
書籍名
〈負の遺産〉を架け橋に 文化財から問う日本社会と韓国・朝鮮
判型など
304ページ、A5判、並製
言語
日本語
発行年月日
2024年7月
ISBN コード
9784907239725
出版社
ころから
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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日本帝国の侵略を受け植民地となった朝鮮では、重要な文物、貴重な工芸美術品が多く、日本人の手に渡った。これには、支配・被支配の不平等な関係が影響している。また、植民地支配が関係する文化財としては、韓国朝鮮に残る、日本人が自分たちの活動のために作った建造物があり、逆に日本の著名な遺跡の中にも、朝鮮人の強制労働等の歴史が付着したものがある。
こうした〈負の遺産〉は、無邪気に輝かしい過去を称賛する対象とはならない。しかし、そうした〈負の遺産〉に接することは、過ちを繰り返さないことを誓い、犠牲者をともに悼むきっかけを作り出すであろう。また、朝鮮韓国由来の文化財がどのような経緯で日本にもたらされたかを調べ、あるべき場所に戻すことは、歴史にまつわる民族間のわだかまりを解消し、友好に大きく寄与する。あるいは、在日コリアンの歴史に関わる事物を文化財として保存し広く伝えていくことも大きな意義を持つ。
本書ではそのような考えから、植民地朝鮮の文化財をめぐる状況、日本帝国崩壊後の過去清算のための外交交渉、韓国や北朝鮮での文化財政策、在日コリアンの歴史継承の活動と博物館展示等を論じた。その際には、歴史的経緯とともに国際関係論、法令と政策についても、視野に入れている。まず、植民地期に関しては、朝鮮総督府による文化財保護政策が支配の正当化のために行われたこと、民族運動勢力による自民族の文化財保存や歴史顕彰の動きがあったこと、そうした朝鮮人と交流した日本人の活動について明らかにした。朝鮮が解放された後については、1965年に日韓の国交正常化の際の協定でも、不法に持ち出された文化財の返還が義務付けられたわけではなく、文化財返還問題は課題となっていることが指摘される。そして現在の韓国については、植民地期の文化財行政の体系を脱却するために国家遺産基本法を中心とする新たな施策が始まっていること、北朝鮮においては、考古学界・歴史学界における植民地期の認識の克服の努力と南北協力による文化財の保護などの動きが紹介される。このほか、在日コリアンの間での、自民族の文化財を集めた美術館の設立や、歴史を伝える資料館設立の努力についても触れている。
日韓関係・日朝関係について論じた著書は多くあるが、文化財に焦点を当て幅広く論じたものはこれまでなかった。日韓・日朝関係に関心を持つ人びとに参照されることを期待している。また、文化財とは誰のものか、なぜ保存しどう活用すべきかや、植民地・占領地から持ち出された文化財の返還は、近年世界的に注目される課題である。それを考える際にも一助となることを期待している。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 外村 大 / 2024)
本の目次
第2章 国外所在文化財と過去清算としての文化財返還(長澤裕子)
第3章 植民地に生きた人びとと文化財(外村 大)
第4章 日本の植民統治と朝鮮半島の文化財(長澤裕子)
第5章 近代化遺産と植民地の歴史(外村 大)
第6章 在日コリアンの歴史文化の継承(外村 大)
第7章 文化財・文化遺産を架け橋に(長澤裕子)
もう一歩、先へ―学びを深めるための本と博物館リスト
関連情報
第82回 長澤裕子さんインタビュー『〈負の遺産〉を架け橋に~文化財から問う日本社会と韓国・朝鮮』 (Book Lounge Academia | YouTube 2024年10月30日)
https://www.youtube.com/watch?v=S6vA_nPnmno
書評:
両民族がつながり直し友好築く為に (『長周新聞』 2024年9月20日)
http://korocolor.com/news/202409-post-761.html
書籍紹介:
◆下半期読書アンケート◆五野井郁夫 (『図書新聞』3668号 2024年12月21日号)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1734069526802x289148930936799200
講演会:
文化財を通して見る日本社会と韓国・朝鮮 〈負の遺産〉を架け橋に (千代田区立図書館 2024年12月20日)
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20241220-2_195/
書評会:
『〈負の遺産〉を架け橋に』書評会 (東京大学大学院総合文化研究科 グローバル地域研究機構韓国学研究センター 2024年11月23日)
http://www.cks.c.u-tokyo.ac.jp/event_back/pdf/20241123.pdf
関連記事:
(私の視点)市民が取り組む歴史継承 共生の意識、行政は敬意を 外村大 (『朝日新聞』 2024年7月26日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15993972.html