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書籍名

カントの自己触発論 行為から始まる知覚

著者名

中野 裕考

判型など

360ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月1日

ISBN コード

978-4-13-016042-1

出版社

東京大学出版会

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カントの自己触発論

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読むことがそのまま哲学的に考えることとぴったり一致する、そのような仕方で西洋哲学史上の古典中の古典に取り組んだ書物です。数多くの先行研究がある古典に関して、「もう可能な解釈は出尽くした」「これ以上新しい読み方は出てこない」などと言われることがあります。そのような見方に対して、解釈の可能性は無限であることを実証したかった。つまり既存の解釈をかなり根本的なところから刷新するような大規模な読み替えを示したかった。その一方で、専門家がまじめに受け取らないレベルでしか成り立たない、厳密な論証を欠いた可能な読み方の提案では終わりたくなかった。そのためすべての論点に関して、すべての対立見解を十分に説得力ある仕方で退けたうえで、必然性を伴って採用される理解を積み重ねることを旨としました。解釈内容の哲学的実質と斬新さ、および厳密な学問的論証手続き、その両面を妥協せずに貫徹することが、本書の一大目標でした。いま自己採点するなら、85点か90点くらいはつけてもよいのではないかと思います。
 
論じられている内容は、あまり一般受けする話題ではありません。200年前のドイツや50年前の日本ならば、哲学思想に興味ある学生ならリアリティをもって実感できる内容ではあって、知覚や認知の問題に関する原理的に重要なテーマです。ただカントの言葉遣いが人口に膾炙していた時代は過ぎ去り、超訳でもしないかぎりすんなり理解できる言葉にはなっていません。学問的厳密性を貫徹することが目的でしたので、本書は専門家向けの言葉遣いを採用しました。
 
けれども本書は、近代ドイツ哲学の中のカント研究の枠内の、しかも理論哲学、その中でも『純粋理性批判』の弁証論ではなく分析論、という極めて狭い範囲の専門家しか興味をもたないような、重箱の隅をつつく議論に終始するものではありません。カントの『純粋理性批判』はそれ以降の近代哲学の枠組みを整備した画期的な書物で、この枠組みをいかに乗り越えるか、という競争が20世紀後半までの近代哲学を彩ってきました。本書は、この競争に共感しつつもそれに参加するのではなく、乗り越え競争のターゲットにされているものの方を分析することに集中しています。『純粋理性批判』の新解釈を示すことは、カント以降の近代哲学史全体の意味の問い直しを迫ることを意味しています。なぜなら、乗り越え競争のターゲットがお粗末な藁人形にすぎなかったと知られたら、競争の参加者たちの華やかないでたちも色あせて見えてしまうものだからです。200年も続いたあの狂騒はいったい何だったのか、と。
 
西洋近代という、それ自体としては限定された時代と地域が普遍的なモデルとされてきた時期が過ぎ去りつつあります。人類全体を巻き込んだ地球規模の危機的諸問題に取り組むためには、「乗り越える」とは別の仕方でカントの『純粋理性批判』を読める自由を手に入れておく必要がある。『純粋理性批判』をめぐる本書の議論は、こうした大きな文脈における必要に応えるために展開されています。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 中野 裕考 / 2025)

本の目次

序論 「乗り越える」とは別の仕方で
 
第一部 自己触発
第一章 超越論的感性論における自己触発
第二章 超越論論的演繹論における自己触発
第三章 カントのエナクティヴィズム
第四章 現象学の自己触発論との関係――ハイデガー,メルロ=ポンティ,デリダ,アンリ
 
第二部 意識に与えられたものの内容
第五章 概念主義論争におけるカントの位置――ハナとマクダウェルの間で
第六章 「直観の形式」と「形式的直観」――「カント的二元論」の解消
第七章 時間の超越論的観念性
第八章 カントの実在論――観念論論駁
 
第三部 カテゴリーの超越論的演繹
第九章 『純粋理性批判』初版と『プロレゴメナ』の問題点
第一〇章 『純粋理性批判』第二版演繹論前半の証明構造
第一一章 『純粋理性批判』第二版演繹論後半の証明構造
 
結論 行為からはじまる知覚

関連情報

書評:
辻麻衣子 (京都大学) 評 (『日本カント研究』24巻p.140-142 2023年9月4日)
https://doi.org/10.60416/nihonkant.24.0_140
 
御子柴善之 (早稲田大学文学学術院 文化構想学部教授) 評「新しい世代のカント研究のみごとな成果」 (『図書新聞』3511号 2021年9月11日)
https://www.fujisan.co.jp/product/1281687685/b/2158808/
 
鵜澤和彦 (法政大学大学院兼任講師) 評「カント認識論の新たな相貌 演繹論に関して日本語で読める現代最良の注釈」 (『週刊読書人』7/2号 2021年7月2日)
 

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