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マウスにおける筋萎縮性側索硬化症の遺伝子治療実験に成功 ― 孤発性筋萎縮性側索硬化症の根本治療へ向けた大きなステップ ―

掲載日:2013年10月16日

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は主に中高年に発症する、進行性の筋力低下や筋萎縮を特徴とし、数年の内に呼吸筋麻痺により死に至る神経難病で、有効な治療法はありません。これまで、国際医療福祉大学臨床医学研究センター 郭 伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター 臨床医工学部門 客員研究員)らの研究グループは、ADAR2という酵素がALSの大多数を占める遺伝性のない孤発性ALSの運動ニューロン死に関与していることを突き止めていました。

© teamkwak, 孤発性ALSではADAR2発現低下していることを反映する病態モデルマウスを用いて、ADAR2遺伝子を組み込んだAAV9ベクターをマウスの経静脈的に投与して運動ニューロンに遺伝子を導入した結果、運動症状および進行性の運動ニューロン死の進行が停止し、ALS特異的な病理変化であるTDP-43病理の正常化が確認された。この結果は、AAV9ベクターによる孤発性ALSの遺伝子治療が大いに期待できることを示唆します。

今回、郭特任教授と東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター 臨床医工学部門 山下雄也特任研究員らの研究グループは、自治医科大学 村松慎一特命教授らと共同で、脳や脊髄のニューロンのみにADAR2遺伝子を発現させるアデノ随伴ウイルス(AAV9)ベクターを開発し、このベクターを孤発性ALSの病態を示すモデルマウスの血管に投与したところ、その運動ニューロンの変性と脱落、および症状の進行を食い止めることに世界に先駆けて成功しました。

また、発症前のみならず発症後に投与した場合でもADAR2遺伝子を運動ニューロンに発現させることで死に至る一連の過程を止め、明らかな副作用を生ずることなく、運動ニューロン死による症状の進行が抑えられました。従来、静脈注射により脳や脊髄に遺伝子を導入することは困難とされていましたが、ニューロンのみで遺伝子を発現するAAV9ベクターを用いることで、一度の静脈注射で効果的な量のADAR2遺伝子の発現を長期間持続させることができました。

モデルマウスでの結果ではありますが、孤発性ALS患者でも類似の分子メカニズムが働いていると想定され、今回用いたヒト型ADAR2に治療効果が得られたことからも、同様の方法での遺伝子治療の有効性が期待できます。また、AAV9ベクター自体の安全性は高いことが知られており、今回の改良型AAV9ベクターの安全性を確認し、薬剤の効果が最も得られる用量などが明らかになれば、ALSの治療に道を拓くものと期待されます。従来の遺伝子治療は、稀少性の遺伝性疾患に対する補充療法というイメージが強くありましたが、疾患の分子病態が解明できれば孤発性の疾患でも遺伝子治療が可能であることを示した点でもユニークな研究です。

以上の成果は、「EMBO Molecular Medicine」(9月24日オンライン版)に掲載されました。なお、本研究は科学技術振興機構・戦略的研究推進事業(CREST)研究と厚生労働省・疾病障害者対策研究の支援を受けて行われました。

プレスリリース [PDF]

論文情報

Takenari Yamashita, Hui Lin Chai, Sayaka Teramoto, Shoji Tsuji, Kuniko Shimazaki, Shin-ichi Muramatsu and Shin Kwak,
“Rescue of amyotrophic lateral sclerosis phenotype in a mouse model by intravenous AAV9-ADAR2 delivery to motor neurons”,
EMBO Molecular Medicine Online Edition: 2013/9/24 (Japan time), doi: 10.1002/emmm.201302935.
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