
書籍名
文化財の不正取引と抵触法
判型など
274ページ、A5判変形
言語
日本語
発行年月日
2024年2月25日
ISBN コード
9784797233551
出版社
信山社
出版社URL
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本書は、国境を越えて不正に取引された文化財に巡る国際民事紛争において、抵触法上、採られるべき処理方法について検討することを通じ、グローバル・ガバナンスのために抵触法が果たすべき役割を探ることを目的とする。なお、抵触法 (Conflict of Laws) とは、複数法秩序に関連を有する私法上の法律関係に関し、(1) 適用される法 (準拠法) や、(2) 紛争解決を行う権限(国際裁判管轄)を有する地を決定し、外国裁判所が判決を下している場合、(3) 外国判決の承認及び執行の可否について判断する法分野を指す。
文化財の不正流出という課題に関して、国際レベルでは、盗難文化財等を元の国 (由来国) に返還するための枠組み作りが行われてきた (例えば、UNESCOの「文化財の不法な輸出、輸入及び所有権移転譲渡を禁止し及び防止する手段に関する条約」(1970年))。だが、国際的な枠組みは、その適用範囲や適用条件が限定的であることもあり、満足のいくものとは言い難い状況にある。
そこで重要となるのが、本来の所有者 (国家や私人) が、現在の占有者に対し、文化財が所在する国の裁判所において返還請求を行うという方法である。日本では、これまで外国文化財の返還等が問題となった裁判例は存在しないが、近時、諸外国の裁判例及び抵触法立法上、他国の文化財不正流通規制上の政策実現に対し、好意的な態度を示す動きが生じており、注目される。
以上の背景から、本書では、(1) 文化財の返還請求に適用される準拠法、(2) (原告が外国国家である場合) 外国国家による文化財不正流通規制 (外国公法) に基づく請求の可否、及び、(3) ある文化財に関する私人間での契約が、ある国家の文化財不正流通規制上の取引制限規定等に反するとして、契約の無効が争われる場合の当該規制の取扱い、という3つの問題について検討する。
本書の特色は、国境を越えた文化財の不正取引という上述した問題を、グローバル化の下での抵触法の機能変化という観点から検討する点にある。本書は、従来、私的利益の保護に重きを置いてきた抵触法のあり方を改め、グローバル・ガバナンス (共通目標に従い、集団的行動を通じて、グローバルな経済・社会を統御するプロセス) というより広い視座から、その役割を再検討すべきであると主張する。この「グローバル・ガバナンスとしての抵触法」という視座は、文化財の不正取引だけでなく、他のグローバルな課題 (例えば、途上国における人権侵害に対する企業の法的責任等) にも応用可能であるという点で、本書は個別テーマに限定されない、より一般的な学術的意義を有すると考える。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 加藤 紫帆 / 2024)
本の目次
◇ 問題の所在
◆第I部◆ 文化財の不正流通規制
◆第1章 各国国内法
第1節 発掘に関する規制
一 国有財産とする法制度
1 エジプト
2 ペルー
3 メキシコ
4 トルコ
5 イタリア
二 私的所有を原則とする法制度―我が国を例として
第2節 譲渡に関する規制
一 私法上の譲渡規制を行う法制度
1 国有財産に関する規制
2 私有財産に関する規制
二 私法上の自由処分を尊重する法制度―我が国を例として
第3節 輸出に関する規制
一 輸出規制を行う法制度
1 自動的没収
2 行政官庁による手続を経た没収
二 輸出規制を行わない法制度―我が国を例として
第4節 小 括
◆第2章 国際的な枠組み
第1節 国際レベルでの枠組み
一 ユネスコ条約(1970年)
1 条約の成立に至る経緯
2 条約の構造
3 国内執行状況
4 学説上の議論
5 小括
二 ユニドロワ条約(1995年)
1 条約の成立に至る経緯
2 条約の構造
3 評価
4 小括
三 ユネスコ及びユニドロワのモデル条項(2011年)
1 モデル条項の作成に至る経緯
2 モデル条項の内容
3 学説上の若干の議論―小括として
第2節 EUにおける枠組み
一 背景
二 EU規則
三 EU指令
1 中心的な規定
2 2014年改正
3 小括
第3節 小 括
◇ 第I部の議論の位置づけ(第I部小括)
1 第I部における議論の整理
2 学説上の議論
◆第II部◆ 抵 触 法
◆第3章 各国の裁判例・立法・学説
第1節 返還請求が問題となる場合
一 返還請求一般に関する問題
1 裁判例
2 抵触法規則・学説
二 外国国家等による返還請求に固有の問題
1 裁判例
2 学説
第2節 返還請求以外の請求が問題となる場合
一 裁判例
二 抵触法規則・学説
1 抵触法規則
2 学説
三 小 括
第3節 小 括
◆第4章 検 討
第1節 グローバル・ガバナンスのための抵触法
一 抵触法の新たな機能を巡る議論
1 Robert Waiの見解
2 Alex Millsの見解
3 Horatia Muir Wattの見解
4 Ralf Michaelsの見解
5 小 括
二 考 察
1 グローバル・ガバナンスのための抵触法
2 普遍主義的観点の位置付け
3 抵触法における実質法的価値・政策の位置付け
4 小 括
第2節 文化財の不正取引に対する抵触法的対応
一 抵触法における文化財の位置付け
1 文化財の特徴
2 抵触法上の取り扱い
3 小 括
二 抵触法における具体的処理方法―我が国法秩序を例として
1 文化財の返還請求における法適用
2 外国国家等による返還請求の許容性
3 外国の文化財不正流通規制の効力
第3節 小 括
◇ 結 語
関連情報
新刊著者訪問 第45回
文化財の不正取引と抵触法 著者:加藤 紫帆 (東京大学社会科学研究所ホームページ 2024年7月18日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/kato_2024_07.html