worlds in Nineteenth-Century Scottish Writing (Rebecca McLean)
10. ‘If Heaven is a’ that man can dream’: Religion and Scottish Poetry of the First World War (Silvia Mergenthal)
11. Approaching God in Scottish Renaissance Poetry (Dominique Delmaire)
12. George Mackay Brown and the Disenchantment of Orkney (Linden Bicket)
13. A Post-Religious Incarnation in Alan Warner’s Morvern Callar (Mike Kugler)
14. Edwin Morgan’s Last Things: Eschatology and his Post-Millennial Poetry (James McGonigal)
15. God, War, and the Faeries: Mentoring and Carrying Stream in Writing Poacher’s Pilgrimage (Alastair McIntosh)
 
Notes on contributors
Index
Biblical References

関連情報

書評:
Ruth M. DUNSTER 評 (『Theology in Scotland』30:1 pp. 87–92 2023年)
https://doi.org/10.15664/tis.v30i1.2584
 
招待講演 :
「‘God, through the Wrong End of a Telescope’: Christianity in Scottish Literature」 (United Diocese of Glasgow and Galloway [スコットランド] 2022年5月19日)
https://youtu.be/p-NQ872NYQw?si=QH6GiaeFBLeCBtKw

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