毒蝶に似せる擬態の謎 シロオビアゲハのベイツ型擬態の分子機構

東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤原晴彦教授と西川英輝特任研究員らの研究グループは、毒蝶のベニモンアゲハに模様を似せる(擬態する)シロオビアゲハと擬態しないナミアゲハ2種のゲノムを解読し、擬態の原因遺伝子と分子機構を解明しました。
シロオビアゲハ日本では沖縄などに生息する蝶の一種で、雌のみが毒蝶のベニモンアゲハに似せて捕食者をだますベイツ型擬態をします。また、シロオビアゲハの雌には、ベイツ型擬態をするものとしないものがいることがわかっていました。しかしその原因遺伝子や分子機構についてはわかっていませんでした。
シロオビアゲハのゲノムデータの解析から、擬態を生じさせている領域は複数の遺伝子からなる約13万塩基対(130kb)に及ぶ超遺伝子と呼ばれる構造をしており、その中には性分化を制御するdoublesexという遺伝子を含んでいることがわかりました。また、擬態をする雌の超遺伝子の構造は擬態をしない雌と比べて染色体の並びが逆向きになっており、この逆位構造は数千万年前に誕生したと推定されました。さらに、擬態をする雌に由来するdoublesexのみが擬態の紋様を生じさせることがわかりました。
本成果は、蝶などによく見られる「雌に限定されたベイツ型擬態」の謎を解くとともに、超遺伝子の完全な構造と機能を初めて示したもので、進化遺伝学や進化発生学の進展に大きく貢献すると期待されます。
この成果は、イギリスの科学雑誌「Nature Genetics」2015年4月号(47巻4号)に掲載されました。
論文情報
A genetic mechanism for female-limited Batesian mimicry in Papilio butterfly", Nature Genetics Vol 47 2015 p.405-409, doi:10.1038/ng.3241.
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