東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にライトオリーブグリーンの模様

書籍名

光文社新書 ナショナリズムと政治意識 「右」「左」の思い込みを解く

著者名

中井 遼

判型など

200ページ

言語

日本語

発行年月日

2024年5月30日

ISBN コード

9784334103231

出版社

光文社

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学内図書館貸出状況(OPAC)

ナショナリズムと政治意識

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政治をめぐる様々なラベリングや主張の多様なつながり方について、ナショナリズムという視点を用いながら、実証研究の知見や簡単なデータ比較を通じて、理解を広げ深めることを試みた書籍です。社会が保守化しているとか右傾化しているといった表現が現代のメディアや学問の場でもよく使われますが、それが示す意味は多様であり,国ごとに一定の違いや個性があることを明らかにすることが目的です。
 
たとえば、デンマークで左派政党が反移民的な態度をとったり、東欧では経済的に右派の政党が同時に社会文化的にはリベラルだったり、一部の国々では (かつての日本のように) 左翼層こそがナショナリストだったり、環境主義とナショナリスティックな態度が結びつく国があったり…といった、(一部の人にはおそらく) 意外に思える事例を分析しています。
 
さらに、ナショナリズムという態度にはどのようなものがあるのか、またその態度を強く持つことが民主的な規範を強化するのか、あるいは弱体化させるのかといった問題についても考察しています。本のタイトルは「ナショナリズム」という言葉で始まりますが、実際には副題にある「政治における左翼と右翼とは何か」という問いにも強く焦点を当てています。ちなみに、執筆中の仮タイトルは『政治の左右とナショナリズム』でした。
 
第3章までは、大学で政治学を学んだ/学んでいる学生であれば、一度は耳にする内容が中心です。したがって、専攻している学生にとっては驚きの少ない部分かもしれませんが、各国でどのように政治意識の結びつきが異なるのかという興味深さを感じてもらえれば嬉しいです。第4章から第5章では、最近の事象 (と新しい論文に基づく知見) を取り上げていますので、発見を意外に思ったり、異論や反論を考えるきっかけになるかもしれません。もちろん、政治学や広義の社会科学を専攻していない方にも十分理解できる内容になっています。
 
使用しているデータは主に、誰でもアクセスできる世界価値観調査 (WVS) を基にしていますし、本書ではあえて簡単な相関関係しか提示していません。ですから、興味を持ったり、さらに深く掘り下げてみたい学生がこれをもとにさらなる検証を進めてくれれば嬉しいです。新書ですが、出典も全て明記していますので、元の論文に挑戦してみることもぜひお勧めします。
 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 教授 中井 遼 / 2024)

本の目次

はじめに
第1章 混乱する政治の左右とナショナリズム
第2章 政治的左右とナショナリズムの多様性
第3章 ナショナリズムと政治的左右の結びつき
第4章 ナショナリズムとリベラルな政治的主張
第5章 ナショナリズムと民主主義/権威主義の結びつき
第6章 n度目のナショナリズムの時代に
 

関連情報

書評:
【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書) (月刊Hanadaプラス 2024年6月14日)
https://hanada-plus.jp/articles/1533
 
書籍紹介:
著者と読み直す『ナショナリズムと政治意識』中井遼
「ナショナリズムは、どこにでもへばりつきカメレオンのように姿を変える」 (リクルートワークス研究所 2024年12月16日)
https://www.works-i.com/works/series/book/detail011.html
 
[出版]「ナショナリズムと政治意識」(中井遼著) (『沖縄タイムス』 2024年8月8日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1412082
 
新書・文庫 (『日本経済新聞』 2024年6月22日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO81555640R20C24A6MY6000/
 
関連記事:
中井遼(東京大学)欧州市民の政治意識とEUの行き方-2024年欧州議会選挙と争点の変化を追う (『外交』Vol.86 2024年7・8月号)
http://www.gaiko-web.jp/archives/5398

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