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白い表紙に黄色の円形の模様

書籍名

「戦前歴史学」のアリーナ 歴史家たちの一九三〇年代

著者名

歴史学研究会 (編)、 加藤 陽子 (責任編集)

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年6月7日

ISBN コード

978-4-13-023082-7

出版社

東京大学出版会

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「戦前歴史学」のアリーナ

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本書は1932年に創立された歴史学研究会〔以下、歴研と略記〕と、1933年に創刊された会誌『歴史学研究』〔以下、『歴研』と略記〕の90周年を記念するために編まれた論文集である。2022年12月18日開催の記念シンポジウムの登壇者による8本の論考と、歴研の各部会を代表する執筆者による5本のコラムからなる。創立時の歴研と黎明期の『歴研』について、1930年代の多様な歴史学の興隆、新たな担い手らの誕生という、歴研をとりまく内外の学界状況や時代状況をふまえつつ検討したのが本書である。
 
タイトルの「アリーナ」には、円形の闘技場や劇場を客席が取り囲む原義のイメージに加え、社会の置かれた客観的情勢と歴史家の実践的働きかけ、その双方があって初めて生み出される「歴史学のアクチュアリティ」に立ち会う場所という意味が込められている。同じくタイトル中の「戦前歴史学」が含意するものには、その前提として「戦後歴史学」がある。歴研や『歴研』が用いる「戦後歴史学」の意味としては、おおよそ、(1) 発展段階や階級闘争を軸とする法則的理解、(2) 民主革命と民族革命を目指した歴史学、(3) 民衆史・社会史・国民国家論といった諸潮流が生成する根幹をなす歴史学、の3通りの意味があった。「戦後歴史学」が上述の意味で用いられてきたとすれば、それと対極のものとして無意識に意味内容を与えられてきた「戦前歴史学」像について、実際に『歴研』に書かれた論考や歴研を支えた人物像に焦点を当てて実証的に探った。
 
各章の内容を簡潔に紹介しておきたい。第1章の加藤陽子論文は、近代天皇制の転換期に当たっていた1930年代初頭の歴研について、「正しき批評と正しき紹介」こそが歴史学に必須のものだとした羽仁五郎を中心に論じた。第2章の井上文則論文は、世界史への志向性を強く持った歴史家「宮崎市定」の誕生を描く。宮崎は、当時流行であった歴史哲学・唯物史観・文化史とは距離を置き、西アジアの重要性に焦点を当てた。当時の歴研が、全国規模の歴史家の集まりであり、歴史家で会員でない方が珍しい学会だったとも位置づけた。第3章の佐藤雄基論文は、専門家集団としての学会としての歴研や学術誌としての『歴研』を史学史的に意義づけた論考である。第4章の馬場哲論文は、1930年前後の内外の社会経済史学の発展過程を、日本における社会経済史学会の創立と対比させつつ明確にした。
 
第5章の小嶋茂稔論文は、歴研創立を中心的に担った、三島一(みしまはじめ)志田(しだ)不動(ふどう)麿(まろ)、鈴木俊、野原四郎ら東京帝国大学文学部東洋史学出身者の研究や事績について初めて本格的に解明した論考である。第6章の昆野伸幸論文は、実際の『歴研』誌面を読みこむことで、歴研と平泉澄双方が互いにどのように言及しあっていたかを明らかにした。「編輯後記」などではさかんに平泉を批判していた『歴研』だったが、大正期における平泉の実証研究に対しては高い評価を与えていたことがわかる。第7章の舘葉月論文は、日本人にとって馴染みの深いM・ブロックを通じての『社会経済史年報』(『アナール』)理解ではなく、論争的筆致で知られるフェーヴルから、歴研創立頃のフランス歴史学界の動向を論じた。第8章の前田亮介論文は、1930年代の『歴研』が近い過去を扱う現代外交史学のメッカだったとの創見を打ち出している。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 加藤 陽子 / 2026)

