内なる危険との戦い ネクローシス細胞が引き起こす全身性の炎症応答と代謝異常
生物の発生過程および生命維持過程においては、多くの不要な細胞が、プログラムされた細胞死により除去されます。アポトーシスの機構がうまく働かない場合、周囲に炎症を引き起こしながら細胞が死に至る、ネクローシスが起こります。このネクローシスは、がん、虚血再還流による組織傷害、動脈硬化などさまざまな炎症をともなう疾患の病態にかかわっていることが示唆されています。しかし細胞がネクローシスした場合に、全身がどのように反応しているかはよく分かっていませんでした。
東京大学大学院薬学系研究科の小幡史明特任助教、三浦正幸教授らは、局所的かつ人工的にショウジョウバエの翅の細胞でネクローシスを引き起こすことに成功し、その結果、ショウジョウバエの全身で自然免疫が活性化することを明らかにしました。この活性化を引き金に脂肪体組織で転写因子が活性化し、エネルギーの浪費が引き起こされる一方で、この転写因子はS-アデノシルメチオニン代謝を介してエネルギーの浪費にブレーキをかける仕組みをも発動させることが示唆されました。
局所でのネクローシスによって全身のエネルギー代謝が調節される仕組みは、がんや糖尿病をはじめとした炎症をともなうさまざまな疾患の原因や悪化の制御要因に関与している可能性があり、新規の治療標的となる可能性を示唆しています。またこのショウジョウバエを利用した更なる解析によって、ネクローシスした細胞から放出される物質のうち、免疫応答を引き起こすものを同定することも可能であり、今後の進展が期待されます。
論文情報
Obata, F., Kuranaga, E., Tomioka, K., Ming, M., Takeishi, A., Chen, C-H., Soga, T., and Miura, M,
“Necrosis-driven systemic immune response alters SAM metabolism through the FOXO-GNMT axis”,
Cell Reports Online Edition: 2014/4/18, doi: 10.1016/j.celrep.2014.03.046.
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