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物質が結晶化する瞬間をキャッチ! 世界初!予想外の激しいイオンの運動をX線高速ナノ計測

掲載日:2015年12月24日

© 2015 Yuji Sasaki.イオンネットワークを計測するために適応したX線1分子追跡法の通常溶液状態と過飽和溶液状態のモデル図。

過飽和1分子観察のイメージ図
イオンネットワークを計測するために適応したX線1分子追跡法の通常溶液状態と過飽和溶液状態のモデル図。
© 2015 Yuji Sasaki.

東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授らのグループと大阪大学蛋白質研究所の後藤祐児教授らの研究グループは、結晶化直前の過飽和溶液中に激しく運動するイオンネットワークとフェムトニュートンの極微弱な力場が存在することを、X線1分子追跡法を用いることにより明らかにしました。本成果は、過冷却やタンパク質の凝集に関する理解を深めるだけではなく、過飽和溶液中の現象を制御する方法の開発につながると期待されます。

水から氷が析出する現象や、生体内に胆石ができる現象等、液体から固体が現れる析出現象は、食品や医薬、工業製品などの幅広い製品の生産において利用されています。また医療現場においても、タンパク質分子の異常凝集が疾病原因と言われる難病が存在するなど、様々な研究・開発領域に関係する、どこででも起こっている物理化学現象と言えます。この析出過程は、溶解度よりも多くの溶質を含んだ過飽和状態から、結晶核形成によって開始されると理論的に予測されていました。しかし、イオンなどの溶質の微小運動を高精度に、かつ高速に測定できる計測方法がなかったため、これまでその現場を観察した研究はなされていませんでした。

研究グループは過飽和溶液中のイオンの動きを観察することに世界で初めて成功し、結晶核が生成する直前及び瞬間において、従来の予想に反して、イオンが激しく運動をしていることを明らかにしました。また、この激しい運動を大型放射光施設 SPring-8の高輝度白色X線を利用して、超高感度計測法X線1分子追跡法 (Diffracted X-ray Tracking: DXT) により詳しく分析したところ、フェムトニュートン(femto-Newton)という非常に微小な力場が存在していることも確認しました。

「この極めて動的な溶液現象こそ、結晶化せずに溶液状態を保持する重要な物理因子であり、結晶核形成のトリガーであると考えられます」と佐々木教授は話します。「今回の成果は、過飽和溶液状態の根本的メカニズム解明のみならず、過飽和状態の制御や、過飽和現象を利用した新しい材料開発に貢献する可能性があります」と続けます。

なお、本研究は東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程学生の松下祐福、公益財団法人 高輝度光科学研究センターの関口博史博士、同太田昇博士、高エネルギー加速器研究機構の一柳光平博士、東京大学大学院新領域創成科学研究科の池崎圭吾博士との共同で行われたものです。

プレスリリース

論文情報

Y. Matsushita, H. Sekiguchi, K. Ichiyanagi, N. Ohta, K. Ikezaki, Y. Goto, Y. C. Sasaki, "Time-resolved X-ray Tracking of Expansion and Compression ", Scientific Reports Online Edition: 2015/12/14 (Japan time), doi:10.1038/srep17647.
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