本の目次

まえがき(加藤陽子)

1 一九三〇年代の歴史学の「刷新」と黎明期の『歴史学研究』(加藤陽子)
 一 本書の目的
 二 「戦前歴史学」の地平から逆照射される「戦後歴史学」
 三 歴史学研究会設立の意義と時代状況
 四 『歴史学研究』の新しさ
 五 忘れられた戦前歴史学の担い手
 六 責任という観点から「編輯後記」を読む

[コラム1]確かな「一隅」を築く試み(戸邉秀明)

2 宮崎市定の誕生――一九三〇年代の軌跡(井上文則)
 一 西洋史家を惹きつけた宮崎
 二 京大助教授、出征と留学――一九三〇年代の宮崎
 三 宋代史から世界史へ――一九三〇年代の研究
 四 「宮崎市定」を産み出したもの
 五 常識に基づく歴史学

3 一九三〇年代の歴史系学会と史学史ブーム(佐藤雄基)
 はじめに――学会の史学史を考えるために
 一 学会・学術雑誌の史学史
 二 創立期の歴史学研究会と「学界」
 三 史学史の諸構想
 むすびにかえて――戦前史学史の可能性

[コラム2]昭史会の野郎ども(木下竜馬)

4 社会経済史学会の創立と一九三〇年前後の社会経済史研究(馬場 哲)
 一 はじめに――社会経済史学の宿命
 二 欧米における社会経済史学の成立
 三 日本における社会経済史学会の創立
 四 一九三〇年前後の社会経済史研究――経済学と歴史学のはざまで
 五 おわりに――戦後、そして現在

5 戦前東洋史学の展開と歴史学研究会の創立者群像(小嶋茂稔)
 一 歴史学研究会の創立と東洋史学
 二 創立前後の歴研と東大東洋史学科
 三 歴研創立期の東洋史学
 四 志田不動麿の苦闘
 五 その後の志田とその中国認識

[コラム3]一九三〇年代の『歴史学研究』にみる地方郷土史家へのまなざし(古畑侑亮)

6 歴史学研究会と二つの皇国史観――平泉澄・吉田三郎を中心に(昆野伸幸)
 一 歴史学研究会と平泉澄・吉田三郎
 二 平泉史学と歴研
 三 歴研と吉田三郎
 四 皇国史観の誕生と定着

[コラム4]「戦前歴史学」における軍事史・戦争史研究の一側面――原種行の研究を例に(三澤拓弥)

7 両大戦間期フランス歴史学界における危機と刷新――L・フェーヴルの視点から(舘 葉月)
 一 一九三八年の歴史学界――リュシアン・フェーヴルによる総括
 二 第一次世界大戦と新世代の歴史家たち
 三 歴史への攻撃――ポール・ヴァレリー v.s.歴史家たち
 四 一九三〇年代の『アナール』の実践

[コラム5]黎明期の西洋史部会――その課題と取り組み(十川雅浩)

8 「左派外交史学」の曙光――一九三〇年代日本のマルクス主義史家たち(前田亮介)
 はじめに
 一 両大戦間期における外交史批判の噴出
 二 「新しい外交史学」をめぐる羽仁・服部の相克
 むすびにかえて

あとがき(下村周太郎)
 

関連情報

書籍紹介:
識者が選んだ、この一年の本
酒井哲哉 (東大名誉教授) (みすず書房『読者アンケート2023』 2024年2月16日)
https://www.msz.co.jp/book/detail/09689/
 
新刊寸描 (『日本歴史』第905号 2023年10月号)
https://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b10044178.html
 
真崎隆文  (『読売新聞』 2023年7月13日)
 
シンポジウム:
歴史学研究会創立90周年記念シンポジウム 「戦前歴史学」のアリーナ ―1932:歴研が生まれた頃― (歴史学研究会委員会 2022年12月18日)
https://rekiken.jp/seminar/symposium/

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