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「軌道スイッチング」現象を発見 磁気フラストレーション系の基底状態の理解と制御に期待

掲載日:2012年7月6日

遷移金属酸化物などの強相関電子系物質では、電子の3つの属性、即ち、「電荷」・「スピン」・「軌道」の自由度により様々な相転移(秩序化)が起こります。例えば、超伝導や強磁性現象はそれぞれ電荷とスピンの自由度が、ある温度以下で秩序化して起こる量子現象です。

銅鉱物ボルボサイトにおける軌道スイッチング。室温付近において、Cu1イオンのd軌道が高温相(空間群C2/m)のd3z2-r2軌道から低温相(空間群I2/a)のdx2-y2軌道へと変化する

東京大学物性研究所の山浦 淳一助教、岡本 佳比古助教、ヨーラン・ニルセン博士研究員、廣井 善二教授は、物質・材料研究機構の超伝導物性ユニットとの共同研究により、銅鉱物である擬カゴメ格子反強磁性体ボルボサイトにおいて、銅イオンの軌道が劇的に変化する現象を初めて発見しました。2価の銅イオンでは、スピンを担う1個の不対電子が、2種類のd軌道、x2-y2軌道(図中緑色)または3z2-r2軌道(紫色)のどちらかを選択して安定となります。この時、銅イオンを中心とする酸化物イオンの八面体は異なる形に大きく歪みます(ヤーン・テラー歪み)。通常の結晶においては、よほど乱れが大きくない限り、ヤーン・テラー歪みは協調して起こり結晶の対称性を下げて構造相転移を引き起こします。1つの八面体の形状を変化させるには周りのすべての八面体にも協力してもらう必要があるからです。銅イオンの特徴はヤーン・テラー歪みによる安定化エネルギーが極めて大きいため、結晶の存在できる高温度領域においてすでにヤーン・テラー歪みが起こってどちらか一方の軌道が選ばれていることです。

ボルボサイトは不思議な物質であり、高温では図中右のように2種類の軌道が混在しています。ところが室温付近で構造相転移を起こし、図のようにCu1サイトの軌道が3z2-r2軌道からx2-y2軌道へと「スイッチ」することがわかりました。この軌道スイッチングはCu1サイト周りの八面体の形状を大きく変化させます。このような軌道変化を伴う相転移を示す銅化合物は他に例がありません。軌道スイッチングによって銅スピン間の磁気相互作用が変化すると予想されるため、カゴメ格子上のフラストレーション磁性という観点からも興味が持たれています。

プレスリリース

論文情報

H. Yoshida, J. Yamaura, M. Isobe, Y. Okamoto, G.J. Nilsen & Z. Hiroi,
“Orbital switching in a frustrated magnet”,
Nature communications 3 (2012) 860, doi: 10.1038/ncomms1875.
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