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薄グレーの欧州地図の表紙

書籍名

欧州の排外主義とナショナリズム 調査から見る世論の本質

著者名

中井 遼

判型など

304ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月28日

ISBN コード

978-4-7877-2102-0

出版社

新泉社

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欧州の排外主義とナショナリズム

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本書が意図するのは、ニュースなどで報じられている欧州政治をめぐる人々の意識やその規定要因を、きちんとエビデンスに基づいて理解しましょう、という所にあります。具体的には、右翼政党支持や反移民感情高揚の実態について、明らかにすることが目的です。
 
こういった問いに対して、一般的な新聞やテレビなどでは、貧困に苦しむ人々の怒りの表れだと説明されてきました。しかし、こういった個人的苦境に右傾化の原因を求める議論は、学術的にはあまり明確な根拠がないと否定されることも多く、社会的な俗説と学術的な通説に齟齬がある状況がながく続いていました。
 
本書では、欧州難民危機以降に行われた世論調査のデータをもとに、右傾化や排外主義の台頭は、経済的要因ではなく、文化や慣習、社会規範といった非経済的要因によって強く影響されていることを論じます。前半は基本的に計量分析を中心とした分析ですが、一般向けを意識して書いたため、高度な計量分析は用いていません (具体的にいえば、古典的な重回帰分析までにとどめ、解釈の難しくなる交差項などはあえて入れていません)。
 
さらに、本書では、ヨーロッパ各国を対象に、実際に右翼政党を支持するのはどのような人々なのか、どんな状況が人々の右傾化を促すのか、中道政党がなぜ右傾化するのかを詳しく分析しています。具体的には、フランス、ラトビア、ポーランドを対象とした個別の事例研究や著者自身による世論調査を通じて、右翼政党を支持する人々の背景や、選挙キャンペーンの影響を受けやすい層についても探っています。
 
本書は学術的議論の状況を背景に著したものですが、学術書というわけではありません。社会的関心が高いテーマについて、学術的な視座や手法を通じて、分析するというタイプの書籍です。そのため、学部生にも読むことができるよう意図して書きましたし、皆さん自身がさらに分析を深める第一歩にもなるものだと考えています。
 
日本も徐々に移民国家となりつつあることは、周知のとおりです。東京と地方部では見えている政治や社会の風景がかなり違う、という所も含めて、徐々に欧州社会と似てきたところもあるかもしれません。これからどのような社会を築いていくべきかを考えたり、そのために自分自身が社会を分析できるようになったり、そのための踏み台として本書を活用していただければ著者としてはうれしく思います。
 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 教授 中井 遼 / 2024)

本の目次

序  章
第1章 ヨーロッパの排外的ナショナリズムをデータで見る
第2章 誰が排外的な政党を支持するのか
第3章 誰が文化的観点から移民を忌避するのか
第4章 欧州各国の違いを分析する ― 3パターンの排外的ナショナリズム
第5章 右翼支持者が好む反移民という建物 ― フランス国民戦線支持者のサーベイ実験
第6章 ナショナリストが煽る市民の排外感情 ― ラトビア選挙戦の効果検証
第7章 主流政党による排外主義の取り込み ― ポーランドの右傾化と反EU言説
第8章 非経済的信念と排外主義
 

関連情報

受賞:
第43回 サントリー学芸賞 (政治・経済部門) 受賞 (公益財団法人サントリー文化財団 2021年11月11日)
https://www.suntory.co.jp/news/article/14024-1.html
待鳥聡史 (京都大学教授) 選評
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/202101.html
中井遼 受賞のことば
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/essay/2021_01.html
 
著者インタビュー:
欧州で起きているのは「右傾化」ではない 本質は政治の流動化 (『朝日新聞』 2024年8月6日)
https://www.asahi.com/articles/ASS822QXNS82UPQJ004M.html
 
書評:
五十嵐彰 推薦「人間科学研究科教員が薦める「私の一冊」2025」 (大阪大学大学院人間科学研究科付属未来共創センター 2025年)
https://www.hus.osaka-u.ac.jp/mirai-kyoso/ja/about/recommend/
https://www.hus.osaka-u.ac.jp/mirai-kyoso/ja/about/recommend/watasinoissatsu-2025.pdf
 
荒巻豊志 著『紛争から読む世界史』「反移民感情に「雇用問題は関係ない」 排外主義に結びつく非経済的な要因」 (webVoice 2024年12月26日)
https://voice.php.co.jp/detail/11623
 
[耕論] 右傾化?欧州はいま 堀茂樹さん、中井遼さん、伊藤さゆりさん (『朝日新聞』 2024年8月6日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S16003823.html
 
羽場久美子 (青山学院大学) 評 (『比較経済研究』60巻2号 2023年9月14日)
https://doi.org/10.5760/jjce.60.2_33
 
五十嵐彰 評 (『社会と調査』29号 2022年9月30日)
https://jasr.or.jp/asr/29/
 
秦正樹 (京都府立大学公共政策学部) 評「世論は野党に何を求めているのか?」 (『選挙研究』38巻2号 2022年)
https://doi.org/10.14854/jaes.38.2_20
 
本で読み解くNEWSの深層「レイシズムに立ち向かう」 (日刊ゲンダイDIGITAL 2021年7月13日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/291788
 
犬塚元 評「「模倣の罠」/「権威主義の誘惑」 冷戦後30年の混迷解く見取り図 朝日新聞書評から」 (『朝日新聞』 2021年6月12日)
https://book.asahi.com/article/14370870
 
小泉悠 評: 春休み読書企画 戦争について考える (メールマガジン『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』121号 2021年3月15日号)
https://mypage.mag2.com/ui/view/magazine/162726429?share=1
 
ラジオ出演:
特集「格差や貧困への怒りが右傾化を生むというのは本当か~欧州の排外主義とナショナリズム、その正体とは?」中井遼(北九州市立大学准教授)×荻上チキ×南部広美 (TBSラジオ『荻上チキ・Session』 2021年12月6日)
https://www.tbsradio.jp/articles/47926/
https://www.youtube.com/watch?v=LFXAlvVNEY4
 
イベント・講義・セミナー:
第28回ユーラシア・セミナー「 中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム』をめぐって」 (ロシア・東欧学会 2023年4月1日)
https://www.jarees.jp/plugin/blogs/show/1/90/407
 
模擬講義 (オンライン)「ヨーロッパの民主主義と排外ナショナリズム」 (早稲田渋谷シンガポール校 2022年7月6日)
https://www.waseda-shibuya.edu.sg/activities/activitie/?seq=257
 
新泉社トークイベント「いまどきの右傾化ってなんなんだ?」中井遼 & 遠藤晶久 (Readin’Writin’ BOOKSTORE 2021年9月25日)
http://readinwritin.net/2021/08/11/%E6%96%B0%E6%B3%89%E7%A4%BE%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E3%80%8C%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%A9%E3%81%8D%E3%81%AE%E5%8F%B3%E5%82%BE%E5%8C%96%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AA/

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