東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

書籍名

Studies in American Political Development, volume 39, Issue 2 The Second, Selective Reconstruction Administrative Procedures and the Justice Department’s Enforcement of the Voting Rights Act

著者名

HIRAMATSU Ayako

判型など

225–242ページ掲載

言語

英語

発行年月日

2025年8月29日

ISSN コード

0898-588X

出版社

Cambridge University Press

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書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

The Second, Selective Reconstruction

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本稿は、アメリカ政治発展論という政治学の一分野の専門雑誌に掲載された研究論文である。図書では (まだ) ないので、UTokyo BiblioPlazaという場に載せるのにふさわしい成果であるのか、はなはだ自信はない。本国の政治学者を主たる読者と想定して書いたという事情により、この機会を逃したら日本語で弁明をすることは (すくなくともしばらくの間は) できないかもしれない。よってこの段階で研究の経過を紹介することをお許し願いたい。
 
1960年代のアメリカ合衆国で、マルティン・ルーサー・キング牧師が黒人公民権を求めて行進し、リンドン・ジョンソン大統領が新しい法律に署名をして人種差別の撤廃に取り組んだことについては、世界史の教科書のどこかで読んだことがあるだろう。公民権運動は20世紀半ばのアメリカ政治と社会を大きく変えた。エィヴァ・デュヴェルネイ監督の2014年の映画『グローリー 明日への行進 (原題 Selma)』が描くように、投票権法をはじめとする一連の公民権法は、社会運動なしには成立しなかった。
 
ゆえに投票権法に関する既存の研究はアメリカには山のようにあって、主に次のような説明がなされてきた。人種差別の激しかった南部州地域において多くの黒人住民は、合衆国憲法修正条項の規定にもかかわらず19世紀末から投票権の行使を阻まれてきた。投票権侵害を訴える裁判を起こすことは1965年以前にも可能であったけれども、裁判所の差止命令を通じて差別の是正を実現するには、多大なる時間と資金、労力が必要であって効率が悪く、黒人の登録率は遅々として増えなかった。そこで公民権運動家は、連邦司法省が裁判を経ずに行政判断によって有権者登録を代行する新たな法律を制定するよう、大統領に要請した。アラバマ州セルマでの行進を経て、1965年8月に成立した投票権法のもとでは、司法省が有権者登録官や選挙監視人を行政判断で南部州へ派遣することが可能になった。ただしジョンソン大統領は、公民権運動の要求を受け入れはしたものの、ヴェトナム戦争の継続や、「偉大なる社会」計画の策定、また1968年の大統領選挙での再選も同時に狙っていたので、連邦議会の南部民主党議員の政治的な支持を失いたくないと考え、彼らの選挙区では投票権法の執行を控えるよう司法省に働きかけた。
 
上述の説明に私は大筋で納得しかけていたのだが、司法省史料を丁寧に紐解いていくと、違う絵が見えてきた。ジョンソン大統領が投票権法の執行の手を緩めるよう指示したはずの郡で、実際は緩まったどころか、司法省は訴訟と登録官の派遣を重ねて行なっていた。有権者登録官の派遣は、1965年までの政府訴訟で重ねられてきた地道な捜査に基づいて決定されていたのだった。逆に言えば、それまでに提訴や捜査がされてこなかった地域では、投票権侵害が続行し黒人住民が司法省に苦情を申し入れたとしても有権者登録官の派遣対象となることはほとんどなかった。「大統領の政治的忖度」説ではなく、行政手続きの重視により介入に偏りが生じたとするこちらの説明の方が、法を執行した司法省の内実に有機的に合致している。これを視覚化した自作の地図を添えてまとめたのが、本稿である。
 
新しい説明がどの程度確からしいことなのか、また現代政治にどのような影響があるのかについては、ここまで読んで下さった皆様には、できれば本稿やアメリカ政治の他の文献を読んでご自身で判断をしていただきたい。本稿はオープンアクセスになっているので、インターネット接続さえあればどこからでもPDFファイルでダウンロードし読むことができる。地図作成には東京大学空間情報科学研究センターのArcGIS学内ライセンスが、またオープンアクセスにするためには附属図書館の支援が欠かせなかった。この場を借りて謝意を表したい。アメリカにおける投票権法の執行について、またより広くは、法が市民の権利と民主主義を支える際にもたらす可能性と限界について、本稿が国境と言語を超えて何らかの知的貢献ができているのであれば、政治学者としてこの上ない幸せである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 平松 彩子 / 2026)

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セミナー:
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