制限酵素がDNAを切断する新しい仕組み DNAグリコシラーゼ活性を持つ制限酵素の発見
DNA の塩基配列を操作する遺伝子組み換えは、薬の大量生産や正常な遺伝子を患者さんに補充する遺伝子治療などで利用されている技術です。この技術には、特定の塩基配列を認識して二本鎖のDNA を切断する酵素群(制限酵素)は欠かせません。DNA は、塩基に糖とリン酸が結合し直鎖状に連なった構造を持ち、これまで制限酵素は、糖とリン酸の間の結合(ホスホジエステル結合)を切断する(エンドヌクレアーゼ活性)と考えられてきました。
今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の田之倉優教授を中心とする研究グループは、X 線結晶構造解析法とさまざまな分析手法を組み合わせることにより、超好熱古細菌Pyrococcus abyssi由来の制限酵素R.PabI は、DNA 塩基配列中の糖と塩基の間の結合を切断する(DNA グリコシラーゼ活性)酵素であることを見出しました。R.PabI は認識した塩基配列中のアデニンと呼ばれる塩基と糖の切断を触媒し脱塩基部位を生み出します。R.PabI の触媒反応によって生じた脱塩基部位は、熱分解もしくは他の酵素の作用によって切断され、最終的には二本鎖のDNA がバラバラになります。
DNA グリコシラーゼ活性をもつ制限酵素の発見は、本研究によるものが初めてで、今後も同種の酵素が発見される可能性が期待されます。また、本成果は細菌のもつ特定な塩基配列を認識しDNA を分解する機構について、これまでの常識を覆すものです。
本研究の内容は英国科学誌「Nature Communications」1月24日号に掲載されました。
論文情報
Ken-ichi Miyazono, Yoshikazu Furuta, Miki Watanabe-Matsui, Takuya Miyakawa, Tomoko Ito, Ichizo Kobayashi and Masaru Tanokura,
“A sequence-specific DNA glycosylase mediates restriction-modification in Pyrococcus abyssi”,
Nature Communications Online Edition: 2014/1/24, doi: 10.1038/ncomms4178.
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