記憶を正しく思い出すための脳の仕組みを解明 側頭葉の信号が皮質層にまたがる神経回路を活性化
東京大学大学院医学系研究科の宮下保司教授(研究当時)、竹田真己特任講師(研究当時)らの研究グループは、サルが記憶を思い出している際に、認知機能や記憶の中枢として知られる大脳の側頭葉で高次領域から送られる信号によって低次領域の皮質層間にまたがる神経回路が活性化されることを明らかにしました。
これまでの研究により、大脳の後方側面に位置する側頭葉では、視覚の長期的な記憶に関わるニューロン群が存在することは知られていました。しかし、従来はニューロンの活動をひとつずつ計測する手法が一般的であったため、記憶を想起している際に側頭葉の複数の領域にまたがるニューロン群がどのような原理で活性化されるかは明らかにされていませんでした。
本研究グループは、複数の記録チャンネルを持つ電極を使用して側頭葉のTE野の皮質層間の信号を記録し、またより高次の領域である36野からの信号も同時に記録することで、サルが視覚の長期的な記憶を想起している際には、TE野の皮質層間にまたがる神経回路が36野からのトップダウン信号(高次から低次の領域への信号)によって活性化されることが重要であることを明らかにしました。
今回用いた領域間信号と皮質層間信号を同時に記録、解析する手法により、記憶の想起を支える大脳ネットワークの作動原理の解明が進むとともに、視覚的な記憶障害に関わる神経回路の研究が進展すると期待されます。
本研究成果は、2015年4月24日(日本時間)に米国科学誌「Neuron」のオンライン速報版で公開されました。
論文情報
Top-down regulation of laminar circuit via inter-area signal for successful object memory recall in monkey temporal cortex", Neuron Online Edition: 2015/4/24 (Japan time), doi:10.1016/j.neuron.2015.03.047.
論文へのリンク(掲載誌)