「悪魔の階段」現る 放射光の高強度軟X線が映し出した異常なスピン配列
東京大学物性研究所の和達大樹准教授らの研究グループは、エネルギーの低いX線(軟X線)を用いてコバルト酸化物における新しい磁気構造「悪魔の階段」状態を解明しました。目に見えないほど小さい単結晶の磁気構造の詳細を軟X線によって決定した画期的な成果です。
最近の放射光施設における軟X線を用いて物質の構造を明らかにしようとする共鳴軟X線回折測定のめざましい進歩は、薄膜やナノ構造などを含む極小試料における磁気構造(スピンの配列)の決定が可能となるなど、物質科学だけでなく、次世代のデバイスとして期待されているスピントロニクスへの応用が期待されています。中でもスピントロニクスの材料として知られているコバルト酸化物は、これまでその磁気構造が完全には理解されていませんでした。
本研究グループは京都大学やドイツのグループと共同でコバルト酸化物に対し、ドイツの放射光施設BESSY IIにおいて共鳴軟X線回折実験を行い、コバルト酸化物のスピン配列の周期として理論的に考え得る全ての状態が存在し、それらが磁場をかけることにより変化する様子を明らかにしました。加えた磁場とともに何段にも変化する磁気構造の様子は「悪魔の階段」と呼ばれており、コバルトを含む鉄やマンガンなどの物質のスピンの配列では初めての発見となります。
今後、高強度な軟X線による回折実験をさらに進めることで、この「悪魔の階段」状態の他の物質における発見や、より空間分解能を上げた「悪魔の階段」状態のミクロな観測などにより、新しいタイプのスピントロニクス材料の開発につながることが期待できます。
プレスリリース [PDF]
論文情報
Observation of a Devil's Staircase in the Novel Spin-Valve System SrCo6O11", Physical Review Letters 114 (236403-1-5): 2015/06/11 (Japan time), doi:10.1103/PhysRevLett.114.236403.
論文へのリンク(掲載誌)